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.国際  投稿日:2023/10/25

ガザ地上侵攻、各国の狙いと背景


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#43

2023年10月23-29日

【まとめ】

・ハマスには「人間の盾」とイランの支援がある。

・バイデン政権、イスラエルの地上戦開始を阻止する意図はない。

・米露中の関係に及ぼす影響について知る必要あり。

 

(米国も含め)巷では、ハマスが拘束している人質約220人の安否・解放の可能性とイスラエルの地上侵攻開始時期ばかりに関心が集まっている。それはそれで当然だろうが、ではウクライナはどうなったのか。南シナ海は大丈夫なのか。世界ではガザに関係なく、多くの深刻な事件が起きているというのに・・・。

それでも、今週もまずはパレスチナ情勢から始めざるを得ない。筆者の見る現時点での状況は次の通りである。

 

●イスラエルはハマス軍事部門殲滅のため、一刻も早く地上侵攻を開始したいはず。イスラエルは50万以上の大軍を今ガザとの境界に集結させているが、今回の地上侵攻は、過去二回の大規模地上侵攻に比べ、格段に困難な軍事作戦になる。勿論、正攻法で戦えば、の話であるが・・・。

●ハマスはイスラエルの地上侵攻を一時間でも遅らせたいはずだ。軍事的には装備も規模もイスラエル軍が圧倒的に優位。これに対しハマスの兵力は3~4万人、イスラム聖戦系が1.5万人だから、ガザ全体でも4.5~5.5万人程度の兵力だ。されど、ハマスには人質と非戦闘員という「人間の盾」とイランの支援がある。

●10日ほど前のNYTに「2016年のモスルに対する米イラク連合軍の地上戦」という記事があった。ISIS約8000人に対し連合軍総勢は10万人だったが、それでもモスル解放までに9カ月かかり、多くの非戦闘員が死傷した。人質も地下トンネルも高層ビルもなかった当時のモスルに比べ、今のガザはもっと難しい戦場になるという。

●アメリカはイスラエルに対し働き掛け、地上戦の開始を少しでも遅らせたいはず。非戦闘員退避や人道回廊構築による支援物資供給を実現し、人質と民間人の犠牲者を最小限にしたいからだ。他方、バイデン政権にイスラエルの地上戦開始を阻止する意図はないだろう。悲劇が起きるのは恐らく不可避で、問題はその規模だけだろう。

●ガザ市内での地上作戦は考えただけでもぞっとする。だが、こうしたガザ・中東情勢の局地的議論だけでは今回の衝突の本質と、現在進行形の国際政治における位置付けは見えてこない。これを正確に理解するためには、パレスチナ問題の現状の理解と、それが「米露中」大国間関係に及ぼす影響についてより深く知る必要がある。

この点については来月号の文芸春秋に出るかもしれない拙稿をご一読願いたい。現在まだ執筆中であるが・・・。また、これとは別に関連コラムをJapanTimesにも書くかもしれない。

さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

10月24日 火曜日 シャリーフ元パキスタン首相、自己の収賄容疑裁判に出廷

【シャリーフも頑張っているが、どうなるか?】

仏大統領、イスラエル訪問し首相と会談(25日まで)

【マクロンは相変わらず何かやりたいようだが、フランスが中東で力を持っていたのは1950年代まで。今の仏外交に往年の輝きはない。】

韓国大統領、カタル訪問

【ここでは触れていないが、今回の中東訪問の目玉は韓国大統領の初のサウジ公式訪問である。21日にリヤド到着、22日にムハンマド皇太子と会談したが、韓国の財閥はサウジでの大型プロジェクト参加や武器契約受注を目指しており、今回のサウジ訪問にはサムスン電子や現代自動車の会長らが同行したそうだ。】

コロンビア大統領、訪中し中国国家主席と会談(26日まで)

【目立たないが中国外交は頑張っている、恐るべし。】

10月25日 水曜日 ロシア首相、国内の宗教指導者と会合

【北京に行ってもあまり成果がなかったらしいプーチンだが、やはり国内基盤固めが必要なのかなぁ?】

10月26日 木曜日 ロシア外相、ベラルーシ訪問

欧州中銀とトルコ中銀が政策金利を決定

EU首脳会議、ブラッセルで開催(27日まで)

10月27日 金曜日 ロシア中銀が政策金利を決定

10月28日 土曜日 日本でG7貿易担当相会合開催(29日まで)

 

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:ガザ地区南部のハーンユニスにあるナセル医療病院に到着する、イスラエルの空襲で負傷したパレスチナ人(2023年10月24日 ガザ地区)

出典:Photo by Ahmad Hasaballah/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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