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.国際  投稿日:2024/12/9

トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析 その7 同性結婚とキリスト教の教え


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

米国のリベラリズムもキリスト教への影響という点では限界がある。

・例えば、ジャック・フィリップス氏がゲイカップルの結婚ケーキ制作を拒否し、2018年の最高裁判所で勝訴。

・この事件は、LGBTの活動家が、キリスト教徒をどこまで迫害できるのかという度合いを示した。

 

ケビン・ドークアメリカでのリベラリズム、つまり左傾の思想傾向もキリスト教への影響という点ではそれなりの限界があります。その限界を示す実際の事例を3件ほど紹介しましょう。

まず第一はアメリカ政府対ジャック・フィリップスという判例です。2012年7月、2人のゲイの男性が自分たちの結婚祝いのケーキをジャック・フィリップスというキリスト教信者のケーキ店に注文しました。フィリップス氏は自分自身のキリスト教の宗教的な信念を理由に2人の男性への結婚式ケーキを作ることを断りました。ただしその2人には他のケーキ類ならなんでも作って、売りますと伝えました。

しかし2人の男性は当時、コロラド州では同性婚が合法ではなかったにもかかわらず、同州の反差別法に基づいてフィリップス氏に対して苦情の訴訟を起こしました。コロラド州地方裁判所はフィリップス氏にビジネス慣行を変えて、同性愛者の結婚ケーキの製造や販売を含むことを命令しました。それに対してフィリップス氏はウェディングケーキ自体を作ることを止めてしまいました。その結果、彼はビジネスの40%を失う結果となりました。

フィリップス氏の控訴を受けたコロラド州控訴裁判所は同氏に対する地方裁判所の判決を支持しました。するとフィリップス氏はアメリカ連邦最高裁判所に上訴しました。 そしてその6年後の2018年6月4日、最高裁判所は控訴審の決定を覆す判決を下したのです。コロラド州当局が宗教に対する中立性という憲法上の要件を維持するのではなく、宗教に対する敵意を示したと審判して、コロラド州当局や地方裁、控訴裁の判断を批判したのです」

古森義久「究極の連邦最高裁判所ではフィリップス氏が全面的に勝利した、ということですね。よくここまでがんばりましたね。ただし彼の背後には保守系団体がついて、支援をしていたのでしょうね」

ドーク「フィリップス氏は確かに最高裁判所で勝訴しました。しかし彼の問題は終わりませんでした。 2017年6月、オータム・スカルディナという人物がそれまで男性だとされていた状態から公式に女性だと宣言してカミングアウトしたことを祝うために、フィリップス氏に特別なケーキを注文したのです。フィリップス氏は再び、人間は性別を変えることはできないという彼の宗教的信念を理由に辞退しました。 スカルディナ氏はこれに対して訴えを起こし、コロラド州人権委員会は再びフィリップスを有罪としました。同氏は再びコロラド州最高裁判所に上訴しました。

今回はアメリカ連邦最高裁判所のフィリップス氏が経営するマスターピース・ケーキ店とコロラド州当局との対立での判決でフィリップス氏が勝っていたにもかかわらず、コロラド州最高裁判所はこの案件を棄却しました。法的な特殊性を理由として、フィリップス氏が差別の罪を犯したかどうか、または彼が宗教的権利の範囲内に留まっていたか、についての判決を下すことを明確に拒否したのです」

古森「本来ならばコロラド州最高裁判所はこのカミングアウトした女性の訴えをしりぞけ、フィリップス氏の宗教的信念からのノーを認めるべきだったということですね。連邦最高裁判所がすでにそういう趣旨の判決を下していたのですから」

ドーク「ところがそうはならなかった。このジャック・フィリップス事件が示したのは、LGBTの活動家たちが、宗教的信念を堅持するキリスト教徒をどこまで迫害するか、迫害できるのかという度合いでした。彼は連邦最高裁判所からの彼にとっての有利な判決にもかかわらす、他の活動家たちからの攻撃、そしてさらにコロラド州の法律制度全体からの攻撃をも、かわさなければならなかったのです。

アメリカでのこのような宗教的迫害の犠牲者はフィリップス氏だけではありません。 しかし彼はこの種の迫害がどこまで進むことができるかを示す悲惨な教訓です。フィリップス氏は少なくとも刑務所には入らなかった。しかしローレン・ハンディという女性の場合はそうではなかったのです。彼女は妊娠中絶クリニックを封鎖しようとしたのです。そのために彼女は5年の懲役刑を言い渡されました。 

彼女のグループの他の7人のメンバー、27歳から76歳までもが、24ヶ月から27ヶ月の懲役刑の判決を受けました。彼らは誰かを殴ったり、物的損害を与えたりはしませんでした。彼らはただ賛美歌を歌い、ロザリオで祈っただけだったのです」 

(その8につづく)

トップ写真:最高裁判所前で会見に臨む保守派キリスト教徒のパン屋ジャック・フィリップス氏(2017年12月5日ワシントンD.C.)出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images  




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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