公明党・谷合氏、議員任期延長に独自提起 ―― 参議院緊急集会の「能動的権能」付与を
執筆者:安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・公明党・谷合正明参議院会長は、議員任期延長を憲法に書き込むなら、参議院が自ら緊急集会を開催する「能動的な権能」を付与することとセットで議論すべきと提起。
・衆議院イメージ案では、解散で身分を失った衆議院議員が任期延長の議決に加わる立て付け。民主的正当性に疑問。
・自公連立解消後の公明党は「加憲」を維持しつつ、民主的統制のブレーキ役を明確化。
Japan In-depthチャンネルは6月5日、改憲シリーズ「2026・改憲の分水嶺」第6回を配信、公明党参議院会長・中央幹事会会長の谷合正明氏が出演した。MCは弁護士・元衆議院議員の山尾志桜里氏と編集長・安倍宏行。最も注目すべきは、谷合氏が衆議院主導の議員任期延長論議に投げ込んだ独自提案である。
動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=qL48WUjcVBU
衆議院イメージ案の弱点はどこにあるか
衆議院憲法審査会では、衆議院法制局がまとめた緊急事態条項の「イメージ案」が議論の軸となっている(衆議院憲法審査会)。大規模災害、感染症まん延、社会秩序の混乱、武力攻撃を「選挙困難事態」と認定し、議員任期を延長できるという骨格である。
谷合氏が問題視したのは手続き面だ。「解散によって身分を失った議員が、任期延長や身分復活を議決する立て付けは、強い民主的正当性を欠く」。憲法第54条第2項は、衆議院解散中に「国に緊急の必要があるとき」、内閣の求めで参議院の緊急集会を開けると定める(衆議院憲法審査会事務局「『参議院の緊急集会』に関する資料」)。70日間の「国会の空白」を埋める制度だ。
参議院に「緊急集会を開催する能動的な権能」をなぜ付与すべきか
現行では参議院は自ら緊急集会を開けず、内閣の求めに応じるのみだ。臨時会のような議員側からの召集要求権はない。谷合氏はこの点に「バグ」があると指摘し、参議院が自ら緊急集会を開催する「能動的な権能」を付与する立法論を提起した。
「身分を失った衆議院議員が議決に参加するより、民主的正当性のもとで存在している参議院議員が議決するやり方があるのでは。任期延長を導入するなら、参議院緊急集会の権能拡充とセットで議論すべきだ」
衆議院法制局・衆議院憲法審査会事務局「『参議院の緊急集会』の射程に関する資料」でも権限・射程をめぐる論点が整理されており、立法論としての権能拡張は成り立つ、と谷合氏は述べた。
なぜ合区解消と緊急集会はリンクするのか
もう一つの論点が合区解消との関連だ。自民党は合区解消を改憲の優先事項に掲げるが、谷合氏は警戒する。「参議院の緊急集会は、参議院が衆議院と同じ全国民の代表だからこそ成り立ちうる議論だ。自民党案のように都道府県代表に変えると、緊急集会の権能とバッティングする」。公明党は維新・共産党とともに、合区解消は憲法改正ではなくブロック制(広域比例区)による法改正で対応すべきとの立場だ。
「加憲」維持の中で、公明党はどこに線を引くのか
谷合氏は2025年4月2日の参議院憲法審査会で示した加憲4項目(自衛隊の位置付け、緊急事態における国会機能の維持、デジタル社会の人権保障、地球環境保全の責務)の堅持を確認しつつ、9条の自衛隊明記には消極的姿勢を改めて示した。違憲論解消のためだけの改憲には副作用がある、との元内閣法制局長官・坂田雅裕氏の指摘を引いた。
「いまの政権与党は国家機能を強化していく方向性が強い。我々はその対極で、民主的正当性をしっかり確保していく観点で、ブレーキ役を果たしていく」――自公連立解消後の公明党の立ち位置を、谷合氏はこう述べた。
議員任期延長の議論に対し、参議院議員として独自論点を投げ込んだ谷合氏の問題提起は、シリーズ各党出演者からは出ていない視点である。合区解消と緊急集会の権能を結びつける指摘も、自民党側からはまず出てこない。野党会派化した公明党がブレーキ役としてどこに線を引くのか――その輪郭が今回明確になった。
■ 本稿で触れられなかった主な論点(動画本編で)
・AMDA医療NGOから国会議員へ ―― 谷合氏の原点と国際協力「冬の時代」(03:00〜)
・中道改革連合と公明党、どこで線が引かれるか(16:49〜)
・改憲発議の判断基準は「中身」と「大型コンセンサス」(37:16〜)
・衆参合同憲法審査会の提案 ―― 合区問題は本来衆参合同で議論を(44:30〜)
・国民投票法、フェイクニュース・ネット広告対策と附則第4条の宿題(48:43〜)
・自公連立解消後の公明党 ―― 与党復帰は目指すのか(1:01:08〜)
動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=qL48WUjcVBU
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 参議院の緊急集会とは?
憲法54条2項に基づく制度。衆議院が解散されてから総選挙を経て新しい国会が召集されるまでの間、国に緊急の必要が生じた場合に、内閣の求めにより参議院が国会の機能を代行する集会。1952年と1953年の2回開催実績がある。
Q2. 「選挙困難事態」とは?
衆議院憲法審査会が議論する緊急事態条項のイメージ案で示された概念。大規模自然災害、感染症まん延、社会秩序の混乱、武力攻撃などにより、国政選挙の適正な実施が広範な地域で70日を超えて困難である事態を指す。内閣が認定し国会が承認することで、議員任期延長や緊急政令などの措置を可能にする案が議論されている。
Q3. 公明党の「加憲」とは?
現行憲法の三原理(国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義)を堅持しつつ、必要な規定を付け加える、という公明党の改憲スタンス。具体的検討項目として、自衛隊の位置付け、緊急事態における国会機能の維持、デジタル社会の人権保障、地球環境保全の責務の4項目を挙げている。
【あわせて読みたい】「2026・改憲の分水嶺」シリーズ
#1 浅野 哲 衆議院議員(国民民主党) ―― 緊急事態条項と議員任期延長
#2 馬場 伸幸 衆議院議員(日本維新の会) ―― 9条2項削除と「国防軍」明記論
#3 細野 豪志 衆議院議員(自民党) ―― 自民党改憲4項目と発議戦略
#4 松田 学 氏(参政党) ―― 参政党「創憲」のロードマップ
#5 階 猛 衆議院議員(中道改革連合 憲法調査会長) ―― 「立憲的改憲」3点セット
【関連リンク】
・衆議院憲法審査会 公式ページ
・衆議院憲法審査会事務局「『参議院の緊急集会』に関する資料」(衆憲資第102号 補訂版、令和7年3月)
・衆議院法制局・衆議院憲法審査会事務局「『参議院の緊急集会』の射程に関する資料」(令和7年3月27日)
・国立国会図書館 調査と情報No.1352「憲法をめぐる動き【令和8年版】」(2026年3月25日)
・国会審議映像検索システム 谷合正明 第217回参議院憲法審査会 2025年4月2日発言
・谷合正明 参議院公式プロフィール
トップ写真:公明党 谷合正明 参議院議員 ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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