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.政治  投稿日:2014/12/1

【中央集権化する日本のネット選挙】~従来型政治コミュニケーションに留まる懸念~


西田亮介(立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授)

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2014年の衆院選は、2013年の公選法改正に伴う「ウェブサイト等を用いた選挙運動」、日本における、いわゆるネット選挙が解禁されるはじめての衆院選になる。しかしながら、幾つかの専門メディア等では取り上げられているものの、まったくといってよいほどに、一般的な関心が集まっていないのではないか。

日本のネット選挙は、ある意味では不運続きである。国政選挙ではじめて用いられた2013年7月の参院選は予定されたスケジュールではあったものの、公選法改正から日が浅く、準備期間が短かった。そのため、与野党、とくに野党各党には十分に準備をする時間がなかった。

蓋を開けてみると、拙著『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)で予想し、同じく『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版)で結果を記したが、事前に期待された、投票率の向上や、選挙コストの低減といった分かりやすい、顕著な成果には結びつかなかった。

もちろん、質はともかく量的には政治情報の発信量が増加したこと、双方向のやりとりが可能なチャネルが増えたことに伴う透明性の改善、ネット情報を分析する、新しいジャーナリズムの登場など、ネット選挙解禁を肯定的に捉えることは十分に可能であろう。

大きな選挙でいえば、その後、東京都知事選挙などでは、ネットを中心に選挙運動を行う候補者などが登場したが、惜敗というにはほど遠い結果であった。こうして、ICTと政治に積極的な関心を持つ人たちを除くと、多くの人にとって、ネット選挙解禁の成果は獏としたものにとどまったと言わざるをえない。

そして、冒頭にもどって、今回の衆院選は、あまりに唐突であった。各陣営にしてみれば、ネット選挙どころの話ではなかったのだろう。しかし、それはさておくとしても、「各メディアの記者からは、ネット選挙の、あまりの盛り上がりの欠落に戸惑い、拍子抜けしたとの感想を聞く。曰く、13年の参院選のときのように、各陣営でプロモーション企業と契約したりする動きが、あまり見られないのだという。

そこには、大別すると2つの理由がある。まず、日本のネット選挙の場合、政治活動と選挙運動の境界が曖昧なので、いったん政治家名義のソーシャルメディアのアカウントやウェブサイトを作成してしまえば、基本的には平時のままでよいからである。ディフェンシブな活用が中心であれば、新規のオプションを発注したりすることもないであろう。それほどまでに、政治家のソーシャルメディアのアカウント取得は、最近では当たり前になりつつある。

もう1点は、「ネット選挙の中央集権化」である。前回の選挙では、自民党のネットメディア局の「Truth Team」によるビッグデータ分析に基づいた傾向と対策が話題になった。ネット上の話題の変容等を観察しながら、地上戦の選挙運動への示唆を各陣営に提供していた。

こうした政党が、ひとつのサービスとしてオンライン上のデータを分析し、各陣営にフィードバックするアプローチが、その他の政党でも広がりを見せている。このようなモデルのもとでは、各選対は、政党に委ねてしまえばよく、独自のネット選挙対策の負担が軽減する。これらは、公示日が近づいても、殊に各陣営は、ほぼ平常運転のままに見える主たる理由である。

むろん課題も残されている。とくに、ネット選挙の中央集権化は、個々の政治家が、ネットを介して有権者と積極的に向き合い、議論するインセンティブを毀損する。インターネットやソーシャルメディアを用いながらも、従来のものと似た政治コミュニケーションに留まってしまう可能性がある。

その他にも、政策やマニフェストを政党が中心になって作り、さらに党議拘束を課す旧弊も、有権者と政治家の活発な議論を促進するとはいえまい。このような状況を、どのように捉えるかは、もはや価値判断の領域だが、個人的には、新しい政治の可能性を見出したい。

ネット選挙という新しい器に、新しい政治を入れることはできるのか。そのための制度設計はどのようなものだろうか。おそらくは現状ネット選挙を可能にしている、公選法の文書図画規制のみならず、総合的な見直しが必要であろう。また、放送法や、政治資金規正法も、たとえばアメリカのダイナミックな選挙運動の導入を求めるのであれば、同時に再検討の俎上に載せなければならない。いずれにせよ、目には見えにくいかもしれないが、日本でもネット選挙の範疇を超えて、ICTと選挙の関係が密接になっていることは間違いない。

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