【都議選公約分析】⑤共産党

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・共産党は「暮らしと福祉最優先」を掲げ、家賃補助や医療費助成、生活困窮者支援など分厚いセーフティーネット政策を提示。
・大手デベロッパー優遇の見直しや投機的住宅転売の規制など、都市開発への批判と対案も明確に示している。
・一方で、高齢者優遇や商店街支援など一部政策の公平性・持続性には疑問も残るが、都市のグランドデザインへの姿勢は評価できる。
「消費税減税へ道を開き、暮らし・福祉守り抜く都政に」と主張している共産党。「3つの重要課題」「実績からの前進」「分野別政策」から構成されており、その中身は分厚いものとなっている。賃上げを実施した中小企業に対して12万円を助成する支援制度、生活困窮100万世帯への月1万円の家賃補助、固定資産税軽減、社会福祉への手厚い改革を提起している。
◆3つの柱で住み続けられる東京のための分厚い提案
3つの課題とは何か。そして、具体的な政策を紹介しよう。
①都政として、賃上げに取り組みます:
【具体策】賃上げをおこなった中小企業に1人あたり12万円の「賃上げ応援助成金」制度を創設など
②国の福祉切り捨て政策から都民を守る防波堤となる都政をつくります:
【具体策】都が始めた民間病院等への臨時支援を継続・拡充、介護・障害福祉事業所への緊急支援、高すぎる国民健康保険料(税)と後期高齢者医療保険料を1人3万円引き下げ、国保料(税)の18歳未満の均等割をゼロ円など
③「稼ぐ東京」から「住み続けられる東京」へ転換:
【具体策】緊急月1万円の家賃補助、本格的な家賃補助制度の創設を国に働きかけ、固定資産税を都独自に軽減、 借り上げ都営住宅10年間で10万戸増など
【出典】共産党HP
このように「都民の暮らしと福祉を守ることこそ都政の最優先の仕事」という問題意識で分厚い都民への支援を提案している。減税が世間では政治的なトピックであるが、国民健康保険料(税)への3万円引き下げは非常に注目に値する。
「住まいは人権」という価値観を提起していて、新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど住宅価格の高騰についても具体的な事例や見解を示して警鐘を鳴らしているところが特徴的である。「家賃(マンション、50〜70平方メートル)も、この10年間で東京23区は1・4倍、多摩地域でも1・3倍に上昇しています。固定資産税や住宅ローンの支払いも増えています。普通に働く勤労者が住めない東京にしてはなりません」(日本共産党の2025都議選公約)という数字・事実に基づいたEBPM(証拠に基づいた政策形成:Evidence Based Policy Making)を進めている。
その問題解決策としても、原因がわかっているために、明確に打ち出すことができる。他の政党が利害関係者を横目に見て、奥歯に物が挟まるような言い方しかできない中、はっきりした政策である。
- 「東京特区」などの指定を解除し、大手デベロッパーへの減税・優遇をやめます。都の都市開発制度を見直し、規制緩和と大規模再開発による住宅価格高騰の原因を取り除きます。
- 居住実態のない「2年以内の転売」に上乗せ課税するなど、投機目的の住宅転売の規制を強化します。
【出典】共産党HP
その意味で、こうした政策はさすがの共産党だと言える。儲けること、ビジネスに過剰なほど親和性の強い行政経営が昨今多くなっているが、改めて、行政の役割を認識させてくれる。
また、福祉領域は分厚い。「ケアラー支援条例」を制定し、全てのケアラーを対象とした総合的な支援を行うなど、社会の問題を解決しようという姿勢はいたるところに見られ、多岐にわたることが特徴である。特に、生活困窮者や生きづらさを抱えた方を対象にした、ターゲットを明確にした政策を提案している。
【生活困窮者】
- 生活保護制度の活用を推進します。生活保護申請の「扶養照会」は本人の同意なしには行いません。
- 生活保護世帯、低所得世帯等に対し、エアコンの購入・設置費用と電気代への助成を行います。
- ネットカフェ調査を改めておこない、住まいや就労で困難を抱えた方への支援を強めます。
【生きづらさを抱えた方への支援】
- 当事者の生きづらさに寄り添った息の長いひきこもり支援をすすめます。
- 依存症への正しい理解を広げ、相談・支援を進めます。
- 自殺総合対策を抜本的に強化します。
【火葬料】
- 受益者負担の考え方をやめ、都立火葬場の新設と火葬料の引き下げをすすめます。火葬のあり方に関する検討会を設置し火葬料の基準を示す、火葬場新設のための都有地の提供など、区市町村からの要望に積極的にこたえます。
【出典】共産党HP
困っていても安心をもって皆が暮らせるセイフティーネットがいかに社会にとって大事なのか。こうした困っている人を支える面はさすがであるが、「どのように」進めるのかが記載されていればもっとよかった。
◆過剰な補助では?
しかし、補助・支援にしてもある程度過剰に見えるものもなくはない。厳しい言い方をすると、「高齢者への利益誘導」に近い政策に見える。
【高齢者】
- 高齢者の医療費助成に踏み出し、まず75歳以上の低所得者の医療費を無料にします。
- 都内全域で、補聴器購入費助成をひとりあたり上限14万4900円(所得制限なし)で実施できるようにします。
【出典】共産党HP
高齢者への再配分もいいが、恵まれている高齢者もいるわけで、その所得や資産などの面での公平性確保の制限をここにはもうけないのはどうかと思う。どう考えても若者、ロスジェネ・氷河期世代と比較して恵まれているわけで、相対的に多くもらっている年金から拠出してもらうというのが筋だろう。
- 8年間増えていない商店街振興予算を、抜本的に増やします。
- 「商店街まるごと耐震化」を実施します。商店街の街路灯の電気代を補助します。
- 都内で減少する銭湯に対して、燃料費の補助を行うとともに、事業承継のための支援を強化します。
【出典】共産党HP
商店街活性化政策も同様だ。どこまで商業振興が必要なのだろうか。個人商店が少なくなり、多くの人が大手スーパーで買い物をするようになり、都内の買い物風景は変わってしまった。「商店街」自体にどこまで支援が必要なのか。声の掛け合いなど社会的な機能が薄れている中で問題意識は感じられない。
◆東京一極集中問題
最後に、一極集中問題への視点、都市開発の問題を提起していることは素晴らしい。解消されない通勤時の混雑、過剰な都市開発。グランドデザインできるのは行政だけ。都市の開発に規制をかけ、持続的にまちづくりをできる主体は行政である。それに対して共産党は真正面に答えてくれている。
情勢調査では、それなりに手堅い支持を持ってはいるが、支持者の高齢化が進行し、新興勢力の伸長を受けてどうなるのか。都市再開発に対して明確な問題を提起出来ているのは共産党くらい。共産党に期待する。
トップ写真:Carl Court by gettyimages