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.国際  投稿日:2024/12/16

トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析 その8ヨーロッパでのキリスト教への攻撃


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・欧米諸国でキリスト教への攻撃が起きている。

・カナダでは、ゲイ地区で牧師がキリスト教の愛を説教し逮捕された。

・アメリカはフィンランドの宗教迫害に反応し、最終的に裁判所は被告に有利な判決を下した。

 

 

ケビン・ドーク「これまでキリスト教に対する攻撃のような実例を主にアメリカに焦点を合わせて語ってきましたが、この種の現象はアメリカ合衆国だけで起きているわけではありません。より広い欧米諸国でこの種のキリスト教への攻撃は起きているのです。

ほんの一例としてはカナダのトロント市内のゲイ地区で2019年6月4日、デビッド・リン牧師がキリスト教の愛について説教をしたことで逮捕されたという事件があります。リン牧師は『騒動を引き起こした』として逮捕され、一夜、留置されて翌日、保釈されましたが、その『罪』はトロント市内のゲイ地区として知られるウェルズレイ通りの教会の角で新約聖書の福音書の教えを説いたことでした。

リン牧師の説いた言葉は神の愛や許容についてが主体であり、男女の性差とか性行為についてではありませんでした。しかし彼が説教を続けると、聴衆は数を増し、敵対的な態度をみせ始めました。そのうちの何人かはリン牧師の動きを阻み、罵声を浴びせました。リン牧師は彼らに対して『あなたがたの愛はキリスト教徒を受け入れますか』と尋ねました」

古森義久「カナダでもそんな実例があったのですね。この種の宗教がらみの衝突には往々にして人種という要素もからみますね。このトロントの事件はどうだったのですか」

ドーク「重要な点ですね。トロントの事件で留意すべきは、この叫び声をあげ、敵対的な態度を示した群衆がほとんど白人だったことです。それに対してリン牧師は黒人だったのです。しかも静かな説教を続けていました。しかし警察はこの群衆に解散も求めず、リン牧師を守るような行動はなにも取りませんでした。それどころか、警察がリン牧師を逮捕すると、群衆は喜びの歓声をあげました。同牧師は刑事訴追を受け、一晩、留置所に拘束され、翌朝、保釈裁判所に出頭して、保釈されました。ただし翌月にまた裁判所に出頭する命令を受けました。

2020年7月10日、リン牧師が裁判所での審問に出廷した際、検察側は、逮捕は妥当だとみなしたけれども、同牧師を有罪にする合理的な見込みがないと結論づけたため、訴訟を取り下げたと言明しました。 幸運なことに、ライブビデオが当時の出来事を捉え、リン牧師が憎しみではなくキリスト教の愛だけを表現していることがはっきりと示されていました」

古森「ヨーロッパの類例ではどんな出来事がありますか」

ドーク「北欧のフィンランドで起きた有名な一連の事件があります。パイヴィ・マリア・ラサネン博士はフィンランドの政治家で、キリスト教民主党の議長(2004-2015)であり、2011年から2015年まで内務大臣を務めました。

2004年、彼女は人間の性についての短い神学小冊子『神が創造した男性と女性』いうタイトルの出版物を書き、彼女の教会がそれを配布しました。

その後、長い年月を経て 2019年にはラサネン博士はフィンランド福音ルーテル教会がLGBTを誇りにうたうような行事に参加したことを批判しました。そしてその批判のために扇動罪の容疑で刑事捜査の対象となりました。 『戦争犯罪と人道に対する罪』を規定する条項で起訴され、それぞれの罪状で2年の懲役刑に直面することになりました。

同時に同じフィンランドの保守的な福音ルーテル宣教教会のユハナ・ポホジョラ司教はキリスト教の教えに関する教会の教育の一部として使用されたラサネン博士の小冊子を改めて出版したことに対してヘイトスピーチの罪で起訴されてしまいました」

古森「こうしたアメリカ以外の諸国での出来事に対してアメリカ側がなんらかの反応を示すことはなかったのですか。アメリカでは民主、共和両党ともにこと宗教や人権の弾圧となると敏感に反応することが多いですよね」

ドーク「はい、フィンランドのケースにはアメリカ側からの明確な反応がありました。まずアメリカ上院の議員5人がバイデン大統領が宗教の自由担当の特使として任命したラシャド・フセイン氏にこのフィンランドの一連の宗教迫害の深刻な意味について警告を発しました。同時にアメリカ人の学者10人が『アメリカ国際宗教自由委員会』に同様の書簡を送りました。この書簡はフィンランドの出来事を『直接的な迫害行動』と断じていました。

その後の2022年3月30日、フィンランドの地方裁判所は被告に有利な判決を下しました。同性愛行為は罪であり、結婚は男性と女性の間でのみ起きるべきだ、と主張する法的権利を被告たちは有していることを確認したのです」

(その9につづく。その1,その2,その3,その4、その5,その6、その7)

 

トップ写真)第43回トロントプライドパレードに参加する人々:トロント、オンタリオ州 – 2024年6月30日

出典)Photo by Harold Feng/Getty Images

 

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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