ズレてる都知事選の争点
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・東京都知事選、過去最多の56人が立候補。
・マスコミは都知事選に、国政の与野党対立構図を持ち込む。
・都民はそれに惑わされず、都の課題を解決してくれそうな候補者を選ぶべき。
東京都知事選が6月20日に告示された。
過去最多の56人が立候補したとかで、祭り状態となっている。外野がなにを言おうと、都民にとっては、小池都政8年を評価するかしないかが、投票行動の軸であることには間違いない。
さて、一連の報道ぶりをみていて、「ちょっとそれは違うんじゃないか」、と思う点がいくつかある。
ひとつは、争点をミスリードしていること。マスコミは、争点に「政治とカネ」の問題を入れているが、それは国政の話だろう。
地方自治は二元代表制であり、国政とは一線を画す。都知事選に国政の与党vs野党の構図を持ち込むのは、有権者をミスリードする。もちろん、「無所属」を標榜していても、その候補者を各政党がそれぞれの事情で組織的に応援することはある。それなら、与党vs野党という国政選挙の構図と一緒なのだから同列に考えていいじゃないか、と考える人もいるかもしれない。しかし、地方選挙は国政選挙とは異なり、あくまで各自治体の住民のために行うものだ。
国政で問題となっている争点を地方選挙に当てはめるのはおかしいだろう。
例えば、争点として挙がっている「少子化対策」。少子化は全国的なものであり、東京都単独でできることは限られている。東京都の出生率の低さは、東京一極集中に起因するところが大きい。生活コストが高いが故に、晩婚、未婚、非婚などに拍車がかかってる面は否めない。
そうした国レベルの政策の話より、東京都固有の問題を争点にすべきだ。
例えば、「首都直下地震への備え」。東日本大震災の時に帰宅困難者で大混乱に陥った記憶は薄れてきているが、この8年でどのような対策が取られたのか?
また、首都直下地震が起きたら、環状7号線沿いの木密地域に一気に火災が広がり大惨事となることがわかっているが、その対策はなされているのか?さらにいえば、震災時に幹線道路を塞ぐ懸念が持たれている老朽歩道橋の問題や電柱地中化は進んでいるのか?
臨海地区に雨後の竹の子のようにタワーマンションが建っているが、災害時に上階にとり残されたままになる、いわゆる「高層難民」問題対策は?
晴海フラッグの分譲マンションに、転売目的の投資家が殺到した問題。なぜ未然に防げなかったのか、他の物件で同様な問題が起きないようにするためにはどうしたらいいのか?
EVインフラも十分普及していないのに、水素バスなどに莫大な公費を投入している現状をどうするのか?
東京オリンピックのレガシーである各競技場の膨らむ維持費の問題は?
増える一方の道交法違反おかまいなし、無法な自転車、電動キックボード、モペッドなどの取り締まり強化策は?
東京都でも検出されているPFOS、PFOAの問題は?
などなど、ちょっと考えただけでもこれだけある。これらの問題に各候補者がどのような対策を取ろうとしているのか、調べたらいいだろう。
最後にもう一つ。
首長は、議会と対立したら何も出来ないということを有権者は知るべきだ。どんなに勇ましいことを言おうが、予算も条例も議会を通られなけばどうしようもない。どこの首長も最大派閥とは妥協しつつ、議会運営を行うものだ。
筆者がこう指摘しても、新聞、テレビは国政の与野党対立構図を都知事選に持ち込み、連日大々的に報じるだろう。
しかし、すくなくとも都民は、自分が重要だと考える都政の課題を解決してくれそうな候補者を選ぶべきだ。
センセーショナルな「見出し」や「切り取り動画」などに左右されず、自分自身で判断してもらいたい。
そしてなにより、投票することが最も重要なことは言うまでもない。4年前の都知事選の投票率は55%だった。2人に1人しか投票に行っていないのだ。自分の住んでいる街の長を選ぶ権利。持っている人は、是非行使してもらいたい。
(了)
トップ写真:東京都知事選挙ポスター掲示場 東京都・港区 ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。