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.政治  投稿日:2024/1/6

風雲急を告げる東アジア情勢 Part1「台湾有事」Japan In-depth創刊10周年記念対談 元防衛大臣小野寺五典衆議院議員


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・台湾有事が起きた場合、主戦場はおそらく南西域になる。

・サイバー攻撃以前の「認知戦」は今後警戒を高めていくべき分野。

・海上封鎖を受けたら、残念ながら武力で強行的に排除する以外に道は無い。

 

Japan In-depth創刊10周年記念動画。ジャーナリスト古森義久氏との対談に続き、第2弾は元防衛大臣の小野寺五典衆議院議員がゲスト。

「風雲急を告げる東アジア情勢」Part1は、今日本にとって最大の関心事といっても良いだろう、「台湾有事」について安倍編集長が聞く。

 東アジア安全保障の現状

ここ数年で、東アジアを取り巻く安全保障の現状は大きく動いている。北朝鮮のミサイル発射や中国の南進など激動する東アジアにおいて、日本は主権と領土を守っていくためにどうすべきなのか。

安全保障については、東アジアのみならず世界的にその認識を改めていかなければならない。そのきっかけとなったのはウクライナ侵攻である。 

ウクライナ侵略は、現代においても弱い国を強い国が侵略し、領土を奪うというあってはならない行為が堂々と行われてしまうという安全保障の現実を国際社会に突きつけた。攻撃しなければ、武器を持たなければ攻められることもなく平和が保たれる、というのが幻想であることが明らかになった今、「攻めるためでなく、攻められないために武器を備えておくのが責任のある政治のありかただ」と小野寺氏は述べた。

とはいえ、島国である日本が戦後において侵略されることはないだろう、と考えていないだろうか。

実は日本も、ポツダム宣言受諾後にロシアの侵攻を受け、現在も北方領土を占領され続けている。

しかしながら、私たちは占領されているという事実を忘れられてしまっていないだろうか。若い世代になるにつれ、占領されていることが当たり前になってしまっている。このままでは、いつの間にか日本がどこかの属国になってしまうような、あってはならないことが起きてしまうかもしれない。

そこで「国民にとって大事な主権と領土を守ることが国としてとても大事だと繰り返し、次の世代にも伝えていく必要がある」と小野寺氏は強調した。

■ 台湾有事

北朝鮮のミサイルの長距離化や核搭載の準備など、緊張が高まっている日本周辺地域だが、日本にとって最も重要なのは中国による台湾へ武力侵攻が実際に起きてしまった場合の備えである。

小野寺氏は防衛大臣の時に、与那国島、石垣島、宮古島、奄美大島等南西域に自衛隊をおき軍事強化を行った。

台湾有事が起きた場合、主戦場はおそらく南西域になる。そこに日本の島を守る部隊がいないと、大変なことになる。ゲリラ戦や様々な圧力がかかる最前線になるだろう。有事の際に戦域となる場所を強化することで、日本の領土を守る目的がある」とその理由を述べた。

現に、小野寺氏の決定がある前は、台湾から100キロも離れていない与那国島を守る存在は警察官2名しかいなかったという。地元住民の了承を得つつ、南西域の強化を完成させていく、と小野寺氏は述べた。

軍事力を強化すること、そして武器を備えておくことが、具体的にどのような攻撃から国を守るのだろうか。

現在、初めから島に上陸して戦うというスタイルよりも主流になっているのが、ミサイルなどの「飛び道具」を使って街を破壊し、弱体化させてから上陸するという戦い方だと小野寺氏は指摘した。

これを防ぐためにはミサイルをミサイルで撃ち落とす「ミサイル防衛」の能力を持つことだが、それだけでは国は守れない。守るための戦力だけでは、相手国に武器を降ろさせるような抑止力には繋がらない。

攻撃を受けないための武器として、装備しなければならないのは、来たミサイルを撃ち落とすだけでなく、こちらから相手のミサイル基地を破壊できる能力を持つこと、それを示して初めて攻撃させないための抑止力は完成する。

小野寺氏は任期中、「スタンド・オフ防衛能力」や「反撃能力」という表現を使って、守るだけでなく反撃できる武器を持って備えることの重要性を知らせてきた。国民に理解してもらうため、国民の意識を向けられるようなワーディングも大事になっていくだろう。

日本ならではの防衛はどういったものが基本とされているのか。

島国である日本は地続きの国と比べて、侵略されにくいというメリットがある。そこで島国ならではの防衛を、取捨選択して備えておく必要がある。今重要視されているのが、12(ひとにい)式地対艦誘導弾能力向上型だ。

