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.社会  投稿日:2023/11/2

「禁煙の奔流」には数々の疑問(上)たまにはタバコの話でも その6


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・タバコの害を声高に強調する人たちの言うことが、いまひとつ説得力に欠ける。

・喫煙による発がんリスクも様々な資料を読むと、首をかしげたくなる話がある。

・「タバコは有害」という結論ありきの実験ではないかとの疑念を払拭できない。

 

1970年代の終わり頃から、職場などでのいわゆる受動喫煙をなくそうという「嫌煙権運動」が盛り上がりを見せていったと、前に述べた。

タバコの害については、もっと以前から色々な人が色々なことを言っていたが、他人の喫煙によってその害が自身に及ぶのは耐えられない、という主旨で始まったもののようだ。

私は1983年に英国ロンドンに移り、93年に生活の場を日本に戻した。

その間、一度も帰国しなかったわけではないのだが、ともあれ再び日本での生活を始めて、驚かされたことがふたつあった。

ひとつは、街行く女子高生のスカート丈が異様に短くなっていたことと、いまひとつは「社内禁煙」にする出版社が見受けられるようになったこと。

どちらも21世紀の今となっては、なにを大仰な、と言われそうな話だが、まず女子高生のスカートについて言うと、私が通っていた当時の、都立高校普通科には制服がないところが多く、夏など女子生徒のミニスカートは普通の光景だったので、こちらはさほどショッキングではなかった。今時の女子高生はみんな脚が長いなあ、と感心した程度である。

たしか1994年になってからの話だと思うが、前々から懇意にしていた編集者を訪ねたところ、編集部に通されるのではなく、向こうが受付まで降りてきて、

「林さん、喫茶店に行きましょう。喫茶店」

などと、なにやら嬉しそうに言う。受付があるくらいの規模の会社だから、応接室も当然あるしコーヒーくらい出してもらえるのだが。

読者ご賢察の通り、その少し前から社内禁煙になっていて、喫茶店で打ち合わせとなれば堂々とタバコが吸えるということであったわけだ。

逆に言うと、当時はまだ喫茶店では分煙など行われていなかったことになる。私の見るところ、タイトルにも用いた「禁煙の奔流」が本格化したのは、21世紀になってからの話ではないだろうか。

1997年1月に放送が開始された、フジテレビ系のドラマ『踊る大捜査線』は、社会現象となるほどの反響を呼んだが、最初に放送された際は、登場人物の多くが喫煙していた。

なにしろ放送第一回の冒頭は、マッチを擦ってタバコに火を付けるシーンがアップで流される。

ところが、大ヒットしたドラマの常として、スピンオフや劇場版(=映画)も作られたが、2012年に公開された映画『踊る大捜査線 THE FINAL』では、なんと誰一人タバコを吸っていなかった。

やはり社会現象にまでなった劇画『ゴルゴ13』(さいとうたかを著、講談社)の主人公も、オランダ製のシガリロを好み、待ち合わせの相手が遅れた時など、足下に2~3本の吸い殻が落ちている、と言った描写がよくあったものだが、最近は喫煙シーンをとんと見なくなった。

ご案内の通り作者のさいとうたかを氏は2021年に他界され、故人の意志によりプロダクションと編集部の手で連載が続けられているのだが、まさかそれが理由ではあるまい。

新幹線や飛行機も然りで、1999年4月1日をもって、JALの国際線は全席禁煙になった。その直後のことだったと記憶しているが、取材でロンドンに出向いた帰路、隣の座席にいたオッサンがCAさんに、タバコを吸える場所はないのか、と尋ねた。当然ながら、

「機内は全面禁煙となっております」

とあしらわれたが、根性があると言おうか往生際が悪いと言おうか、

「じゃあ、機外で吸わせてくれよ」

などと言う。するとCAさん、

「パラシュートはお持ちでございますか?」

と切り返した。そういうマニュアルまで用意されていたのか、それとも彼女のアドリブかは定かでないが、笑いをこらえるのには相当苦労した。JALは偉い笑。

今にして思えば、これは喫煙者の居場所はもはや無きに等しい、21世紀の日本のデジャブではなかったか。

念のため述べると、機内は全面禁煙というJALのこの処置は正しいと、私は考えている。安全性の観点からも、機内に火の気など無いに越したことはないだろう。

さらに言えば受動喫煙の問題についても、私は無知・無関心ではない。

ロンドンに行く以前、すなわち1980年代前半ということになるが、飲食店などでアルバイトをしながら小説を書いていた時期がある。バイト先の喫茶店で年末の大掃除をした際、店内の棚に飾られている人形も洗った。

きれいな琥珀色なので、てっきりもともとそういう色なのだろうと思い込んでいたが、洗剤を溶かした湯に浸けて、少し置いてから水洗いしたら、なんと純白になったではないか。

タバコのヤニで染まっていたのか、と仰天させられて、同時に、自分はとんでもない環境で働いているのだな、と思わされた。

とは言えその当時は私自身も喫煙者であったし、そもそも排気ガスだらけの都会で生まれ育っているのだから、くらいの気持ちで、深刻には受け止めていなかった。そのバイトはほどなく辞めたが、タバコの問題とは関係ない。

それはさておき、こうした経験をしたために、他人の喫煙によって生じる、いわゆる副流煙を本当に嫌がる人がいることにも、それゆえ禁煙・分煙に踏み切る飲食店が増える一方であることにも違和感は抱いていない。

ではなぜ「数々の疑問」があると言わざるを得ないのか。

ひとつには、タバコの害を声高に強調する人たちの言うことが、いまひとつ説得力に欠けるからである。

前述の喫茶店に話を戻すと、経営者が禁煙に成功したとかで、

「レントゲン撮ったら肺が綺麗になってた」

などとドヤ顔で語ったことがある。しばらく後、レントゲン技師と知り合うことがあったので、喫煙者の肺はレントゲンで判別できるものなのか、と質問したところ、答えは、

「レントゲン(写真)を一目見て異常があったとしたら、それはもう余命何ヶ月という段階ですよ」

というものであった。

喫煙による発がんリスクも、前々からよく言われているが、これも様々な資料を読んでみると、首をかしげたくなるような話がいくつもある。

たとえば、そのリスクを実証した実験というのは、マウスの気管を切開してタバコの煙を吹き込み、異常が起きるかどうかを調べるというものであったのだ。

素人考えだと言われるリスクは覚悟の上で、最初から「タバコは有害」という結論ありきの実験だったのではないか、との疑念を払拭できないのである。

次回は、健康問題を含め、タバコが社会に甚大な損害を与えている、という議論について考えたい。

トップ写真:東京都内に設置された喫煙スポット 出典:Photo by Chris McGrath/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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