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.社会  投稿日:2022/10/15

「再生建築」が拓くサステナブルな社会


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

リフォームやリノベーションとも違う、新たな建築の概念、「再生建築」や「リファイニング建築」が注目されている。

・老朽化したオフィスビルの再生建築の場合、不動産価値が上がり、流動性が高まるなどのメリットが大きい。

デベロッパー、建築家、金融機関らが協力し、再生建築というサステナブルな選択肢を普及させていく必要性は高まる。

 

新築でもない、いわゆるリフォームやリノベーションとも違う、新たな建築の概念が注目されている。「再生建築」や「リファイニング建築」などと呼ばれるものがそれだ。一体どのような建築なのか、探ってみた。

■ リファイニング建築(再生建築)とは

まず「リフォーム」は、老朽化した建物を新築程度に戻すことをいう。いわゆる原状回復だ。剥げた外壁の塗り替え、屋根の葺き替え、床・壁・襖・障子・天井など内装の修復、老朽化したガス湯沸かし器の交換などがそれにあたる。テレビ朝日系列の人気番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」を思い出す人も多いだろう。

リノベーション」は、既存の建物に付加価値を与えるものを言う。3LDKのマンションを広いリビングを持つ1LDKにする、キッチンやバスを最新のものに変える、ゼロエネルギーハウスにする、などがそれに当たる。

一方、「リファイニング建築(商標登録第4981412号)」は「青木茂建築工房」代表取締役の青木茂氏が、1999年に再生建築手法として提唱したものだ。

青木氏はその定義を、「既存建物の耐震性能を建物の軽量化や耐震補強によって現行法レベルまで向上させるとともに、既存構造躯体の約80%を再利用しながら、建て替えの約60~70%のコストで、大胆なデザインの転換や用途変更、設備一新を行う手法」としている。耐用年数調査によって建物寿命の長寿化を目指し、価値ある建物を次世代に引き継ぐことを目的としており、リフォームやリノベーションとは一線を画す。

■ リファイニング建築(再生建築)のメリット

青木氏は、リファイニング建築の原則として以下の5つを挙げている。

1 内外観ともに新築と同等以上の仕上がり

2 新築の60〜70%の予算

3 用途変更が可能

4 耐震補強により、現行法規及び耐震改修促進法に適合する

5 廃材をほとんど出さず、環境にやさしい

これらは、どれもリファイニング建築のメリットと言い換えることができよう。こうしたメリットに加え、リファイニング建築は、新築や立て替えと比べ、工期も短い。総合的に見て、コストを抑えつつ、新築同様の性能を実現できるのだから、賃貸物件として見たとき、建て替えに比べ、リファイニング建築物件の事業性が高くなるのは明白だ。

特に上記5は、脱炭素化につながり、持続可能な社会実現を目指すSDGsの取り組みに寄与するという点で大きく評価される。

■ リファイニング建築(再生建築)の実例

こうしたリファイニング建築(以下、再生建築)の実例を見てみよう。

既存建築物の再活用コンサルティングを専門としている株式会社再生建築研究所は、住宅とオフィスで数々の再生建築を手掛けている。

住宅の具体例としては、築50年のRC集合住宅を耐震+断熱改修・内外装の更新により再生させた「ReBreath Hongo2018」が挙げられる。

これは東京都文京区本郷にある旧耐震で高さが既存不適格の共同住宅の耐震改修を含めた再生計画だ。この住宅の問題は新築すると既存不適格により容積が減少してしまうこと、北側にしか庭が造れないことだった。そのため新築と同等にバリューアップすることで容積率をキープし、南に広い庭を保持した。

▲写真 「ReBreath Hongo2018」再生前(左)、再生後(右) 出典:株式会社再生建築研究所(ⒸKenta Hasegawa)

一方、オフィスの今後の計画例として、東急不動産×再生建築研究所の業務連携による太子堂一丁目計画が挙げられる。両社提携後初のプロジェクトで、東京都世田谷区太子堂一丁目所在、築44年旧耐震基準のオフィスビルを一棟丸ごと再生する計画である。

耐震補強を行うと同時に、デザイン性に配慮した意匠計画を行うことで高い安全性と収益性を確保した持続可能な建物にすることを目指している。竣工予定は2023年5月末だ。

▲写真 (仮称)太子堂一丁目計画 (再生前) 出典:東急不動産株式会社

東急不動産は今後も渋谷周辺地域や都心5区を重点エリアに再生建築研究所と連携した再生建築を推進し、持続可能な社会への貢献を目指していく予定だ。他のデベロッパーも再生建築には注目しており、今後市場は活性化していく見込みだ。

・課題

都市部などで老朽化した分譲マンション(集合住宅)が再生建築を行いたいという場合、以下の問題が発生する。

1つ目は、そもそも「都心部や地方都市の中心部の建物以外、再生建築の対象となりにくい」、という問題だ。いくら再生建築でコストを低く抑えて建物の付加価値を上げたとしても、需要が弱ければ、賃貸物件としての事業性は低いままだ。事業計画は慎重に立てねばならない。

2つ目は、「資金調達」の問題だ。老朽化した分譲マンションを再生しようと思ったら、原資は修繕積立金や自治体の補助金などになるが、不足分は金融機関から借り入れしなければならない。先立つものが準備できなければ再生そのものに取りかかることは出来ない。

3つ目は、「合意形成」だ。分譲マンションの場合、管理組合がデベロッパーや金融機関を巻き込んで再生プランを立てねばならないが、ノウハウがなければ外部コンサルタントに頼むほかはない。高齢化した区分所有者は、工事の間、仮住まいに引っ越さねばならず大規模再生には抵抗感があるだろう。区分所有者間の合意形成も容易ではない。

一方、老朽化したオフィスビルの再生建築の場合、上記のような集合住宅の特有の問題はない。むしろ、再生建築により、耐震補強による安全性の向上や、現行法規では不適格となる物件のメリットを活かした計画が可能になること、さらには検査済証未取得物件の活用が可能になるなどメリットが大きい。その結果、不動産価値が上がり、流動性が高まることになる。こうしたことから、再生建築は今後、オフィスビルを中心に広がっていく可能性が高い。

今後、デベロッパー、建築家、金融機関らが協力して、リファイニング建築(再生建築)というサステナブルな選択肢を普及させていく必要性は高まっていくと思われる。

(了)

トップ写真:神南一丁目ビル再生計画 出典:株式会社再生建築研究所(ⒸKenta Hasegawa)




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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