プライド捨てられず窮地の日産、次の一手は?

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・日産のプライドがホンダとの統合を阻んだ。1990年代の窮地と酷似。
・トランプショックで日産はリストラと米設備投資と出資者探しを同時に行わねばならない。
・三菱自のPEHV技術とe-powerなど電動化技術を前面に、難局切り抜けよ。
まさかの破談だ。ホンダから最後通牒を突きつけられ、引き下がらざるを得なかった。前回の記事(日産、プライドを捨てる時 ホンダとの統合で生き残れるか?2024年12月18日)で指摘したとおり、プライドが邪魔をした。
日産というのは不思議な会社で、プライドだけはエベレスト並に高い。1990年当時、有利子負債が2兆円ほど積み上がってにっちもさっちもいかなくなったとき、今回と同じく、出資してくれる会社を必死に探したが、その時アプローチした会社は、ビッグネームばかりだった。フォード、GM、ベンツ、VWなどなど。しかし、どこもけんもほろろだった。結局、カネを出してくれたのはまさかのルノーだった。
そんなに財務状況が悪化するまで経営陣は何をやっていたのかと不思議に思うかもしれないが、組合との暗闘で海外に活路を求めた石原俊会長(当時)の負の遺産を切ることは、誰もやりたがらなかったことが原因だ。思えば当時の日本車メーカーはうぶだった。海外進出に夢を抱いていたのかもしれない。
豪州の工場は1968年にVWから買ったが赤字を垂れ流し、閉鎖すべきだったが1990年になってもまだ決断できなかった。スペインのモトールイベリカにも巨額投資をしたが、収益的には貢献しなかった。海外事業が日産の経営の足を引っ張ったのだ。一旦進出したのに撤退はみっともない、というプライドが邪魔したのではないか。
車種統合も当時やらなかった。これもプライドが邪魔したからだ。事務方は大胆な車種統合案を作成したが、経営会議にまで上がることはなかった。
本来リストラをしなくてはならないはずなのに、決断ができない。その体質は今も昔も変わらないようだ。
そして現在。ゴーンのような独裁者がいなくなり、内田社長は経営会議をまとめきれない。ホンダにそこを見透かされた。
ホンダに振られた後、日産はファンドからの資金調達に動いているようだが、一方で鴻海もルノーに接触している。製造を鴻海に任せるのもひとつの手段かもしれない。ルノーが分離して作ったEVメーカー、アンペアというのもある。利用できないものか。
■ トランプショック
そこにトランプショックが襲ってきた。メキシコ、カナダへの関税引き上げの次は、日本からの輸入車両への関税引き上げを言い出した。こうなったらグローバル工順(どこで何を生産するかの計画)を根本から見直さなくてはならない。メキシコからの輸出がペイしなくなるなら、アメリカにある工場で増産しなくてならないだろう。日本から輸出している車種の生産も米工場で行う必要性も出てくるだろう。
そうなってくると、設備投資も一層かさむ。リストラをすると同時に、出資者も探さねばならない。一刻の猶予もない。
日産には世界で初めてEVを量産したノウハウがある。現在はHV、PHEVが売れているが、脱炭素の流れは止められず、いずれEVのシェアがじわじわ上がってくる。それまでは三菱のPHEVとe-powerでなんとか乗り切るしかない。聞けば第3世代のe-powerはアキレス腱の高速走行時燃費が改善されているというので期待している。
繰り返して言う。変なプライドは捨てリストラを断行せよ。現在持っている電動技術をフルに活かし、手を組むことができるメーカーがあれば同時にそれも探すしかない。とにもかくにも、日産に残された時間はそう長くない。それだけはいえる。
冒頭写真)第3四半期の業績を発表する日産内田誠CEO 2025年2月13日、横浜
出典)Tomohiro Ohsumi/Getty Images