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.政治  投稿日:2023/4/24

自民・維新タッグ候補敗れたわけ「世田谷区長選」


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

世田谷区長選、現職保坂展人候補が勝利、自・維擁立の内藤ゆうや候補敗れる。

・最大の敗因は、自民党がこれまで本気で区長の椅子を取りに行こうとしなかったこと。

・内藤氏の主張が区民に浸透しなかったことも一因。

 

統一地方選後半戦、東京都の注目選挙区の1つ、世田谷区長選。23日に投開票が行われ、元社民党衆議院議員で現職の保坂展人候補が勝利した自民・維新が23区では北区長選と共にタッグを組んで擁立した、23区最年少候補、元財務省職員で29歳の内藤ゆうや候補は敗れた。

投票率は46.1%。獲得票数は保坂候補186,553票、内藤候補は147,361票、その差、39,192票だった。

新人候補にとって、選挙戦1週間は短すぎる。広大な世田谷選挙区を短期間でくまなく回るのは物理的に不可能であり、ましていわんや内藤氏は今回が初選挙。年齢層を問わず区民に浸透することが出来なかった。

自民・維新がタッグを組んでの候補者擁立で話題を呼び、内藤氏の出陣式には馬場伸幸日本維新の会代表が応援に入ったにもかかわらず、自民党の応援は世田谷選出の三宅しげき都議会議員、若宮健嗣衆議院議員のみだけだった。

逆に保坂氏を支援するため駆けつけたのは自民党の重鎮、笹川堯元衆議院議員だった。奇しくも笹川氏が指摘したのは、これまでの自民党の区長選に対する姿勢だった。勝てる候補をこれまで出してこなかった責任を問うたのだ。

前回保坂氏3期目を賭けた区長選で、当時区議会議長の三井氏を擁立した時に少し自民党の本気度を感じたが、敗北。その後、世田谷区自民党から次の候補選びにおいて積極的な動きは見られなかった。それが突然今年2月に立候補を表明したのだ。選挙2か月前というタイミングだった。過去の3回の区長選の結果は以下の通り。

平成31年(2019年) 保坂展人 189,640

三井みほこ120,898

平成27年(2015年) 保坂展人 196,068

久保田英文  96,416

平成23年 (2011年) 保坂展人   83,983

花輪智史  78,444

笹川氏は、「世田谷選出の区議や都議、衆議院議員はずるい。なぜ自分たちが(区長選に)出ないのか。勝てないとわかっているからだろう」と厳しく批判した。

笹川氏に言われるまでもなく、世田谷区民として、この20年間自民党の区政に対する本気度を正直感じたことはない。

自民党区議団の実績は目にしたことがない。ホームページを覗くと、立派な政策が並ぶが、新型コロナ対策でも、防災・防犯対策でも、マイナンバー制度普及でも、どんな実績があったのかわからない。保坂区政の実績もわからないが、保坂区政を否定し区長の座を奪い取りに行くには、余りに発信力に乏しすぎるのではないか。新聞の折込なども滅多に見ないし、彼らの駅頭演説などついぞ出くわしたことがない。議員個々人のSNS発信はいうまでもない。これでは、12年続いている保坂区政をチェンジしようという気運が区民に拡がらないのは当然だ。

有権者の声の一つに「庁舎建て替えは自民も賛成したはずなのに、反対する候補を担ぐのはおかしい」というものもあった。もっともな意見だろう。区民としては、いきなり400億円をゼロにする、といわれても正直ピンとこなかったのではないか。

つまり、今回を含め、世田谷区長選で自民党候補が勝てない理由の最たるものが、自民党がこれまで本気で区長の椅子を取りに行こうとしていなかった、そして、本気で「勝てる候補」を育ててこなかったという戦略ミスだろう。

そういう意味で負け戦は確定していたともいえるのだが、今回の内藤ゆうや氏は出色だった。なにしろ、政策が具体的だった。世田谷区が抱える問題点を可視化してくれた。区内で犯罪が増え続けていること、区庁舎建て替えに400億円の区税が使われようとしていること、給食無償化が単年度だけであること、などを次々と指摘、その代替策を訴えたのだ。

本来自民党の世田谷区議らがこれまでに指摘し、対案を出しておくべき問題だったろう。全くの無名で政治経験もない内藤氏が15万票近く取ったことは大いに評価されてしかるべきだ。

一方で、区民に話を聞くと、高齢者の中に、内藤氏に期待する声が聴かれる一方で、年が若いことを懸念する声も聞かれた。海外で30代の大統領や首相が生まれていることを考えれば、29歳という年齢は全く問題ないと思うが、高齢化社会の日本では、若い世代へのチェンジに抵抗感を持つ人が少なからずいることを認めざるを得ない。

だからこと、4年後の区長選に向け、本気で勝ちに行くのなら、これまで同様の活動や情報発信ではだめだろう。

内藤氏の敗因の2番目は、やはり自身の政策の周知不足だ。2月から活動を開始したばかりのYoutube公式アカウントの登録者数158人、Instagaramフォロワー370人、Twitter2,379人と、SNSの発信力も限定的だった。区内の高齢者に、内藤氏の主張は広まらなかった可能性が高い。やはり認知度不足は否めなかった。

内藤氏の指摘はもっともだったが、選挙の際には分かりやすい争点が必要だ。「庁舎建て替え400億円をゼロに」という政策が一番わかりやすかったが、防犯や物価高対策などを合わせて訴えたため、総花的になり、保坂区政の問題点が充分有権者に浸透しなかった。

保坂区政には正直評価する点がない。コロナの時は「世田谷モデル」と称して、5億円も使ってPCR検査拡充をやったが、感染拡大防止に効果は乏しかった。検査拡大や検査キット無償配布よりやるべきことはあった。

地域通貨せたがやPayは2021年2月に突然スタート。周知は当初進まず。いきなり30%還元で、同アプリを知っている人だけが白物家電や自転車など高額商品を購入、一気に予算を使い切ったのは周知のとおり。デジタル弱者は置き去りになり、それは今でも続いている。

そして庁舎建て替えについては区民に周知もなく、いつの間にか始まっていた。内藤氏が指摘しなければ400億円も区税が使われるとは誰も知らなかったろう。

また、ふるさと納税で税金が毎年流出しているのも問題だ。令和4年度には87億円が区民税減収となった。この数年間拡大し続けているのに区は有効な手立てを打てていない。。

こうしてみると12年間の保坂区政とはなんだったのか、首を傾げたくなる。

それでも区民は保坂氏を選んだ。NHKの出口調査によると、今回、自民党、公明党、維新の政党支持者は半数しか内藤氏に票を投じなかった。票を固めきれなかったのは明白だ。

4年後、区民はどのような選択をするのか。保坂区政の継続を信任した区民には、同区政を評価する責任がある。これは世田谷区だけの問題ではない。投票率が3割、4割前半と低迷する中、漂流する有権者の覚悟が問われ続けねばならない。

(了)

トップ写真:内藤候補、マイク納めの様子。足を止める人はまばらだった。4月22日19時45分 世田谷区三軒茶屋駅前©︎Japan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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