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.国際  投稿日:2024/12/9

トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析 その6 地方での左翼への逆流


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米では、左翼思想が特権階級や富裕層に広がっており、大学がその誘導に重要な役割を果たしている。

・ドーク氏は、オバマ大統領が社会的・文化的変化の波に便乗し、特にLGBT問題や中絶政策を支持したと指摘。

・アメリカの伝統的なキリスト教的価値観を持つ地方住民がトランプ支持に繋がっているが、その人数は減少している可能性がある。

 

古森義久アメリカのいまの左翼は特権階級や富裕層が多いというのは意外な指摘ですね。しかもその左翼思想の広がりは各地の大学が重要な役割を果たしている、というのも、一般に指摘されてきたことではありますが、入学試験のプロセスからすでに左翼への誘導がなされている、というのは驚きです。そしてオバマ大統領が果たした役割も、おもしろいです」

ケビン・ドーク「オバマ大統領がついうっかり人工妊娠中絶について軽率な説明をしたことがあります。自分の娘たちが『赤ん坊によって罰せられることは望まない』と述べたのです。中絶支持政策の理由についての説明でした。彼が本当に言いたかったことは、娘たちがよい教育を受け、高給の仕事を持たねばならないのに、それが赤ん坊を産むことによって中断されてはならない、という主張でした。

いまの社会では結婚前のセックスは普通に考えての特権だとみなされています。同様に、性的活動を生殖への結果という点を考えずに、個人的な快楽にすぎないと考える人たちにとっては、LGBT問題への支持が人間の性的活動を自己中心的な快楽だけだとみなすことと合致することになるでしょう。しかしそうしたセックス観やLGBT運動に反対するのがキリスト教の聖書の教えなのです。とくにカトリック教会の人間の性的活動を新しい生命と関連づける教えこそがその種の現代のセックス観への反対なのです。 

こうした広範な社会的、文化的な変化が起きていることを考えれば、オバマ氏がなぜ1996年から2012年の間に、『同性間のセックスや結婚』を深化させ、2008年にはアメリカを根本的に変えると宣言したことが理解できるでしょう。ただしオバマ氏はアメリカ社会の文化や宗教の変化を主導した、というよりも、すでに起きていた変化の波に自分の政治的な利益のためにうまく便乗したのだといえます」

古森「アメリカ社会での政治に結びつく価値観ではやはりセックスに関する考え方が大きな要素なのですね。その流れのなかでバラク・オバマという人物が残した足跡はひとつの大きな曲がり角を画したように思えます」

ドーク「はい。しかし、これまで説明してきたアメリカの人口動態上の変化、とくに1990年代に始まったアメリカの非キリスト教傾向は、オバマ大統領登場の単なる前提条件だったともいえます。この変化は同時にバイデン大統領の登場、さらにはトランプ大統領の再勝利にとっても前提条件だったといえるのです。ただしトランプ大統領はこの変化の流れを数年間は止めることはできるでしょう。

ここで重要な点があります。トランプ支持者たちのなかには、都市部ではない貧困な地方で粗末な家、崩れた家庭で暮らす人たちがいて、しかもキリスト教の教えを体系的には信奉せず、また一定の教会に所属することもない、という場合も多いことです。ただしこういう人たちは子供時代に学んだキリスト教の伝統的な値価観を保っているのです。彼らは妊娠中絶は嫌いであり、同性婚にも反対するのがほとんどです。この点を認識することは大切です。

こういう人たちは大学教育を受けていない場合が多いけれども、一方、左翼の価値観に基づく大学教育を避けたのだともいえます。しかしこの種の文化的なキリスト教信者たちはアメリカ社会では急速に人数が減っています。その人たちの世代が高齢となり、その子供たちはキリスト教的な文化のなかでは育っていないからです。

こんご将来、人口動態上のこのようなグループはキリスト教への直接の接触がないままに、伝統的な社会の価値観を抱き続けるでしょうか。時間の経過がその答えを示すでしょうが、いまの時点では私は楽観的ではありません」

 

古森「しかし少なくとも2024年11月の大統領選挙という観点からみれば、こうした地方の農村部、山間部などの住民の考え方こそがトランプ氏への支持と凝縮し、しかも全米的な広がりをみせ、トランプ氏圧勝という結果をもたらしたのではないでしょうか。

確かにキリスト教の教えを正式に受けてはいない、しかも自分自身をキリスト教徒とはみなしていない市民たちはキリスト教への信仰観からは遠くなっているかもしれない。しかし子供のころに親に連れられて日曜日に通った教会での教えがその後、成人して自分は教会には行かなくなったけれども、考え方自体は身についている、という人たちは非常に人数が多いのだろう、という印象は私自身の考察でもたぶんにあります。ただしその人数がこれからやはり減っていくのかどうか、大きな疑問点ですね」

(つづく)

トップ写真:IL州アーリントンハイツのセントジェームズ教会で、エピファニーのごちそうで何百人もの参拝者が日曜日のミサに出席する。2020年1月5日。

出典:patty_c/Getty Images

                        




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