トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析
その5 左翼と大学とLGBT
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米で高等教育が左翼を助長、特に入学試験や入学許可のあり方が原因か。
・宗教に懐疑的な目を向ける『世俗主義者』が民主党内で増加、背景にリベラル思想の影響。
・富裕層かつ社会的地位があるLGBTは「抑圧された少数派」ではないため、左翼から支持されない。
古森義久「アメリカ社会では学歴や所得が民主党、共和党、さらにはリベラル、保守の区別につながっていくという傾向が近年はあるということですね。とくにいまの高等教育が左翼の助長の原因になるという指摘は興味深いです」
ケビン・ドーク「さきほど紹介したワシントン・ポストのコラムニストのハミド氏は左翼の価値観と高等教育の相関関係がどうして進むかについても分析しています。私はその分析は正しいと思います。その相関関係は左翼の教授たちによる洗脳よりも、大学でのより広範な文化プログラムが教室で学生たちに対して社会相互反応を強調することによる結果でしょう。
さらに私としてはそれに加えて、左翼的な価値観を持ち、政治活動の経歴をも有する学生たちを惹きつけている多くの大学の入学試験や入学許可のあり方をもその種の要因にあげたいです。私は長い間、私たち教授は、私たちが思っているほどは学生に影響を及ぼすことはなく、学生の知見を形成する上でもさほど重要ではないだろうと推測してきました。その点にハミド氏のような人物が同調するのは、うれしいことです」
古森「大学の入学許可のプロセスまでが左翼に思想を助長している、というわけですね。その一方、教授たちの教育は学生の思想にはそれほどの影響を及ぼしていない、という考察も意外です」
ドーク「アメリカの大学での左翼による洗脳と、キリスト教に対する敵意との関係は、ハミド氏が正しく指摘するもう一つの点です。彼は、『2000年ごろからこの教育の分極化は、リベラルな政治的想像力における第二の深い変化と一致している』と指摘します。民主党員の間の社会的リベラリズムは、彼らを宗教、とくにキリスト教の公的生活における役割に対してより懐疑的にさせました。 公的な宗教に対して公然と不信感を示しているアメリカの『世俗主義者』の明確なグループ(人口の10%以上を占め、その数は増え続けている)が、民主党内で強力な勢力となっているのです。
ハミド氏は民主党の中でキリスト教に敵対的な勢力の割合を過小評価しているかもしれません。しかしこの勢力は民主党内で支配的で、決定的な力を持っているという彼の考えは確かに正しいと思います。しかし、彼は今日の左翼の多くがキリスト教に敵対的である理由については、あまり率直ではない。
彼ら、つまり左翼の人たちはキリスト教が経済的正義(貧しい人々や孤児の世話など)に焦点を当て、世界平和のために戦い、死刑に反対するならば、ほとんど容認することができるでしょう。まあ、ほぼキリスト教を許容するだろう、ということです。 しかし、なお、彼らはキリスト教の信仰に再び参加したいとは思わないのです。
いや、彼らを本当に突き動かし、反発させるのは、男色セックスや罪のない命を奪うこと(中絶を考えてみてください)に対する聖書の命令です。 左翼にとって、その命令は純粋で単純な憎しみであり、そのような憎しみに妥協してはならないと彼らは主張します。 彼らの庭の看板がいたるところに書かれているように、『憎しみにはここには家がない!』 ということなのです」
古森「左翼とLGBTとの関係はどうでしょうか。リベラル過激派や左翼は必ずしもLGBTの活動をあまり積極的には支持しないという指摘もありますね」
ドーク「今日のアメリカの左翼がLGBT問題を支持しないのは、抑圧された少数派に同情しているからだと理解することは重要です。(同性愛者はアメリカでは少数派かもしれないが、彼らは『抑圧されている』とはいえないでしょう)。LGBTの主体である同性愛者たちはほとんどのアメリカ人よりも多くのお金を持ち、高等教育を受けており、法的に保護された特別な地位を享受しています。 さらに同性愛者たちは、アメリカの帝国主義、奴隷制、人種差別の歴史的罪を慎重に熟考して アメリカを道徳的な国にしたい、と思っているわけでもないでしょう。
いや、アメリカの左翼の大半は、アメリカの歴史についてほとんど知らず、気にもしていません。 そして、時には歴史を知っているような主張をすることもあるかもしれませんが、そのような議論はせいぜい自己正当化の一形態に過ぎません。LGBTの問題を受け入れる本当の理由をうまく隠すために、自分自身について気分をよくするための議論だともいえましょう。 そして、その本当の理由とは何でしょうか?
これまで見てきたように、左翼はますます権力者層、特権階級、富裕層から構成されるようになってきています。 そのため、彼らは自分たちの耽溺や快楽をあえて妨げようとする道徳体系には怒りを感じています。 例えば、私は民主党がLGBTと中絶賛成政策の両方と連携を保っていることを理解できません。 一方のグループは他方とは何の関係もないように思われます。 しかし、この連携は権利意識に基づいているのです。つまり自分の個人的な欲望、とくに性的快楽を妨げるものはすべて破壊されなければならない、という意識なのです」
トップ写真)第54回カリフォルニア州LGBTQプライドパレード 2024年6月30日カリフォルニア州サンフランシスコ
出典)Miikka Skaffari/Getty Images