【都議選公約分析】⑧都民ファースト

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・都民ファーストの会は「東京大改革3.0」として10の重点公約を掲げ、都政での実績を強調。
・公約の特徴は、政策の根拠や理由を「数字」で示し、強力な物価対策を打ち出している点。
・一方、政策が「活動内容」にとどまり「実行結果」が見えにくい点や、過去の政策検証、東京一極集中問題への視点の欠如が課題。
都民第一を実現する。公約分析、最後は都民ファーストの会だ。東京大改革3.0として公約を掲げてきた。10の重点公約として、
1 018 サポートの増額と大学生給付型奨学金の創設
2 特定最低賃金制度創設で介護職の時給1,500円へ
3 障がい者の18歳以降の居場所と学びの場拡充
4 都立高校の入試制度改革と中学校35人学級の実現
5 あらゆる危機から都民の命を守る首都防衛
6 スタートアップ支援条例の創設で規制緩和や税制優遇を推進
7 公共交通の持続可能性を高める子どもパスの創設とコミュニティバスのシルバーパス適用
8 手頃な価格で住めるアフォーダブル住宅供給
9 政治とカネの問題にNO!政治改革の推進
10 更なるDX推進で都民の手取り時間を増やす
【出典】都民ファーストの会政策集2025
都知事を支える与党だけあって着実な成果を残してきたことを強調している。手ごろな価格(アフォーダブル)住宅の供給、18歳まで月5000円を給付している「018サポート」増額、単身高齢者の配食見守りサービスなど多岐にわたる政策をかkが得ている。
◆その特徴は何か?
特徴は2つ。第一に、現状、政策の根拠や理由を「数字」を示し、政策と対照させ、わかりやすく。示していることだ。
・奨学金を借りている 大学生の割合2人に1人
・都内高齢者の単身割合50.2%
・都内高齢者の孤独死10年で1.6倍に
・発達障がい児の認定人数10年間で約2倍に
【出典】都民ファーストの会政策集2025
東京都民の現状がしっかりと見えているといえる。与党として8年の実績を積み重ねているといえよう。第二に、強力な物価対策だ。小池都知事が打ち出した「水道料金基本料の無償化支援」、これはまさに政治の力を出せたといえる。
全般的にバランスがよい政策が続いているのが特徴だ。
◆ そこを支援する必要がどこまであるのか?
▲写真 【出典】都民ファーストの会政策集2025
専門家として問題提起してみたいと思う。第一に、公約達成率78.2%という成果、項目の実行を誠実に進めてきたのはわかる。しかし、前回も指摘したように、政策1つ1つが「活動内容」、つまり実行したかどうか、が問われる内容が多く、「実行結果」、つまり、実行してどうなったのか、どのレベルを実現したかの内容が少ない。つまり、お金をかければそれはできるだろう、設置したり、法案にしたり、形にするだけの「成果」が多いのでそこが残念である。
第二、お台場の噴水、プロジェクションマッピングなどの個別事業の事業効果が説明されていない。誠実に批判にこたえること、説得できる方法はあるはずだっただろう。副次的効果、シンボル的意味合いやストーリーであっても意味付けができたはずだ。似たような疑問の事業はほかにもたくさんあるわけだから、事業評価の視点を強調してもよかった気がする。
第三に、過去の政策は功を奏していない。
筆者が4年前に作成した記事「都議選公約分析「都民ファーストの会」その2 未来志向ではあるが、問題解決できるか?」において、様々な政策が記載されている。たしかに、DX、フードテックなどで成果を残したが、以下のような政策についての検証はどうなったのだろうか。
・2万人規模の雇用創出「東京版ニューディール」の推進
・各種選挙のインターネット投票実現「民主主義のDX」
・国による23区大学定員抑制の早期撤廃
・統治機構改革:権限・財源セットでの国から 地方自治体への権限移譲による地方分権
・環境配慮型ビジネスモデルへの移行支援
・特殊詐欺対策
【出典】都民ファーストの会政策集2021
◆東京一極集中問題には目を背ける?
最後に、一極集中問題への視点はまったくといっていいほど感じられない。東京に過剰なほど集中することのマイナス面を踏まえ、提案できる政策提言はあったのではないか、
ゴミだらけの渋谷、トイレ
乱立するタワマン
電車内でのキャリーバック跋扈、占有
スマホで撮影で立ち止まる観光客が走行の邪魔に
オーバーツーリズム、解消されない通勤時の混雑、過剰な都市開発。グランドデザインできるのは行政だけ。都市の開発に規制をかけ、持続的にまちづくりをできる主体は行政なのだ。災害対策も含めて考えてもらいたい。与党第一党になれるか瀬戸際。都民ファーストの会に期待したい。
トップ写真:イメージ 出典:Mlenny/GettyImages
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。
