デンマークのイジメ対策 子供同士の話合い
安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)
娘(8歳)の通う小学校のギュリュ先生より、2年生のクラス女子の両親のみに向けた連絡が来た。「この金曜日から、4月初旬までの約1.5ヶ月の間、クラスの女子だけを集め、授業後の学童の時間に特別なゲームをやります」そんな言葉で始まったメールを見た瞬間、何のシークレットミッションなのだろう、と体に緊張が走った。
その緊張は、読み続けていくうちに溶けていったが、また別の緊張を感じることになる。メールは、次のように続いた。「この新しいゲームは、皆で協力するゲームです。一人がルールを全部決めるのではありません。」ゲームの間には、「お話」もするとのことで、その話の内容は、「良い友達とは。お互いに尊重し合うにはどのような態度を示せばいいか。議論になるのはどのような時か。どのようなことを努力し、どのようなことに取り組む必要があるか。」などが例として挙げられていた。
いつの時代にも、今でも30年前の私が娘ぐらいの年代だった時も、女子グループにつきまとう課題がある。多かれ少なかれ皆、意図的にせよ無意識のうちでも、被害者であったり加害者になったりを経験するのだろう。娘のクラスでは、最近、女子グループ間で喧嘩や(おそらく)無意識の仲間はずれが目立っていたようで、今回の「特別ゲーム」につながったようだ。
今までにも、娘の幼稚園や学校には「友達を誕生会に呼ぶ時には、女子全員もしくは男子全員、あるいはクラス全員を呼ぶ」というルールや、「先生が指定する友達グループ」が学年の初めに発表されて、そのグループで、一緒に遊ぶことが奨励されたりしていた。デンマークの学校の一クラスは20人前後なので、女子だけ、男子だけとしたら約半数なのだけれども、それでも10人近くを自宅に呼ぶのはかなりの負担になる。そこまでしなくてはならないのであれば、お誕生会を取りやめようかということにもなりがちだ。このような対策は多くの学校や施設でとっているのだが、このようなルールをとり決める背後には、根深いイジメの問題がある。
幸せの国と言われるデンマークの学校にもイジメは存在する。女子グループだけではなく、男女間や男子同士のイジメもメディアを騒がせている。近年では、サイバーイジメなどの言葉も出ている。イジメの定義は難しいが、金銭の恐喝や身体へ肉体的の攻撃、言葉による攻撃などだけでなく、デンマークでは、宗教、振る舞い、服装や考え方の違いを攻撃すること、 人がやりたくないことをやらせること、緊張している友人を笑うこと(授業などで指されて緊張してしまう友人など)などもイジメである、との共通認識があり、このようなイジメをなくすためのキャンペーンが頻繁に展開されている。
今回の件で興味深く思ったのは、イジメに対する学校(大人)の対応である。前述のような学校ルールもあるとはいえ、強制的にルールを決めてもなくならないこともある。強制しても無理だからこそ、子供達同士で、話し合いの機会を持ったり、互いが違う意見を持っていることを認識しあったり、考えさせるということを積極的にするのが、今回私が経験したデンマークのイジメ対策だ。簡単に思えるけれども実は難しい「話し合い」ということに、大人主導で取り組んでいる。
最近では、大人のイジメ(注1)もデンマークメディアを賑わせ、そこからは、大人になっても同じようなイジメ、例えば、「ハブ」られる、「ハブ」るケースは、多々発生すると言えるだろう。場所がどこであろうといつの時代でもつきまとう課題だからこそ、子供時代だけでなく大人になってからも同じような事象は無くならないからこそ、子供達には自分たちで考えて自分なりの解決策を探すことが求められるし、大人が介入することで考える機会を損失したり、不必要な干渉とならないようにする必要があるのではないだろうか。親が背後でサポートしたり学校と話し合ったりすることはあっても、子供達も子供達なりに、話し合い、解決策を見つけ、折り合いをつけるなどの自分なりの対処方法を学ぶことは、不可欠だろうし、そのような成長のサポートが親や学校の役割となるのではないだろうか。
(注1)https://www.dr.dk/levnu/psykologi/forfatter-christian-jungersen-voksne-oensker-egentlig-ikke-mobbe
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この記事を書いた人
安岡美佳コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー、北欧研究所代表
ロスキレ大学サステナブルデジタリゼーション准教授、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員、JETROコンサルタント
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。
東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。
現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。
また、参加型デザインで日本に貢献することを念頭に、最近ではデザイン手法のワークショップやデザイン関連のコンサルティング、北欧(デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・グリーンランド)に関する調査・コンサルティング業務に従事。