トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析 その12(最終回)日本の「普通の国」への道
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・古森氏は、日本はLGBT反対が多数派だが、マイノリティの迫害はしないと述べた。
・ドーク氏は、アメリカのLGBT運動が本来の家族の在り方を危機に晒すと言う。
・両者は、日本が西洋のLGBT文化を盲目的に模倣すべきではないと主張した。
古森義久「LGBTへの反対は日本でも多数派だと思います。ただしそういう志向の人たちを迫害するわけではない。寛容になるけれども、自分はその仲間ではない、という構図です。日本では伝統的に男色などを許容する文化はあったとされています。ただしその文化が日本全体の政治までを動かすという気配はありません。
しかしドークさんの『日本は普通の国になりたければ、アメリカ風のLGBT志向には追随するな』という指摘はおもしろいと思いました」
ケビン・ドーク「いまアメリカでのLGBT運動が提起しているのは家族の本質という課題です。家族の本来の自然なあり方までが危機に瀕しているのです。家族は社会の基盤です。だから、すべての人々は、宗教に関係なく、この性道徳の革命が社会自体の革命であり、社会とともに国家の革命をどのように構成していくかを理解する必要があります。
大人は子どもに対してどのような責任を負っているのでしょうか。 社会や国家は、子どもが実の親に育てられることで、より健全になるのでしょうか? それとも、共産主義国のように、国家が共同体で子供を育てれば、社会はよりよくなるのでしょうか。
性的行動と子供を産むことを分離することには、どんな意味があるでしょうか。とくに2人の男性、あるいは2人の女性が自分たちの家で子供を育てたい場合、どのような意味を持つのでしょうか。それが本当に子供たちの最善の利益になるのでしょうか。多くの調査研究が、子供たちは自分の家に父親と母親がいるとよりよい人間に育つことを示しています」
古森「子供は父と母に育てられるのが最も自然で健全である、というのは万国共通の真実でしょう。もっともこんなことを述べただけでも、LGBTへの偏見だとか不当な攻撃だとみなされかねない、というのが最近の状況ですね」
ドーク「要するに、近年はキリスト教徒がLGBTの行動の正常化に対する闘いを主導してきましたが、根本的な問題はキリスト教の神学よりも広範であり、自然法の範疇なのです。日本語で『自然法』、あるいは『天地の公道』と述べても、理解されるかどうかはわかりません。
『自然法』と呼ばれるものは、それをどのような言葉で表現しようとも、人間社会によって普遍的に、あるいは少なくとも広く実施され、その普遍的な原則が守られているところで人々が最も繁栄することを実証した道徳的原則を指すのです。
LGBTの性的慣習を社会規範として位置づけようとするごく最近の実験は、人類の歴史を通じて多様な文化で理解され実践されてきた自然法との決別であることは確かです。 この最近の性革命が社会全体にとってよいことだと確信するには、まだそのための証拠が不十分です。 日本はアメリカ文化のこの側面からは距離を保っておくことが賢明でしょう。
日本側では欧米の自由民主主義国とされる国々がキリスト教徒を抑圧し、LGBTの志向を推進している世界的な実例を単に強調する人たちもいるでしょう。そして、そういう人たちは日本が米欧の諸国に『追いつき、追い越せ』と主張するかもしれない。明治時代の先人たちの言動を彷彿とさせるかもしれない。しかし、それは日本の歴史の誤った認識です。
古森「確かに、日本の過去にはそうした単なる西洋の真似、という文化吸収の傾向も強かったですね。ただし1980年代のバブル経済の時代には、逆に、西洋から学ぶことはもうない、というような傲慢な傾向も出てきました。それがまた日本経済の低迷にともない、謙虚な方向に戻ってきたといえそうです。こんな振り子を経た現在の日本は欧米の事物の導入や模倣に関しては意外とバランスが取れてきたのかもしれません」
ドーク「そうですね。明治の日本人にしても西洋に追いつくと述べていたのは、西洋を無差別に模倣するという意味ではありませんでした。 それは、西洋を強力にしたものを選択的に取り入れ、日本を強力にしないものを脇に置くことを意味したのです。
このプロセスは、1868年の明治天皇の『五箇条の御誓文』によって導かれました。御誓文の重要なポイントは、新しい慣習に取り組む際に、日本は天地の公道の原則に従うことでした。この自然法または普遍法の原則には、LGBTのアジェンダに沿った性的または道徳的な実験は含まれていませんでした。
日本人がこのような西洋文化の潮流に盲目的に従うことは、日本人が外国文化にますます依存し、独立を目指すわけでも、日本の伝統や文化に則った普通の国になるわけでもありません。 それは日本を強くするのではなく、弱体化させ、日本をますます広範な『戦後レジーム』に深く巻き込むことになり、それは現在の日本の問題を悪化させるだとなります。 日本がその過ちを犯さないことを願いたいです。
ご清聴ありがとうございました。」
(終わり。その1、その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8、その9、その10、その11)
トップ写真:明治神宮で最も高い大鳥居聖門(2019年6月11日)出典:iStock Editorial / Getty Images Plus
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。