[神津多可思]【マクロ経済政策バランス取れ】
神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)「神津多可思の金融経済を読む」
最近の日本経済をみると、プラスとマイナスの両面があって、これからどうなるか、なかなか確信が持てない。確かに企業収益は改善している。また経済成長率は、消費税増税の影響から年度でみると振れるが、その影響を受けない暦年ベースでは、去年、今年、来年と1%台前半の成長が3年続くというのが金融市場の中心的な見方だ。労働需給もタイトになっており、失業率は先進国の中では非常に低い4%以下となっている。そのため、賃金も上昇し、雇用環境はずいぶんとよくなった。
しかし、その一方でこれまでの円安にもかかわらず輸出は振るわない。消費税増税の影響もあってインフレ率が3%台にまで上昇しているので、賃金も結構上がってきたが、実質ではマイナスだ。そのインフレ率も、日銀がコミットしている「消費税増税の影響を除いた実勢で2%」に届くかどうか、まだ金融市場は納得しておらず、いつ追加緩和があるかという議論が喧しい。
4月の消費税増税の影響についても、1%台前半の成長の実力を前提にすれば、駆け込み→その反動→実力への復帰というパターンを自然にたどっているという評価もあれば、いやいや景気は相当悪くなっており、金融・財政政策で支えないと失速するという主張もある。
来年10月の消費税増税をどうするかの議論もこれから本格化していく。それについても、一方で、「消費税増税の本質は、社会保障制度の帳尻が合わなくなっていることにあるのだから、危機にでも直面しない限りやるべきだ。そうしないと、遠くない将来、日本経済は相当ひどい状態になる」との意見がある。他方、「来年やったら、日本経済はデフレに逆戻りし、結局、長い目でみて社会保障制度の収支尻はさらに悪化する。もっと経済状態が良くなってから負担増に踏み切るべきだ」とする向きもある。
これらの考え方は、いずれもごもっともなのだが、それではどうすればいいのか。そこでもう一度冷静によく考えてみると、結局はバランスの問題に帰着していくように思えてくる。現在の景気の評価も、要するに日本経済の今の成長実力をどう見積もるかによって変わってくる。消費税増税も、長い目でみれば、来年やった方がいいのか、もっと先にやった方がいいのかという話だ。社会保障制度が今のままでやっていけないことだけははっきりしているのだから、いつかは負担増を受け入れなくてはならない。
強気にしろ弱気にしろ、どちらかに賭けるようなマクロ経済政策を望む人は多くはないだろう。だとすれば、強気と弱気の間で、どうバランスを実現するかということになる。民主主義のプロセスを通じてグッド・バランスを実現できるかどうか、それが今問われているのである。
年内には重要な首長選挙がある。来春には統一地方選挙が控えている。そうした状況では、分かり易さが重視されて、強気・弱気のどちらかに偏った政策が掲げられがちだ。しかし、日本経済にとっては、本格的な高齢化の戸口に居る今がとても大事な時だ。ここで失敗するわけには行かない。バランスの採れた政策オプションを国民に示し、感覚論ではなく、冷静に何がグッド・バランスかについての民意を問うてほしい。行政府の腕の見せどころであり、立法府の良心が問われるところだ。
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