港区長選、誰を選ぶか 考えておくべきこと
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・東京都港区の区長選、6月2日投開票。
・6期目を目指す現職に、新人候補2人が挑む構図。
・国際都市を目指す港区の災害対策などが争点。
東京都港区といえば、「港区女子」など、おしゃれでキラキラしたイメージで全国にその名が知れ渡っている。実際、有名な商業施設六本木ヒルズや東京タワーがあり、最近では日本一高い商業ビル麻布台ヒルズも竣工した。ただ港区は意外と広い。東京都の都心中央部に位置し、大きく7つの地域に分けられる。
1. 麻布地域
六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、グランドハイアット東京、麻布台ヒルズなど、超高層商業ビルや外国人向け賃貸住宅などが立ち並ぶ。現在も高層ビル建築が進む。
2. 赤坂地域
赤坂御所、迎賓館赤坂離宮など、歴史的な建造物が点在するエリアです。赤坂は政治家がかつて使った料亭がわずかに残っているが、庶民的な飲食店が建ち並ぶ
3. 高輪地域
国際交流拠点として現在建設中の「TAKANAWA GATEWAY CITY」のメイン駅である高輪ゲートウェイ駅、大型商業施設やホテルが立ち並ぶエリアです。羽田駅の玄関口で、将来的にリニア中央新幹線の出発駅になる予定の品川駅もなぜか品川区ではなく、港区高輪にある。
4. 芝浦地域
芝浦港、東京工業大学、慶應義塾大学など、大学や研究機関が集中するエリア。運河沿いは、お洒落なカフェやレストランが立ち並ぶ。
5. 浜松町地域
羽田行のモノレールが発着する浜松町駅がある。東京湾や船着場まですぐ。海沿いには、多くのオフィスビルやホテル、マンションが建ち並ぶ。
6. 新橋地域
鉄道発祥の地、新橋駅、SL広場、歌舞伎座などがあり、銀座も徒歩圏内で、オフィスビルも多い。それでいて、居酒屋が多くなど、庶民的な一面も。
7. 芝地域
東京タワーや増上寺などの歴史的な寺社仏閣が点在するエリアです。慶應義塾大学や芝公園なども所在し、教育機関も多い。
こうやって調べると都民ですら、「港区は東西に広いな~」と思ってしまう。地域の性格も全く違う。とても同じ区とは思えない。六本木のイメージが強いかもしれないが、実は閑静な住宅街も多いのだ。特に新興住宅地域には高層マンションが多く、一人暮らしの人も多いものと思われる。
そんな港区で、任期満了に伴う区長選挙が今行われている。6月2日(日)が投開票日だ。3人が無所属で立候補している。届け出順に3人が立候補した。新人で、元東京都議会議員の菊地正彦氏、新人で元港区議会議員の清家愛氏。6期目を目指す現職で自民党と公明党が推薦する武井雅昭氏だ。
■ 各候補の主張
・菊池正彦候補
菊地正彦氏は元東京都議会議員。無所属・新。日本大学法学部卒業、日本大学大学院法学研究科満期退学。出版社勤務、港区六本木に会社を設立。1992年日本新党に入党、1993年に都議になり、1期務めた。港区長選挙は4回目の挑戦だ。
「人心一新 1期4年に全力投球!!」を掲げ、公約は、「無駄遣いを徹底レビュ-」をトップに持ってきた。興味を引いたのは「女性副区長の登用で多様な民意を反映」し、「女性活躍社会先進区に!」としたこと。
その他、「区民のさらなる福祉向上」、「防災対策の更なる強化」、「健康増進区の先進区として第2スポーツセンターの設置(建設)」、「区民の声が届く政治」、「区長任期2期8年」などを挙げた。たけい雅昭候補と同じ1953年生まれだ。
▲写真 菊池正彦氏 出典:@masahikokiku
・清家愛候補
前港区議会議員、2011年で初当選、3期連続トップ当選。最多得票を更新している。清家氏は東京都港区生まれ、青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒業。産経新聞の記者7年、フリーランスを経て、子育て現場の声を政策に反映させる「港区ママの会」主宰。
スローガンは「港区から新しい未来を!」。「区長任期を3期12年までとする『多選自粛条例』を制定し、組織の硬直化、マンネリ、癒着などの弊害を防ぐ」ことを政策のトップに掲げた。
その他、
・世界一幸せな「子育て・教育都市」高校の留学支援やグローバル教育などを挙げている。
・高齢者も障害者も誰ひとり取り残さない「健康・福祉都市」
