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.社会  投稿日:2023/9/10

ジャニーズ事務所、自ら招いたいばらの道


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・会見で、藤島ジュリー景子氏の社長退任と東山紀之の新代表取締役社長就任が発表。

・しかし、社会に事務所再生への意志を確信させたとはとても言えない。

・被害者とどのような「対話」がなされるのか、「法を超えての救済」が行われるのか。

 

ジャニーズ事務所(以下、事務所)が9月7日、都内で会見を行った。4時間超に及ぶ会見では、さまざまな質問が飛び交ったが、事務所の発表と質問に対する回答は、社会に事務所再生への意志を確信させたとはとても言えず、むしろ逆だった。以下、筆者がそう断じる理由を列挙する。

第一に、新社長が所属タレントの東山紀之氏になったことだ。

会見で藤島ジュリー景子氏は、自身の社長退任と新しい代表取締役社長に東山紀之氏が就くことを発表した。しかし、東山氏は事務所の所属の看板最年長タレントであり、ジャニー喜多川氏の性的虐待について知りうる立場だった。その東山氏が社長となって一体何が変わるのか、誰もが懐疑的にならざるを得ないだろう。

▲写真 涙ぐむ藤島ジュリー景子氏(2023年9月7日 東京都・千代田区)出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

また、東山氏には自身のパワハラ、セクハラ疑惑がある。会見でそれが事実かどうか尋ねられ、本人は否定したが、疑惑を持たれている時点で改革に適任とはとても思えない。なぜ外部から人を招かなかったのか、大いに疑問が残る。

第二に、藤島氏が代表取締役として残留することだ。代表取締役が2名といういびつな体制になる。藤島氏はその理由として、「いろんなことを決めていく上で、代表取締役でいて補償について議論していく立場である方が事務所の中で良いと判断してこの形でとどまっております。補償が速やかに進めば代表取締役か降りるということを考えている」と話した。

しかし、代表取締役でなくても、補償、救済の議論には参加出来るわけで、この説明にも疑問が残った。自分が代表取締役にとどまらねばならない他の理由があるのだろうか。余計な憶測を呼ぶという意味においても、理解に苦しむ判断だ。

第三に、屋号がジャニーズ事務所のままであることだ。ジャニー喜多川氏による人類史上最悪と言われる未成年に対する性的虐待事件である。被害者の中には、ジャニーズの名前を見聞きしただけでフラッシュバックが起きると話す人もいる。東山氏は、屋号を変更しない理由について問われ、「そのことに対してどうすべきか議論はしました。これを引き続き、守るべきなのかいろんな解釈がみんなの中にもありましたし、ジャニーズというのは創業者の名前、初代のグループの名前でもありますが、何より大事なのは、これまでタレントさんが培ってきたエネルギーであるとかプライドだと思っているので、その表現のひとつでもいいんじゃないかと思っております」と述べた。

▲写真 会見に臨む東山紀之氏(2023年9月7日 東京・千代田区) 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

タレントが培ってきたエネルギーとプライドが大事で、その表現のひとつだから屋号を変えなくてもいい、という論理が意味不明だ。大事なのは、屋号を守ることではなく、被害にあった人達への謝罪と補償だろう。被害にあった人達は到底納得できないのではないか。かつ、事務所の名前に「ジャニーズ」という名前を冠することで負のイメージが今後もつきまとうことになる。解体的出直しの足を引っ張ることは間違いない。

事務所の株は藤島氏が100%保有している。したがって、屋号を変えることができるのは、オーナーで株主の藤島氏だけだ。東山新社長に変える権限はない。これひとつ見ても、藤島氏が全ての権限を東山氏に渡すのを嫌がっているように見える。

第四に、被害者に対し、被害回復のための適正な補償をする「被害者救済措置制度」について、具体的な説明がほとんどなかったことだ。

事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」は8月29日に公表した調査報告書で、「ジャニーズ事務所は組織として、ジャニー氏の性加害が事実であると認め、真摯に謝罪することが不可欠。すみやかに被害者と対話を開始して、その救済に乗り出すべき」と提言した。

