バイデン政権の対外政策の欠陥とは その5(最終回)日本にも迫る危機
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・台湾有事、日本にとって重要なのは米軍が介入する場合。
・日本、米の対中抑止に協力していく以外に存立の道はない。
・核という要素を除外しないで、日本自体が抑止力を強めていくことが必要。
―― さて、そうしたなか、日本にとって懸念されるのは「台湾有事」です。
古森義久 台湾有事について少し具体的に述べますと、中国が台湾に軍事攻撃をかけた場合、アメリカが軍事的に介入するかどうかという問題がまず前提としてあります。バイデン政権も含めて、歴代アメリカ政権の政策だと、介入するかどうかはわからない。台湾関係法は台湾海峡の平和と安定はアメリカにとって重要であり、台湾防衛のために必要な兵器を供与し続けると書いているけれども、米軍が軍事介入するかどうかは明記していない。「戦略的曖昧性」と呼び、あえて曖昧にしておくことで中国に対する抑止力になると考えている。
それでも、日本にとって重要なのは台湾有事に米軍が介入する場合です。その際、日本にとって一番極端なオプションとして理論的には在日米軍基地を使わせないこともあり得る。けれども、そうなるとアメリカの軍事専門家のほとんどは日米同盟が終わるとみています。
一方、最近はアメリカ側からの日米同盟に対する期待は、かつてなく高まっています。台湾有事で自衛隊が前線で戦うことを期待しているアメリカ人は少ないでしょうが、少なくとも普通の同盟国として在日米軍基地を使わせて、米軍の後方支援はすることを期待している。きっと一緒にやってくれると。
しかし、いまの日本には、必ず基地を使わせるという議論はもとより、米軍の後方支援についても具体的な議論はなにもないわけです。その意味ではいまの日本は重大な危機に直面しているともいえます。国難と呼んでも大げさではない非常事態が襲ってくるかもしれないのです。
◾️「美しい誤解」の危うさ
―― 左翼には基地使用反対の声はありますが……。
古森 その意味で、アメリカ側には「美しい誤解」があるわけです。その虚構が露呈した時、「美しい誤解」のバブルが破裂した時、日本はやっぱりなにも協力しないのかというアメリカ側の反発というのは、きわめて大きいと思いますね。
米軍が日本の防衛にかかわらなくなったらどうなるか。尖閣諸島に中国軍が来たらすぐさま重大事態になる。米中対立が続くなか、日本はアメリカの対中抑止に協力していく以外に存立の道はないと私は思います。まさに国難がすぐそばまで、ひたひたと迫っているのです。
◾️日本は「言うだけ番長」になってはいけない
古森 とはいえ、日本は主権国家であり、自らが自らの国を守る義務も権利もある。日本独自に国を守れるように能力と意志を積み重ねて、安倍晋三元総理が目指していた普通の国になって、中国に対する日本独自の抑止力も強めていくことが必要です。
また、日本独自に国を守れる能力と意志ということを考えた場合、核の抑止という分野も当然含まれてくる。日本が簡単に核武装できるとは思わないけれど、アメリカの核抑止力を、安倍さんが生前に触れていた核シェアという形で取り込む方法もあるわけです。要は、核という要素を除外しないで、日本自体が抑止力を強めていくことが必要となる。それは中長期的に独立国家として当然目指すべき道だとろう思います。
―― そのためには憲法改正が必要となります。
古森 ちょうど先ほど日本維新の会の馬場伸幸代表の話を聞いてきたのですが、いまや護憲派はもう共産党と立憲民主党だけだと言っていました。自民、公明、維新、国民の改憲派が発議に必要な三分の二を超えているのですから、立憲民主や共産党が憲法改正に賛成するのを待っている必要はまったくないと思いますね。
アメリカは政治的に成熟した国ですから、表立って日本に憲法を改正して欲しいとは言いません。またトランプが日米同盟をもっと双務的にしてほしいと言っていたその思いは専門家の間でもアメリカ議会でも圧倒的です。憲法改正も日米同盟強化もアメリカではコンセンサスだと言ってよいと思います。
長年、アメリカと日本の両方を見てきた私からすると、安全保障の問題、特に台湾有事について日本は口舌の徒にならない、前原誠司氏には失礼な表現かもしれないけれども「言うだけ番長」にならないように願いたいですね。
**この記事は月刊雑誌「明日への選択」2024年1月号のインタビュー記事の転載と一部加筆です。
トップ写真:普天間基地に駐機するオスプレイ(2018年5月31日 沖縄県那覇市)出典:Carl Court/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。