[角谷浩一]権力者から挑戦者へのイメージ変換戦略〜どうなる維新の会、どうする橋下徹大阪市長
角谷浩一(政治ジャーナリスト・映画評論家)
大阪維新の会(代表・橋下徹大阪市長)が、市民から見た橋下の人物像が「挑戦者」から「権力者」に変化したと分析し、大阪都構想の住民投票で「敗北すれば大阪維新壊滅」と危機感をあらわにする内部文書を作成していることを毎日新聞がすっぱ抜いた。
同紙によると「内部資料は計12ページ。党内に設置した『都構想推進本部』に、本部内の政策チーム名で提出された。住民投票に向けた『現状認識』や『全体戦略』などが記されており、現状認識では、橋下に対する評価は、大阪人が好む『権力への挑戦者』から、大阪人が嫌う『権力者』に変化したと分析。維新に対する評価も、旧太陽の党との合流や国政政党化などで、『大阪純度』が低下して厳しくなっているとみている。
また、勢力の急拡大に伴う不統一感や、堺市長選の敗北による不満感が、党内に生じていると認めている。また橋下や幹事長・松井一郎(大阪府知事)の『権力者から挑戦者への意識的なイメージ変換戦略』の必要性」も指摘している。商業の街・大阪の景気が悪くなんでも中心が中央集権的に東京に集まることをきらった大阪人の東京に一泡ふかしたいという思いが橋下を押し上げていったのだろうし、明瞭な物言いが人気者に押し上げたのも事実だろう。大阪都構想もそれなりの心情的背景があったといえる。
この分析に異論はないが、永田町からも維新は別の評価を受けている。最近の橋下・松井コンビは官邸に首相・安倍晋三や官房長官・菅義偉を訪ねることが多い。大阪府顧問、大阪市特別顧問と維新の顧問格だった元経済企画庁長官・堺屋太一はこの8月、内閣官房参与に就任した。野党の顧問格が政権の中枢である官邸入りすることは異例だ。それに伴いふたりの官邸訪問も増えていく。
野党幹部が言う。
「2人はいったい何の肩書き、立場で官邸に行っているのだろうか。政令指定都市の市長と知事としてなのか。それならほかの市長や知事も官邸で首相に陳情や相談をしたいところだ。ならば政党の代表としてなのか。野党の共同代表と幹事長がほいほいと官邸を訪ねるのなら僕も行きたいものだが、そこでいったい何を話すのか」。
だが、同党共同代表・石原慎太郎がたずねたという話は聞かない。
政界では安倍、菅と憲法観など波長が合うため、自民党が嫌がっていても官邸のお気に入りだとみられていた。だが、そうでもないようだ。
維新の議員の1人が言う。
「蜜月だと思っていたものの、実は政権運営に良いように利用され、取り込まれているのではないかという空気が党内にはある。内部資料の『権力者になった』という部分はまさに、官邸に何を話しに行っているのかのこのこ出かけて行って、連立でも組もうというのか。ねじれも解消し、自民党は衆参ともに十分数は足りている。そもそも自民党に対抗できる勢力を作るために野党再編を訴えながら、官邸で何事か話し合うなど国民が理解するはずがないし、ほかの野党が信用しない。野党再編と言いながら、その再編を遅らせているのは橋下自身だ」。
権力者から挑戦者へのイメージ変換戦略を行ったとしても、大阪人も国民も今までの動きをよく見ているはずだ。どうなる維新、どうする橋下。
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