今回の会見で、いつから被害者たちと補償・救済に向けて対話を始めるかの説明はなかった。すべてこれから、という姿勢だった。藤島氏が5月14日にビデオメッセージを公開してから4カ月近く経っている。その間、何もしていなかったのだろうか。今、公に被害救済を訴えている人以外に、まだ声を上げていない多くの被害者がいると思われる。そうした人達が事務所にコンタクトを取る際の窓口(例えばフリーダイヤルやウェブサイトなど)を今回発表するべきではなかったのか。そこに大きな失望感がある。

第五に、「調査報告書」が求めている再発防止策の内、「人権方針の策定と実施」、「研修の充実」、「ガバナンスの強化」、「CCOの設置」(編集部注:CCO=チーフ・コンプライアンス・オフィサー)、「メディアとのエンゲージメント(対話)」、「再発防止策の実現度のモニタリングとその公表」について、ほぼゼロ回答だったことだ。どれもすぐに取り組まねばならないものばかりなのに、これでは本気で改革する気なのか疑われても仕方ない。

一体、何のための会見だったのか。

■ メディアの責任

特に、「メディアとのエンゲージメント」は極めて重要な問題だ。新聞・テレビは、これまでジャニー喜多川氏の性的虐待についてほとんど報じてこなかった。社会はマスコミをジャニーズ事務所と共犯だと見ている。

報告書は、「ジャニーズ事務所は、すみやかにメディアとのエンゲージメント(対話)を開始して、 二度と同様の性加害の発生を許さないことを宣言し、そのために人権方針を定め、ガバナンス体制も整備して再出発するという強固な決意を明らかにし、今後はメディアとの相互監視、相互牽制により人権侵害の再発を防止していく姿勢を示すことが求められる」とした。

各テレビ局はすでにそれぞれ声明を出しているが、どの局のも通り一遍のもので、見て見ぬ振りをしてきた人権侵害に対し今度どのような態度で臨むのかについては全く踏み込んでいない。

各メディアがジャニーズ事務所のタレントを今後使い続けるのかどうか、どのような基準で判断していくのか、再発防止にどうかかわっていくのか、などを公表すべきだろう。同じことは新聞にもいえる。また、CMにかかわっている大手広告代理店も同様だ。

ジャニーズ事務所からのアクションを待つのではなく、みずからこの人権侵害にどう対処していくのか考えてその対応を公表することが、企業としての責任だ。

■ ジャニーズ事務所のこれから

結局藤島氏は、同族経営とこれまで築いた資産の温存を図ろうとしているのではないか。そうした印象を内外に広めてしまった。

しかし、それは逆効果だ。すでに大手スポンサーが事務所離れを表明している。横並び意識が強い日本企業は今後他社の動向を見て、同じ判断を下すだろう。スポンサーが降りれば、テレビ局も、同じタレントをドラマやバラエティーに起用するのも難しくなる。

一方で、そうなってくると、今後、事務所所属の多くのタレントは、彼らに罪はないのに仕事を失うかもしれない。彼らへの援助が必要になってくる。また、事務所を辞めて事実上干されている元ジャニーズ事務所所属のタレント達が再び表舞台に復帰できるような仕組みも必要だ。東山新社長のやるべきことはとてつもなく多い。

今回の会見を見る限り、ジャニーズ事務所は再生へ向けての道を自ら難しいものにしてしまった。この合理的でない判断はどのようになされたか、外からはうかがい知れないが、まずは、被害者の人達とどのような「対話」がなされるのかに加え、実際に「法を超えての救済」が行われるのか、注視したい。

(了)

トップ写真:記者会見に臨むジャニーズ事務所前社長藤島ジュリー景子氏、ジャニーズ事務所新社長東山紀之氏、ジャニーズアイランド社長井ノ原快彦氏、弁護士の木目田裕氏(2023年9月7日 東京都千代田区)出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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