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.政治  投稿日:2025/3/19

サリン事件30年 怖さ感じなかったオウム・麻原彰晃 インタビューで疑惑否定


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・地下鉄サリン事件から30年とあって、再びメディアを賑わしている。首謀者、オウム真理教の麻原彰晃教祖らはすでに死刑が執行されている。

・筆者は事件前、麻原教祖に、インタビューし、すでにささやかれていた別な疑惑への関与について聞いた。

・麻原は疑惑を否定、修行不足が招いた誤解と殊勝な弁明、そこからは凶悪な集団の指導者らしい怖さも殺気もオーラも感じなかった。

 

■「誤解されるのは修行不足だから」

1990(平成2)年2月18日に総選挙の投開票が行われたが、麻原彰晃率いるオウム真理教が「真理党」という政党を設立、この選挙戦で25人にのぼる候補を各選挙区に擁立した。

当時は中選挙区、東京4区(渋谷、杉並区)から、麻原教祖が出馬した。

筆者は、選挙取材を装って麻原教祖を観察、すでに教団の関与がささやかれていた横浜の弁護士一家失踪事件への教団関与について聞いてみることを思い立った。

取材許可にあたっての唯一の条件は「(教祖を)〝尊師〟」と呼んでくださいというただそれだけだった。

雪の降る寒い夕方、JR中央線阿佐ヶ谷駅前で待つこと30分。浅原候補一行がベンツで乗り付けてきた。演説終了後、駅前広場に止めたベンツの中で〝インタビュー〟。

自らも目が不自由だというだけに、福祉政策に熱弁を聞かされたが、ひとしきり、話がおわったところで切り込んだ。

「弁護士一家の事件に教団が関係しているといわれていますが」。

予想していたのか、麻原尊師は怒り出すわけでも、声を荒げるわけでもなく、「そういううわさは聞いています。私の不徳の致すところです。まだまだ修行がたりないということです」と静かに答えた。

「教団は関係がないのですか」

「修養を積んで、尊敬されるようになれば、そんな誤解をうけないのでしょうがね」

「お忙しいところ、ありがとうございました」

「寒いところご苦労でした」。

慇懃なやり取りに終始した。

幹部用のクルタに身を包んだ麻原は、魁偉な容貌を除けば、静かな語り口、強いカリスマ性も感じず、強烈な印象もなかった。しいて言えば、風変わりな青年という印象だった、風呂に入っていなかったのか、かすかに異臭がした。

麻原は当時30半ば、この時の得票はわずか1800票だった。

オウム真理教が地下鉄サリン事件を引き起こしたのは、その5年後、教団の疑惑を追及していた坂本堤弁護士一家は、インタビューの前年にメンバーに殺害されていことも、明らかになった。

■あらたなテロを予兆させる

思えば、オウム真理教によるテロ事件は、犯罪においてもあらたな時代が到来することを示す予兆だった。

アメリカのクリントン大統領(当時)は、「国際テロ組織」、「麻薬など国際犯罪集団」の跳梁が、米国と旧ソ連による冷戦終結後の世界にとってのあらたな脅威となると繰り返し強調していた。そう言うときは「東京の地下鉄で起きた神経ガス攻撃」という枕詞を冠するのが常だった。

不幸にも、懸念は時を置かずに現実になる。

2001年9月11日、イスラム主義の国際テロ組織、アルカーイダがニューヨークの世界貿易センタービル、ワシントン郊外の国防総省ビル(ペンタゴン)にハイジャックした航空機を激突させ3000人以上の死者、2万5千人以上の負傷者を出す同時多発テロを起こす(9・11事件)。

2014年ごろ、中東で跳梁した疑似国家「イスラム国」(IS)が暴虐非道の限りを尽くしたことも記憶に新しい。日本人も殺害したこのグループは、もちろん国家ではなく、イスラム過激派のグループにすぎなかった。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった翌年の2023年、プーチン政権に反旗を翻した「ワグネル」も、民間軍事会社としての立場から、ロシア軍を補完する勢力だった。

IT時代の最近では、武器を使ったテロではなく、国際ハッカー集団が暗躍、正体不明の「アノニマス」がウクライナ侵略をめぐってロシアを攻撃対象と宣言するなど、注目を浴びた。

アメリカの各情報機関で構成する国家情報会議が2012年に、近未来の世界を予測してとりまとめた「グローバル・トレンド・2030」では、近い将来、世界で主役を担う存在として、多国籍企業、大規模NGO、強力な研究機関などの非政府組織をあげ、それらが環境問題などで世界をリード、これに加えて国際テロ組織、犯罪集団も各国にとって大きな脅威となるーと指摘したことがある。

■刑執行から7年、テロ撲滅の道遠く

サリン事件30年を機に各メディアが再び事件に焦点をあてている。日本はじめ各国は、脅威への対抗手段、防御策を確立したのだろうか。

最近では、安倍晋三元首相殺害、岸田前首相襲撃のように集団によらず、個人で犯行に及ぶというあらたなケースへの対策も迫られている。テロとの戦いは止むことがない。

麻原教祖は2018(平成30)年に、側近だった12人らとともに死刑を執行された。それからでもすでに7年が経過している。

トップ写真:麻原彰晃(撮影日不明)出典:Handout/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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