バイデン政権の対外政策の欠陥とは その3 ハマスも感知したアメリカの弱さ?
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ハマスによるイスラエル攻撃の背景にはバイデン政権の弱さがある。
・アメリカの弱さは軍事力の弱さではなく、バイデン政権がそれを押さえているゆえの「弱さ」が問題。
・大統領選で共和、民主いずれが勝利しても、反米勢力へはいざという時には力を使うという姿勢が強まる。
―― ウクライナでは反転攻勢の成果が上がらないなか、中東ではハマスがイスラエルを奇襲するという事態も起こりました。この両事態に関連があるとみるべきでしょうか。
古森義久 アメリカはロシアの侵攻以来、ウクライナを全面的に支援をしてきたわけですが、先がみえない戦いが続いています。共和党の保守派の中には、本当のアメリカの脅威である中国に対する抑止をきちっとやるためにも、ウクライナへの援助を削減も含めて考え直さなければならないという議論が出てきて、しかも強くなっています。
そうしたなかで、昨年10月7日にハマスがイスラエルに奇襲攻撃をかけて、1400人のイスラエル人を殺して、外国人を含む数百人のイスラエルの人々を人質に取った。これは明らかな国際条約違反です。にもかかわらず、世界中で反イスラエルデモがおこり、日本ではメディアが人質を取った行為をまったく批判せず、むしろ少しだけ人質を解放したことを評価している。
アメリカ国内でもハマス支援のデモが起こり、バイデン政権は困っているけれども、アメリカ政治の本質をみれば、イスラエル支援は絶対に揺るがない。
一方、イスラエルという国をこの世から抹殺しなければならないと言明しているのがハマスですから、イスラエルが国家として存在する限り、永遠に戦いは続くのです。
―― それにしても、ハマスはいまなぜ奇襲したのか、どういう背景なのでしょうか。
古森 実はいま、イスラエルを国家として消滅させるべきだと言っているのは、世界中でハマスとヒズボラ(レバノンのシーア派組織)、国家としてそれらの組織を支援しているイランだけなのです。
逆に、ここ数年間、中東の国々の中にはイスラエルの存続を認めるどころか、UAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンのようにイスラエルと外交関係を結ぶ国も出てきたのです。ハマスとしては、そうした孤立状態を何とかしなければならない。それで大規模な奇襲をしたのだろうと思います。
もう一つ、イスラエル攻撃の背景として考えられるのが、ここでもバイデン政権の弱さです。ハマスも攻撃すれば当然、イスラエルが全面的に反撃してくることは分かっていた。問題は、アメリカがどの程度の力でイスラエルを支援するかということです。結局、ハマスやその背後にいるイランは、バイデン政権下でアメリカの中東関与や対イスラエル支援の力は弱くなったと読んだのだろうと思います。ここでもアメリカの後退がイランやハマスにつけこまれて奇襲に踏み切ったといえます。
念のために述べると、アメリカの弱さといっても、軍事力そのものの弱さではなく、バイデン政権がそれを押さえているゆえの「弱さ」が問題なのです。11月の大統領選挙で共和党が勝利すればもちろんですが、民主党が勝ったとしても、アメリカの世論や議会には、反米勢力に対してはいざという時には力を使うという姿勢が強まると思います。
つまり、いまは振り子で弱い方に振れてはいるけれども、アメリカ全体としてはその振り子は少なくとも真ん中の方に戻る可能性は十二分にあるということです。
**この記事は月刊雑誌「明日への選択」2024年1月号のインタビュー記事の転載です。
トップ写真:2023年10月7日のハマスによる襲撃で拉致されたり、殺害されたり、あるいは行方不明となっている1000人以上のイスラエルの人々の写真。(2023年10月22日 イスラエル・テルアビブ大学)出典:Photo by Leon Neal/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。