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.政治  投稿日:2023/10/14

日本共産党はやはり非武装政策


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日本共産党志位和夫委員長、衆議院第一議員会館の会議室で講演。

自衛隊は違憲で究極的には廃止、その後防衛組織は保持しないと主張。

・すなわち、日本共産党は日本の非武装政策を掲げている。

 

日本共産党は日本防衛の政策については、やはり究極的には非武装を求めることが改めて確認された。私自身が10月11日、日本共産党幹部会委員長の志位和夫氏に質問をして、明快な回答を得た。日米同盟に反対、自衛隊にも反対、では後はどうするのか、と問うと、志位委員長は「日本独自の防衛組織は持たない」という趣旨を述べたのだった。

独立国家が自国への軍事力での攻撃や威嚇に対して自衛する手段をまったく持たない。こんな主権国家はこの世界には存在しない。外部からの侵略や脅しに自国を守ることをしないとなれば、残された道は、外国への屈服、つまり降伏だけである。日本共産党は公党として世界でも例のない異端の政策を掲げているのだ。

志位和夫氏は同11日、国会の衆議院第一議員会館の会議室で講演をした。講演企画企業の時局心和会の主催だった。経済界、政界、メディアなどの関係者が50人ほど集まってのこの会合で志位委員長は1時間ほど講演し、残りの30分ほどを質疑応答にあてた。同委員長は講演ではまず日本共産党がまとめた「経済再生プラン」について語り、続いて外交や安保について同党の政策を説明した。

ワシントンから東京に戻ってまもない私自身は日本共産党の外交・安保政策に関心を抱いていたので、熱心に志位委員長の明快な語調での話を聴いた。

同委員長はまず岸田政権の防衛政策について「不必要な大軍拡」だと非難し、アメリカの防衛政策に対しても「一方的に緊張を高める危険な軍事戦略」だと批判した。そして外交による平和実現の努力への重要性をもっぱら説いたのだった。

ただし、この説明では日本やアメリカがいまなぜ防衛力を強化するのか、の原因の指摘がまったく欠けていた。日本やアメリカが防衛増強へと動くのはいうまでもなく、中国の軍事大膨張、北朝鮮の核兵器・ミサイルの挑発的な大増強への反応である。自国、自陣営に迫る明確な軍事脅威があるからこそ、防衛力をふだんよりは強くして、相手の侵略や攻撃を抑える。つまり抑止の戦略である。

ところが志位委員長はこの「原因」にまったく触れないのだ。日本の安全保障を語りながら、中国と北朝鮮の動向にまったく触れないというのは、なんとも奇異である。志位委員長は日本の安全保障政策として、以下の骨子を述べたのだった。

・アメリカの軍拡に従うことは危険だから、日本は日米安全保障条約を破棄し、日米同盟を解消する。

自衛隊も厳密には「戦力」であり、憲法違反だから、やがては解消する。ただし日本にとっての安全保障環境が完全に平和となる時期までは存続させる。

・日本の防衛政策としての抑止にも反対する。抑止は相互の恐怖に依存しており、危険きわまる概念だといえる。

・日本国憲法は戦力や交戦権を否定した9条が最重要であり、この憲法を大切に守る。日本が戦争や戦死者を出さないできたのは、ひとえにこの憲法9条のお陰だ。

・日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)の平和保持の方式を学ぶべきだ。ASEAN諸国はアメリカにも中国にも偏らない対外政策をとって、平和を保ってきた。

こうした趣旨の志位委員長の講演に対して、私はまず質問の冒頭でこちらの意見として、日本やアメリカの最近の防衛力増強はあくまで中国や北朝鮮、さらにはロシアの軍拡、軍事力行使の実例、その結果としての自国、自陣営への脅威の増大に対応した動きであることを指摘した。なにもないところに日本やアメリカが急速に、一方的な取り始めた防衛強化策ではなく、あくまで中国や北朝鮮の行動を原因とする結果だと、説明した。

東南アジア諸国についても、その中核のベトナムやフィリピンは中国の軍事力行使の犠牲となり、こんごの抑止のためにアメリカへの依存や接近を強めている現実を指摘した。中国に対して穏健な態度をとるかのようにみえるのは、東南アジア諸国側が独自の軍事力がまったく弱小だからといえるのだ。

そのうえで私は志位委員長に二つの具体的な質問をした。第一は尖閣諸島に中国が軍事攻撃をかけてきた際に日本共産党はどんな対応をするのか、だった。第二は、日米同盟をなくし、自衛隊をなくした後の日本はなんらかの独自の防衛組織を持つのか、という問いだった。

志位委員長は多くの言葉を費やし、尖閣諸島があくまで日本の固有の領土であり、中国側の領有権主張は不当だと説明した。この点はきわめて常識的、良識的な答えだった。さらに実際に中国の軍事攻撃があった場合、日本側にはまだ自衛隊が残っているから、それが反撃に出るだろう、という趣旨を遠回しな表現で示唆した。

志位氏は私の第二の質問に対しては、国際的に平和な環境の条件が整うまでは自衛隊はなくさないという趣旨を角度を変えて、何度も語った。ところが私が最後に「しかしついに自衛隊をなくしたという後には、日本独自の防衛組織は持たないということですね」と念を押すと、志位委員長は「持たない」と明確に答えたのだった。

この点での志位氏の主張は明快であり、論理に沿っていた。その前に先立つ説明で、憲法9条は戦力の保持を禁止しているから、明らかに戦力に匹敵する自衛隊も本来、禁止された存在なのだ、という趣旨を強調していたのだ。憲法9条の保持となれば、自衛隊はあってはならない存在になるとする主張だった。

この点、日本共産党の最近の主張は「自衛隊はすぐにはなくさない」とか「自衛隊は日本の周囲が真に平和にならない限り保持する」という表現が多い。自衛隊の存続を容認するかにもひびく言辞である。だが厳密には、そして正確には日本共産党はいまの自衛隊を違憲とみなし、究極的には廃止とし、その後には防衛組織は保持しない、という政策なのである。つまり日本共産党は日本の非武装政策を掲げているのである。

このような思考を志位委員長は率直に語ったのだった。なお私が日本共産党が中国共産党に対して、日本への干渉を跳ね返すような形で関係を断絶した過去の独自路線の実績を前向きに指摘すると、志位委員長は「そうです。毛沢東主席が日本国内での武力闘争を始めろと要求したことに対して、断固と反対したのです」と顔をほころばせた光景は印象に残った。

*この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトへの古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:日本共産党志位和夫委員長(2016年6月22日大阪市)出典:Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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