・確実に命を守る「リアル防災都市」(老朽化マンション対策)
・アート・環境・経済「SDGs先進都市」
・DX・区役所改革「頼れる便利なオープン区役所」
さらに、羽田空港新ルートの固定化回避」の早期実現と、「神宮外苑再開発」の事業者の説明石器人の徹底を上げた。
・武井雅昭候補
武井氏は2004年の港区長選挙で初当選。以降5期連続当選、今回6期目を目指す。東京都品川区生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。港区へ入庁し、区民生活部長等を歴任。
スローガン(宣言)は、「これまでも これからも 誰もが誇りに思えるまち・港区に」。
政策は、「4つの誓い」として、
・区民生活と区内産業を支え「活力」をまちに起こす。
・関東大震災100年を節目に「強靱」なまちづくりを加速する。
・時代を担う「子ども」を地域全体で育むまちをつくる。
・「誰もが安心して住み続けられるまち」に進化させる。
を挙げた。
▲写真 武井雅昭氏 出典:@takeim0101
■ 今回の争点
やはり、1番の争点は「多選を認めるか否か」だろう。都内でも3期目の区長が5人、4期目が2人、5期目が5人、6期目が1人いる。現職有利と言われるがどうなるか。
それにしても港区の投票率は低い。前回の区長選の投票率は30パーセントそこそこ、区議会議員選挙より低いのだ。多選が効いているのかもしれないが、今回は、「新人との戦い」や、「世代交代」などの対立軸もある。少しは有権者の関心も高まっていることを期待したい。
■ 港区の課題
筆者は港区に事務所がある。区民ではないが、毎日港区に通う身として港区の課題をいくつか考えた。
1 帰宅困難者対策(区外から来ている日中就労者含め)
まず、日中就業人口が他の区に比べ多い港区ならではの問題だ。昼間は約97万人が就業しているが、夜間人口は約26万人だ。(参考:令和2年港区総数)もし、日中に首都直下地震など起きたときに帰宅困難者はどこに避難したらいいのだろうか?
港区に、区外の人が被災しても原則的には救助したり、避難場所を提供する義務はないかもしれないが、現実問題として、区民より多くの人間が日中働いている。それどころか、大手町、有楽町、丸の内近辺で働く人も、被災すれば、自宅のある世田谷区やその先へと港区を走る青山通りで自宅へと向かうことになる。その人達の一部が区内に救助を求めてとどまった場合、どうするか、考えておく必要があるだろう。
区が区民の救助を優先するのは当然ではあるが、おそらく大震災時には、誰が区民か区民でないか区別できなくなる可能性がある。そうした事態を想定した災害対策は大きな争点だろう。
2 共同住宅に住んでいる人への災害時の支援
港区は共同住宅が多い。いや、ほとんどが共同住宅だと言っても過言ではない。港区の居住世帯のある住宅数は約13.7万戸で、そのうち約12.8万戸が共同住宅だ。 なんと93.4%が共同住宅である。内訳はマンションが5万戸(36.4%)、その他の共同住宅が7.8万戸(56.8%)だ。(参考:第4次港区住宅基本計画)
老朽化している建物も多く、(筆者のオフィスのマンションは築54年)、大震災時倒壊も考えられる。行政はなるべく自宅避難をと呼びかけているが、物理的に自宅避難できなかった場合どうするのか?これも極めて重要な課題だ。
3 災害時の外国人に対する情報提供
能登半島地震の時、海外実習生に対する情報提供は十分だったろうか?事態がわからずとりあえず避難所で肩を寄せ合って震えていた彼らの今が気になる。港区に住む外国人は全人口の約1%、22,000人いる。(全人口245,341人、うち外国人22,048人:令和6年5月1日現在 港区各総合支所管内別の人口・世帯数)災害時の多言語による情報提供、また外国人被災者への対応がどうなっているのかも気になる。
他にも、「子育て・教育」、「福祉対策」、「多様性・社会の包摂の問題」、「国際都市としての独自性」などで、目に見える、実効性のある改革を行ってくれるのは誰なのか、区民はよく考えて投票に行ってもらいたい。
自分たちの次世代のリーダーを選ぶ日に、区民の3人に1人しか投票しないなどという悲しい日にならないことを祈る。
(了)
トップ写真:清家愛氏(2024年6月 港区麻布十番)ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。