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.国際  投稿日:2025/1/29

マレーシアとシンガポール、ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)の設立で合意


中村悦二(フリージャーナリスト)

 

【まとめ】

・マレーシアとシンガポールは「ジョホール・シンガポール経済特別区」設立で合意し、10年で100件のプロジェクトを目指す。

・JS-SEZはジョホール州の九つの地域を対象に、税制優遇や投資促進策を導入する。

・データセンター建設やIT企業の進出が進み、地域の成長と雇用創出が期待されている。

 

マレーシアとシンガポールは、2025年1月7日、ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)の設立で合意した。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相とシンガポールのローレンス・ウォン首相がマレーシアの首都プトラジャヤで開いた第11回両国首脳会議で、マレーシアのラフィジ・ラムリ経済相とシンガポールのガン・キムヨン貿易産業相による合意文書交換に立ち会った。

 

 5年内に50件、10年内に100件のプロジェクト達成目指す

JS-SEZの設立構想は2023年5月にラフィジ経済相が提案。同年7月にJS-SEZの検討タスクフォースが設置され、10月に両国首相がJS-SEZの共同開発で合意を表明していた。

両国は2024年1月に同経済特区の共同開発へ覚書を締結。2025年1月7日に最終合意に至った。

JS-SEZは5年以内に50件の高付加価値プロジェクトを達成し、2万人の熟練労働者向けの雇用創出を目指す。10年以内には、プロジェクト数を100件までに拡大させることを狙っている。

 

 九つの「フラッグシップ・エリア」が対象

JS-SEZは、6自治体におよぶ総面積3,500平方キロメートル超に広がる九つの「フラッグシップ・エリア(旗艦地域)」が対象。

日本貿易振興機構JETRO)によると、ジョホール州に所在する日系企業は2023年10月段階で電気・電子産業を中心に160社を超え、半数以上がジョホールバルやパシルグダンにある。

JS-SEZは、ジョホールバルとジョホール水道を隔ててシンガポールに隣接する。

外務省の海外日系企業拠点数調査によると、シンガポールには1,113社の日系企業があり、マレーシアには1,345社の日系企業がある。ただし、マレーシアの日系企業には東マレーシアへの進出日系企業も含まれている。

アンワル首相は「2か国が同一事業を通じてそれぞれへの投資促進で協同するのは国際的にもユニークな試み」とし、ウォン首相も「両国・地域の補完性を多くの利点をもたらすエコシステムと捉えることで、‶双方の強みを生かし、JS-SEZを競争力のある魅力的な活動の場にできる〟」と投資家に呼びかけた。

 特区内企業には税制優遇の恩典

JS-SEZはシンガポールや第三国から、製造・物流・食料安全保障・観光・エネルギー・デジタル経済・グリーン経済・金融・ビジネスサービス・教育・医療の11の分野への投資誘致を狙っている。

そして、マレーシア投資促進センターのジョホール支所のワンストップ機能を生かし、柔軟なビザ取得、高付加価値活動に対する特別法人税率や知的労働者への特別所得税率などの恩典も付与する。

 

 データセンター建設が相次ぐジョホール州

米国の不動産コンサルタント大手のクッシュマン&ウェイクフィールドが発表した「グローバル・データセンター市場ランキング(2024年版)で、ジョホールバルはアジア太平洋地域で7位と6位のシンガポールに次ぐ地位を占めている。

東京、北京、上海、香港、シドニー、それにシンガポールでは開発用地が不足し、開発コストも高騰するなどでデータセンターを新設するハードルが上がり、ジョホール州はそうした需要の受け皿のひとつになっている。

データセンターは、製造業のように労働集約的な産業ではないため直接的な雇用創出力は高くはないが、データセンターの誘致が進むことで周辺にIT関連ビジネスが集積し、ビジネスエコシステムの拡大が期待できるため、間接的な雇用創出効果を発揮する可能性がある。

 

実際、2023年秋に、台湾のサーバーラックの大手メーカーである緯創集団傘下のウィウイン社がジョホール州セナイ地区にサーバーラックの組み立て工場をオープンしており、2024年3月には日本電気(NEC)が同州イスカンダル・プテリ地区にサイバー防衛の監視・攻撃対応などを行うサポート拠点を開設したという。

 

トップ写真)夕暮れ時のジョホール(マレーシア・ジョホール)

出典)Kokkai Ng/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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