.国際  投稿日:2016/12/25

独で高まる比例代表制批判 世界の選挙事情その4

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林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

今回は、比例代表制について考えてみたい。総選挙において、このシステムを採用している国の代表例として、よく引き合いに出されるのがドイツだが、実のところ、この国の選挙制度を単純に「比例代表制」と定義している人などいないのである。そもそもこの国の選挙制度は、「小選挙区比例代表併用性」と呼ばれるもので、名称だけ聞くと、わが国の「小選挙区比例代表並立制」と非常にまぎらわしい。しかしながら、実態はかなり異なる。

紙数の関係上、ざっくりとした説明でお許しを願わざるを得ないのだが、要はドイツのシステムは、比例代表制を基軸として小選挙区制の要素を加えており、日本のそれは、小選挙区制を補完するために比例代表制の要素が加えられたものなのだ。

具体的に、どういうことか。ドイツ連邦議会の定数は598だが、うち半数の299が、ドイツ連邦を構成する16の地域に、人口に応じて割り振られる。そして、各選挙区において得票数1位になったものは無条件で当選するのだが、それ以外の議席は、連邦全体での得票数に応じて、各政党に割り振られて行く。つまり、政党に割り振られる議席から、小選挙区での当選者は差し引かれるので、これが併用性と呼ばれるゆえんである。したがって有権者は、各選挙区の候補者に投じる票と、連邦全体で支持政党に投じる票との2票を各自が持つ。この点は、わが国と同じである。

ただし日本では、小選挙区で落選しても比例で復活当選ということがよく起きる(だからこそ並立制と呼ばれる)が、ドイツでは連邦全体で5パーセント以上の支持を得るか、3つ以上の選挙区で勝利するか、いずれかの条件を満たさない政党には議席が与えられない。

これは「阻止条項」と呼ばれ、読んで字のごとくナチスの復活を阻止するための方便として国民の理解を得られてきた。

しかし昨今、移民排斥などを訴える極右勢力が地方議会などで勢力を伸ばしてきていることから、この阻止条項に対する評価も揺れてきている。と言うのは、当の極右勢力は、ネオナチという別名で呼ばれることをひどく嫌う。「我々はナチではない。現在のドイツのために闘っているのだ」とTVのインタビューに対して力説していた若者もいたし、私の友人でミュンヘン生まれのサンドラ・ヘフェリン女史も、「そういう声は、よく聞きますね」と語っていた。

とどのつまり、彼らをナチスと同一視してよいものかどうかが、そもそも微妙なところなので、この阻止条項は、小政党や無所属候補者など、少数意見を圧殺する機能しか果たしていないのではないか、と疑問視する声が高まってきているのだ。

私自身、日本で選挙制度改革が論議されていた当時、比例代表制に一定の評価は与えつつも、このような「足切り条項」には断固反対の立場を表明したし、今もその考えは変わらない。比例代表制についてのもうひとつの批判は、昔からよく言われることなのだが、「本当に民意を反映するとは思えない」ということである。

このシステムでは、どの政党も単独過半数を得るのが困難なので、連立政権とならざるを得ず、結果的に少数政党が政策のキャスティングボートを握ることになる。これでは、民意と選挙結果が一致しなくなるではないか、というわけだ。

一見もっともらしいが、現実のドイツの政治状況に照らして考えると、これが本当に選挙制度の問題点と言えるかどうか、疑問だと言わざるを得ない。連立であるがゆえに、与党が圧倒的多数を占める場合が多く、統一後のドイツの内閣は、いずれも長期政権となっている。ナチスを産んだ背景である、政治的混乱の再来だけは御免だというドイツの民意は、この時点で充分、選挙結果に反映されていると評価してよいのである。

繰り返しになるが、比例代表制が抱える問題とは、少数意見が反映されにくい点なので、多様化する一方の社会にあって旧弊が改善されないことだと言える。こうして考えてくると、小選挙区制と比例代表制のどちらがよいか、などという議論自体が不毛なので、あくまでも国情を優先して、「最大多数の最大幸福」を追及する他はない。政治とは本来そうしたものであろう。

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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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