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.政治  投稿日:2024/6/19

「仕分けの女王」蓮舫氏、異色の軌跡を辿る


安積明子(政治ジャーナリスト)

「安積明子の永田町通信」

【まとめ】

527日の出馬会見で、東京都知事への意気込みを語った蓮舫氏だが、その後は失速気味だ。

・この都議補選は「小池対蓮舫」の代理戦争といえるものだ

・「日台」の国籍でタレントとして売り出した蓮舫氏、その批判力には定評があるが、果たして東京都のリーダーになることはできるのか。

 

小池都政をリセットする」。

 527日の出馬会見で、東京都知事への意気込みを語った蓮舫氏だが、その後は失速気味だ。原因は「思い付き出馬」で、真剣に考えた結果ではなかったこと。出馬会見でも「ここ2週間くらいで決断した」と吐露している。

 しかし決意を強めたのは5月26日に投開票された目黒区都議補選に違いない。区長選に出馬した2名の議席を埋めるために行われた同選挙で、立憲民主党の西崎翼氏は1万9526票を獲得してトップ当選を果たし、自民党の井澤京子氏は1万1039票で落選した。

 西崎氏は立憲民主党の手塚仁雄幹事長の秘書から蓮舫氏の秘書に転じ、区議を経て2021年の都議選で初当選。4月の区長選に出馬するために都議を辞したが、落選して出直し補選で再選された。

 井澤氏は2005年の衆院選で議席を獲得。2008年の自民党総裁選では小池百合子知事の推薦人のひとりだった。その関係があったため、小池知事は都議補選で井澤氏を応援した。街頭には立たなかったが、動画でメッセージを発信し、井澤氏のポスターに小池知事の写真と応援コメントを入れたシールを貼らせている。

 いわばこの都議補選は「小池対蓮舫」の代理戦争といえるものだ。それに勝利したと思えば、蓮舫氏が自信を深めるのは当然だ。

 もっともその背後には、蓮舫氏の盟友といえる手塚仁雄立憲民主党都連幹事長の存在がある。手塚氏は蓮舫氏とは大学時代からの遊び友達で、政界に誘った“張本人”。選挙に弱いため、日本共産党に近寄らざるをえないという事情を抱える。

 そのために発生したのが日本共産党が蓮舫氏の写真を入れた政策ビラを広く配布した事件だ。寝耳に水の立憲民主党は抗議したが、日本共産党は「承諾も得たし、写真ももらった」と主張した。どうやら次期衆議院選での共産党票狙いの手塚氏が独断で行ったものらしく、岡田克也幹事長は手塚氏に「謹慎」を言い渡したという。

 10代の頃に芸能界入りし、88年にはクラリオンガールに選ばれてその名を知られるようになった蓮舫氏の青春は、こうした旧友とともにあった。父は台湾の政商・謝哲信氏で、祖母は戦後の日本政界に太いパイプを築いてバナナの輸出で財をなした陳杏村氏。蓮舫氏の名前はその祖母が付けたものだという。

 出生時は旧戸籍法により中華民国籍だったが、1984年の同法改正でその翌年に日本国籍も取得した。ただし中華民国籍をそのままにしていたため、2016年に民進党代表に就任した後、二重国籍問題が発覚。初動の対応に失敗したため、それまで順調だった蓮舫氏の政治的パスが大きく狂いだした。

 他のタレントと差別化するために「私は外国人」と強調したり、「2つの国籍を持つ」とアピールした過去の発言などが多数掘り起こされた。釈明のための会見も開かれたが、蓮舫氏はうまく説明できずに終わった。そもそも国政に携わるなら、国家に重い責任が生じるし、ましてや野党第一党の党首は、政権交代すれば総理大臣に就任する可能性が高い。それが外国籍を保持したままで果たして良いのか―。

 国籍取得に血統主義を採らないアメリカでさえ、大統領に就任するには国内で出生していなければならないとする。一方で日本は二重国籍を認めてはいないが、それを強制的に排除する規定がない。

 蓮舫氏は説明に手間取った末、戸籍の公開を拒否するなど抵抗したことで、ますます孤立を深めていった。最終的には「子供のプライバシー」を理由に戸籍の一部を公開したが、国民からの信頼は大きく失墜した。

 2017年7月に突然、代表を辞任したのも、そうしたことが要因になったのだろう。それからの蓮舫氏はすっかり影が薄くなった。2022年の参院選での蓮舫氏の得票数は、67万339票まで落ち込んだ。最盛期の2010年に獲得した171万734票から、100万票以上も減らしている。

 蓮舫氏にすれば、政治家としてはこのままではじり貧になりかねないということで、都知事選出馬を決意したのだろう。「政治とカネ」問題で岸田自民党に猛烈な逆風が吹いている今こそチャンスだと判断したに違いない。

 仮に都知事選で落選しても、10増10減で5つも増えた東京都内の衆院小選挙区というセーフティネットがある。“盟友”の手塚氏が地元目黒区を含む東京26区を準備してくれている。そのために同区での出馬を希望し、もともと手塚氏と関係が良くない松原仁元拉致問題担当大臣が離党することになったが、そんなことは知ったことじゃない。

 「日台」の国籍でタレントとして売り出し、その知名度で当選を重ね、民主党政権では「仕分けの女王」として名を馳せた蓮舫氏。その批判力には定評があるが、果たして1400万人の人口をかかえる東京都のリーダーになることはできるのか。

トップ写真:東京の首相官邸で行われた菅直人新内閣総理大臣との初会談の後、ポーズをとる蓮舫行政刷新担当大臣。2010年6月8日。

出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images




この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使

安積明子

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