12式地対艦誘導弾能力向上型とは日本の技術で開発した国産ミサイルで、対艦ミサイルの一種。最近、導入を一年早める報道がなされたことでも話題となった。

このミサイルの最大の利点は国産であることだと野寺氏は言う。いざというとき、海外へ発注して作るものだと大量調達に時間がかかってしまうが、国産であればその心配はなく直ぐに準備できるからだ。

国を守る大事な弾薬は自前で作っていくべきだとして、今後他のミサイルも、段階的に国産で開発していくつもりだが、今まで反撃能力・相手への攻撃能力を持たないと表明して来た日本が急に切り替えて開発に舵を切るのは、時間を要するものになる。そこで、まずは使える外国産のものを一定数輸入しておき、徐々に国産を主戦力として置き換えていく、という考えで進んでいる。

例えばアメリカ産のトマホークは威力も高く、日本のイージス艦の発射用セルにうまく収まることから、使い勝手が良いため、導入する価値がある、と小野寺氏は述べた。

アメリカがトマホークを売っているのはごく限られた国なので、日本が同盟国の中でも特別な位置づけにあることを示すものになるだろう。現在は2年程で実戦配備ができるように、整備が急がれているという。

■ 認知戦

実は、台湾への攻撃はすでに行われており、日本にもその影響が出てきている。戦場は「SNS」だ。

誰が書いたかわからない書き込みから情報を得る時代、台湾では実際に、大陸から組織的に書き込みを行うことで大衆的な意見だと思わせる攻撃が行われた。それが「認知戦」だ。

例えば、「核を持っている中国にかなうはずがない」だとか、「ウクライナ戦争で、アメリカは手を出せていない、実際には戦ってくれないだろう」。また、「戦う前に降伏した方が良い」といった書き込みがSNS上に見られた。このように、出どころ不明ながらも大量に発信されることで「みんなもそう思っている」と大衆に思い込ませ、戦闘意欲を削ぐ「認知戦」が実際に行われているのだ。

こういった、サイバー攻撃以前の「認知戦」は今後警戒を高めていくべき分野だと小野寺氏は強調した。認知を変えていく手法は古くから行われており、たとえて言えば、「霧雨のように次第に相手に染みこんでいき、気づいたときはずぶ濡れになっている」。そんな恐ろしさがある。もう戦いは始まっているのだ。

こうした敵の戦術に備えるために、学校教育でのタブレット学習と並行して、リテラシーを高めていくことが重要だ、と小野寺氏は語る。出会い系サイトや闇バイトなど最近の犯罪の舞台はSNS上が主になっている。便利だけれど、危険性がはらむことを認識し、教育していく必要があるのだと小野寺氏は指摘する。これは安全保障上でも重要なことである。

■ 防衛装備の強化

防衛装備の強化には5〜10年かかるのに対し、安全保障上の国家間の関係は一瞬で変化しうる。

現行の日本国憲法では、台湾有事の際、台湾の味方として中国に攻撃はできない。一方、アメリカは台湾を守るために反撃する、と表明している。その際、主戦力となるのは在日米軍基地であり、日本は米軍基地からの攻撃を認めるか否かの決断を迫られることになる。

認めれば中国に敵とみなされ直接攻撃されるきっかけとなるだろうし、認めなければアメリカとの同盟関係は解消され、丸腰で戦う覚悟を決めなければならない。現状の日本では、アメリカに守ってもらうためにも、在日米軍基地からの攻撃を認めざるを得ないだろう。したがって、日本は中国からアメリカと同じ立場とみなされ、憲法と関係なく当事者となる可能性が高い、と小野寺氏は指摘した。

「だから私たちは色々な備えをしなければならない」し、「政治という責任ある立場で最悪を想定して考えていかなくてはならない」と小野寺氏は決意を述べた。

■ 海上封鎖の場合

もう一つ、日本にとっての懸念は、対台湾への経済圧力として海上封鎖などが行われた場合、原油輸入が滞ったり、貿易が制限されたりするのではないか、という問題だ。

小野寺氏によれば、海上封鎖は「それ自体がすでに武力行使」なのだという。したがって、海上封鎖を受けたら、残念ながら武力で強行的に排除する以外に道は無く、日本に対して宣戦布告したのと同じ意味になると小野寺氏は強調した。

また、漁船と称して領海を侵犯したり、尖閣諸島など日本の領土に上陸したりするケースも侵略を受けた国が軍事行為だと判断することができる。この場合、どちらが先に手を出したかを他の国に示し、正当化する宣伝性も問われるため慎重な判断が必要だ。

したがって、事前に攻撃を受ける可能性があることを示唆することで、どちらが侵略国なのかを国際社会にしっかりと認知させていくことが重要だと小野寺氏は述べた。

動画はこちら(Part2に続く) 

トップ写真:Japan In-depth創刊10周年記念動画サムネイルⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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