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.社会  投稿日:2022/11/23

広報は何故大切か その2 大企業編


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・一部上場の大企業は、広報活動=マスコミと付き合うことと思っている。

・しかし、インターネットにより、新聞・テレビの広報価値、広告価値、どちらも低下してしまった。

・大企業は、広報と広告宣伝を分けるのではなく、ネットを駆使した総合的ブランド戦略を構築する時代に入った。

前回、中小企業・ベンチャーの広報戦略について少々述べさせて頂いた。今回は、大企業に話を移そう。

 

1 大企業の広報

大企業、つまり一部上場企業ともなると広報部もしくは広報室がある。最近では横文字でコーポレートコミュニケーション部とか、メディアリレーション部などと呼んでいる所も増えてきた。会社の規模にもよるが、その陣容は大きいところでは数十名に及ぶ社すらある。

もともと広報は会社の新製品・サービスのマスコミへの告知がメイン業務だった。それに加え、大企業ともなると、社の不祥事や不利益となるような情報の火消しの役割を求められてきた。

一方日本の新聞・テレビらマスコミは、記者クラブ制度の下、各省庁に陣取っている。各企業が所轄官庁の記者クラブにプレスリリースを投げ込めば、自動的に記事になるという仕組みだ。これはマスコミにとっても都合の良いシステムであった。

記者クラブ制度の下で、企業とマスコミとの関係は密になった。企業の側からしたら、何か問題が起きた時、普段から付き合っている担当記者とのホットラインで、その記者がどんな記事を書こうとしているか探ることができる。技術的には、企業の不祥事などを責めるトーンを弱めるよう依頼することも可能となる。メディアと取材対象の距離感が近すぎるとこういう弊害が起きるのだ。ある意味、企業とマスコミにとってギブアンドテイクの、双方にとって良い時代が長い間続いてきたとも言える。

こうした中、インターネットの時代になり、大手IT企業がニュースプラットフォームを運営し始めると、マスコミは一斉に記事提供を始めるようになった。それがマスコミ、特に新聞の凋落の始まりだった。

記事制作には膨大な工数とコストがかかる。しかし、プラットフォーム企業は、ほとんどタダ同然でコンテンツの提供を受け、膨大なPVをもとに莫大な広告収入を得るようになった。その不公平感から、豪州や欧州でメディア側から声が上がり、Googleがコンテンツ提供社に対価を払うようになったのはつい最近のことだ。マスコミは自らの運命をプラットフォーマーに明け渡したも同然だった。

それは何を意味するか。新聞・テレビの情報拡散装置としての価値の低下である。

 

2 広報とマスコミの蜜月の終焉

新聞、テレビというマスコミを通じて大衆に広く自社の商品・サービスを知ってもらうという役割は大きく棄損した。テレビは規制産業で新規参入がないだけまだましだが、新聞を紙で読む人は激減してしまった。2000年に53,708,831部あった発行部数(一般紙+スポーツ紙)は、2021年にはなんと33,027,135部にまで減った。実に4割減だ。しかも購読者層は高齢者である。新聞は若い層に訴求出来る媒体ではもはやない、ということだ。

発行部数の激減から、朝刊と一緒に配られる折り込み広告や、紙面広告の価値は大幅に下がってしまった。

テレビだとて、リアルタイム視聴が減り、録画視聴が当たり前になった。今や民放にはTverが、NHKにはNHK+がある。ネットで見逃し視聴が当たり前になり、テレビを持っていない若者も増えた。広告主が、高額な地上波CMからネット広告に流れるのも無理からぬことだろう。

広告主は、インターネット広告の方が、ターゲティングしやすく、自社の商品・サービスを求めている消費者にリーチできることを知った。

それからの広告費の推移は周知のとおりだ。「インターネット広告費」(注1)は2021年度、ついに2兆7,052億円(前年比121.4%)に達し、「マスコミ四媒体広告費」(注2)の総計2兆4,538億円を初めて上回った。15年ほどで立場が逆転してしまったのだ。

図)マスコミ四媒体広告費とインターネット広告費の伸び率

出典)電通報

マスコミの広報価値と広告価値、ともに低下し続ける中、大企業の広報戦略は転換点を迎えている。しかし、変化はほとんど起きていない。なぜか。

 

3 大企業広報の現状

変化が起きない最大の理由は、大企業経営者がいまだに新聞・テレビさえ押さえていれば事足りると思っているからだろう。60代後半から80代の経営者がLINEニュースやスマートニュースで情報収集しているとは思えないし、Instagramのリール動画やTikTokを見ているとも思えない。今の時代、情報がどう拡散され、人々がどうそれらを収集しているか、見当もつかないだろう。

広報のスタッフもネットメディアとの接点はほとんどないはずだ。先日、財界がマスコミとの交流を目的に設立した経済広報センターの懇親会に初めてインターネットメディア協会が招かれたのは画期的だった。が、ようやくその段階だということだ。

大企業の広報は、ネットメディアの影響力を考えると、今後、彼らとどう付き合っていくか、考えなくてはならないタイミングに来ているといえよう。

そのうえで、自社のブランド価値を高める広報とはどうあるべきか、戦略的に考えねばならない。

 

4 これからの広報

これからの大企業の広報活動はどうあるべきなのか。

第1にやるべきは、社内的に広報活動の重要性を再認識することだ。大企業ではこれまで予算は広告・宣伝に多く割かれ、広報部門には回ってこなかった。広報は金をかけずにやるもの、という認識があったのだと思う。しかし、マスコミの広告宣伝効果が下がる中、ソーシャルメディアやインフルエンサーをどう活用していくのかなども考えなくてはならなくなった。そもそも、広報と広告・宣伝を分けて考えること自体時代遅れだ。予算も一体化し、会社の価値を高めるために、インターネットはもはや無視できない存在になったといえる。

社内でその共通認識ができたら、2番目として、インターネット広報に精通したスタッフの育成が必要になってくる。大企業の場合、HP制作やウェブ広報戦略をPR会社などに丸投げするケースも多い。しかし、優秀なスタッフを抱える企業が多い中、自社のリソースを使わないのはもったいない。社員を再教育し、どのようなインターネット広報戦略を構築したらよいのか、まずは社内で検討することが必要だろう。

そうすれば、おのずとどのような業者とどのような施策を組むことができるか判断できるようになり、結果、予算の最適配分も可能になる。

一にも二にも、トップがインターネット時代の広報の重要性を理解することが不可欠だ。

いくらお金をかけてHPを作り変えても、有名タレントを使ったCMを流しても、それだけでは企業の価値は上がらない。インターネットを駆使した総合ブランド戦略にお金をかける時代になったと言えるだろう。

その1はこちら)

注1)媒体費、物販系ECプラットフォーム広告費、制作費の合算。

注2)「新聞」「雑誌」「ラジオ」「テレビメディア(地上波テレビ+衛星メディア関連)」の媒体費と制作費の合算。

写真:イメージ  出典:sesame/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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