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.政治  投稿日:2017/5/4

「政策協定」が示す残念な都政 東京都長期ビジョンを読み解く!その43


 西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・都民ファーストの会と公明党、政策協定結ぶ。

・協定は1)定義不明確、2)方策が見えない、3)合意プロセスが不明瞭。

・「数は力?」今後、正統性が問われる展開に。

 

「趨炎附熱(すうえんふねつ)」。増田さんを支援した理由はどこにいったのだろうか。

3月のことになるが、都民ファーストの会が公明党と政策協定を結んだ。公明党が要望した私立高校授業料の実質無償化、鉄道駅のホームドア増設などの提案が予算に盛り込まれたことが背景にあるそうだ。

この政策協定を見てみると「被災地の復興と共にある大会であることを名実ともに標榜する」、「認知症の予防策を強化し、発症者とその家族の負担を社会的に緩和する」といった素晴らしい理念やアイデアが書いてある。私立高校授業料の実質無償化なども評価はできる。

私事で恐縮だが、両党に知り合いもいて、人間的にも尊敬する人が多く、これまでも小池都知事の取り組みに一定の評価をしてきた。個人的には小池都政には歴史的な意義があり、時代が求めたものだろうと思っている。

しかし、都議会議員選挙が近いこともあり、誰かが言わないといけないので、問題を指摘しようと思う。この協定は一体何なのだ?と思ったというのが正直な感想だ。政策といえるのか?そもそも政策の条件を果たしていない。ないないづくしなのだ。問題が多い。

その問題は3点に集約される。

 

(問題1)言葉の定義や適切な言葉遣いがない

第一の問題は、言葉の定義が不明なことや適切な言葉遣いがないこと。項目には「防犯カメラの整備等により、安全・安心のまちづくりを強化する」とあるが、「安全・安心のまちづくり」とは一体何なのだろうか。誰もが納得する、賛成する理念であるが、政策とはいえない。これは、標語・キャッチフレーズというほうが正確であろう。

また、「安心して産み、育てられる東京へ、子育てを社会で応援する支援策を質量の両面にわたり重層的に講じる」とあるが、「重層的」とは一体何なのだろう?イメージでなんとなくわかるが、どういった意味なのだろうか?そもそもどういった層があるのだろうか?「重層的」とは幾重にも層をなして重なっている様、「重層的な構造」という形で使用される。そもそも「重層的」という言葉が適切かどうかも疑わしい。

さらに、目立つのは「強力に」「強化する」「図る」「不自然、不合理、不経済な行政慣行」といった言葉。これはいったい何のことを言っているのだろうか。今までと比べてどうなのだろうか。

以上まとめると、具体性の欠如した言葉、ふわふわした言葉の羅列、定義のよくわからない標語やあいまいな言葉のオンパレードである。正直なところ、子供だましのような抽象的な言葉になんとなく騙された気になってしまう。念仏のような「雰囲気」言葉で政策と称している時点で公的な政党としての資格が疑わしい。厳しい言い方をして申し訳ないが。

 

(問題2)「どのように」が見えない

問題2つ目は、「どのように」進めていくのかさっぱり見えない(これはこの連載で何回も言っていることだが)。

「どのように」都民優先の政策を都政の基本に据えるのか、その理念を具体的に落とし込むのだろうか。そして「どのように」経費節減に不断の努力を行うのか。経費節減の手法は?基準は?評価ロジックは?優先順位は?・・・・・と疑問がわく。

「先進技術や国際化などに対応する人材育成とすべての子供に正当な自己肯定感をもたらす教育の両立を図る」、「水と緑豊かな生活環境の整備と先進的な環境技術の活用により、ヒートアイランド現象からの転換を推進する」などの項目を読むと大変びっくりする。

「どのように」のシナリオが描けたら、こんなことは言えないのだ。私がこの政策項目が実行できる責任を問われる(仮に、達成できなかったら罰金1千万円としよう)としたら、こんなことを怖くて書くことはできないだろう。

この背景に、行政が正しい政策を進めれば人の心と行動が変わるという考えが政策立案者の心の中にあるように私は見る。個人の領域や家庭の領域に行政が入ることに対して何の疑問も違和感も感じていないのだろう。世の中のためにいいことをやっているから、正しいことをやっているから、問題は解決する・・・・のだろうか。

個人の尊厳を無自覚に、無意識的に侵害する人が考えた政策は、空回りし、使われるだけの予算、目標達成を糊塗した報告書、自治体職員の失望と疲弊、政策提案者の忘却が残るだけだ。

 

(問題3)「合意のプロセス」が明らかになってない

そもそもどういった考え方の違いがあって(なかったのかもしれないが)、対話や議論を進めていき、そのうちにより考え方の差異に違いがないことがわかり、もしくはある目的があり歩み寄り(言えないことだが色々妥協し)、合意に達したというプロセスがあったはず。

そのやり取りが見えないのだ。政治の世界なのだから、見せられないことも重々承知である。しかし、できる限り丁寧に説明してもらいたい。そもそも都民ファーストの会はHPも見つからないのだ・・・。

これは正統性の問題でもある。「結局、与党になることが大事で政策はあまり重要じゃないんだよね」とか、「結局、数は力だから妥協したのね」とか他人から思われてしまう可能性もある。そうなると両党にとって非常に損ではないかと思う。

その説明に正統性があれば、都民も納得するだろう。支持団体以外からの支援も得られるかもしれない。両党に期待する。


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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