無料会員募集中
.国際  投稿日:2025/1/29

第2期トランプ政権の本質は「復讐」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#04

 2024年1月-27-2月2日

【まとめ】

トランプの第二期政権は、第一期に比べ「進化」している。

・トランプ政権は、国務省、国防総省などの内部監察組織のトップを一気に解任。

・このような権力闘争が大統領の一方的勝利に終わるとは限らない

 

 

トランプ第二期政権発足から一週間が経った。「あっという間」と感じたのは、その間、あまりに多くの大統領令が署名され、新たな政策が打ち出されたからだろう。

 

ちなみに、日本では大手マスコミが元国民的アイドルグループメンバーのスキャンダル・芸能界引退問題をめぐり大騒ぎしていた。何と平和な国なのだろうか。

 

それはさておき、今日本では、というか世界中で、第二期トランプ政権に関する夥しい量の批判的報道が流されている。先週書いた通り、新大統領のバイデン前政権に対する「挑戦的」「挑発的」言動は、明らかに荘厳さや格調を欠いていた。

 

だが、考えてみれば、この種の政治的混乱も、米国政治史の中では決して稀な現象ではない。

 

この政権を米国内のリベラル系メディアの「受け売り」で批判することも、逆に、保守系メディアの「無批判の賞賛」に共鳴して礼賛することも、あまりお勧めしない。トランプ政権については、何が「本質的な問題」であり、何が「どうでも良いこと」かを、冷静に分析した上でしっかり論じる必要があると筆者は感じている。

 

こうした問題意識から書いたのが今週の産経新聞のWorldWatchだ。トランプの第二期政権が、第一期に比べ、「進化」していることだけは間違いない。有言実行、戦略性、用意周到さ、どれをとっても8年前とは大違いである。詳細は同コラムをご一読願いたいが、ここでは同コラムで書けなかったことを書こう。

 

第二期トランプ政権の本質を一語で形容せよと問われれば、筆者は「復讐と答える。

 

特に筆者が気になるのは、今週文字通り「闇夜に乗じて」、トランプ政権が国務省、国防総省など十数の主要官庁に置かれている内部監察組織のトップを、一斉に一気に解任したことである。これはとても狡猾かつ効果的な手法だと思う。

 

ワシントンの友人からは未だ何の連絡もない。だが、彼らが今頃「戦々恐々」だろうことは容易に想像できる。昨年まで正しいと思ってやって来たことが、今年になってことごとく「政治パージ」の対象となる。政治的中立ゆえに一定の雇用保証が認められていた一般職の連邦公務員が、突然失職の危機に直面するのだから穏やかではない。

 

流石に日本ではこんなことは当分起きないだろう。だが、敢えて誤解を恐れずに例え話をすれば、今ワシントンの「闇の政府の職員」呼ばわりされた人々の心情は、恐らく中国の文化大革命時代に吊し上げられた「反動知識分子」や、ナチスドイツの迫害に直面した欧州の「ユダヤ人」にも似た「絶望的思い」ではないかと推察する。

 

繰り返すが、今米国で起きている政治ドラマは、あくまで米国型民主主義の一側面に過ぎない。他方、そうであればあるほど、このような権力闘争が大統領の一方的勝利に終わるとは限らないことも、米国の民主主義の姿である。やれやれ、今年一年は、8年前以上に、米国政治に振り回されないよう注意しなければ・・・・。

 

 

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

1月28日 火曜日 イスラエルのUNRWA(国連パレスチナ支援組織)活動禁止法が発効 仏大統領、欧州委員会委員長と会談

 

1月29日 水曜日 米国務長官、カナダ外相と会談

カナダ・オンタリオ州首相、州議会選挙前倒し実施を発表

 

1月30日 木曜日 米上院、トランプ政権の国家情報長官と国連大使の人事につき公聴会開催

 

1月31日 金曜日 ミャンマーの国家非常事態宣言が失効

 イタリア首相、セルビア訪問 英外相、チュニジア訪問

2月1日 土曜日 トランプ政権、メキシコ、カナダ、中国に関税発動

インド財務相、2025年予算案を議会に提出

 

 

最後はガザ・中東情勢に簡単に触れたい。

ガザ戦争の停戦合意に基づき、これまでにイスラエル人女性7人と300人近いパレスチナ人の交換が実現した。

しかし、「悪魔は詳細に宿る」という諺の通り、この交換プロセスがいつまで続くかは今も予断を許さない。むしろ、今週筆者が気になった

のは今あまり報じられないシリア情勢である。

 

NYTによれば、アサド政権崩壊で楽観ムードが広がっていたシリア国内で、旧シリア国軍兵士が自宅に戻ったところ、その兵士により迫害を受けたシリア人たちの襲撃を受けたそうだ。古今東西、人間の感情だけはあまり進化していないようである。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

写真)サインした大統領をかざすトランプ大統領 2025 年 1 月 20 日 ワシントン DC

出典)Christopher Furlong/Getty Images

 

 

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."