.国際  投稿日:2017/9/4

トランプ大統領 北朝鮮にお手上げ

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

【まとめ】

・北朝鮮の核実験に対し、トランプ大統領は北朝鮮と交易する国との貿易停止を検討するとツイート。

・保守系メディアは「トランプ政権の敗北」、「打つ手なし」、「時間は刻一刻と無くなるばかり」など悲観的な論調。

・頼みの中国は当てにならず、トランプ氏は一貫した対北朝鮮政策を行うべきだろう。

 

■北朝鮮に手も足も出ない米国

米国の度重なる「軍事的挑発をやめよ」との嘆願や警告を無視して、北朝鮮は9月3日、水素爆弾と称する第6回目の核実験を強行した。

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▲写真 発射される北朝鮮の中距離弾道ミサイル火星12号 2017年4月 出典:CSIS Missile Defense Project

ドナルド・トランプ米大統領(71)はこれに対し、「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対する敵意で満ち、危険なものだ」とツイートし、「米国は北朝鮮と商取引をするあらゆる国とのすべての貿易を停止することを検討する」と踏み込んで、北朝鮮の行動を「放任」する中国やロシアなどを暗に批判。また、北朝鮮攻撃の可能性については、「考えておく」として、あらゆる選択肢が念頭にあることを示唆した。

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▲写真 トランプ大統領 2015年 出典:flickr : Gage Skidmore

一方、ジェームズ・マティス国防長官(66)は、「北朝鮮が米国を脅かせば、巨大な米国の軍事的報復に直面する」と、今までにない強い調子で警告を発した。

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▲写真 ジェームズ・マティス米国防長官 NATO本部にて 2017年6月 出典:U.S. Department of Defense

こうしたなか注目されるのが、8月にトランプ政権を解任されたスティーブン・バノン前首席戦略官(63)が舞い戻った古巣の極右メディアサイトブライトバート(breitbart)」の論調だ。ジョエル・ポラック総合編集長(40)が執筆した論評は、「北朝鮮はトランプ大統領が設定した、越えてはならない一線である『レッドライン』を越えた」と断じた。

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▲写真 スティーブン・バノン氏 2017年2月 Photo by Gage Skidmore

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▲写真 「ブライトバート」ジョエル・ポラック総合編集長

その上でポラック氏は、バノン前首席戦略官の在職中の以下の指摘を引用した。「北朝鮮の勝ちだ。北朝鮮の攻撃の最初の30分間に1千万人のソウル市民が命を落とさないような解決策が見つかれば別だが、それまでは軍事的解決などない」。これが、トランプ大統領の「北朝鮮は炎と激しい怒りに直面する」発言を否定したものと受け止められ、バノン氏解任の一因となった経緯がある。

さらにポラック総合編集長は、「北朝鮮やその後見人の中国が想像もつかない技術的革新で「ソウルの火の海」を防ぐ方策を米軍がもたらさない限り、米軍の攻撃は奇襲にならざるを得ない。時間は刻々となくなる一方だ。」との悲観的な見解を示した。

翻って、地政学研究のシンクタンクで、米国防・外交政策にも強い影響力を持つ「ストラトフォー(Stratfor)」(本部・テキサス州オースティン)は、「北朝鮮はついに、核の防御力を持つに至った」との論評を発表した。ストラトフォーは、「影のCIA(米中央情報局)」との異名をとる機関である。

また、マイケル・モレル元CIA副長官(58)は、「金正恩朝鮮労働党委員長(33)は、米都市は核攻撃でリスクに直面することを示そうとした。」と述べ、「彼は精神異常者ではない。彼自身の世界において、非常に理性的だ。」と付け加えた。

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▲写真 マイケル・モレル元CIA副長官とレオン・パネッタ元国防長官 2013年 出典:U.S. Department of Defense Archive

一方、昨年に共和党大統領候補の一人であったテッド・クルーズ米上院議員(46)は、「北朝鮮の核実験は、同国が大量殺戮を犯す能力が飛躍的に向上したことを示す」と論じ、「北朝鮮の脅威に対しては、米国のミサイル迎撃能力向上により多くの投資を行わなければならない」と結論付けた。

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▲写真 テッド・クルーズ米上院議員 2013年 出典:flickr : photo by Jamelle Bouie

さらに共和党のジェフ・フレーク上院議員(54)は、「トランプ大統領の北朝鮮に対する強硬発言は、北朝鮮の核開発を遅らせる効果がない」と、発想の転換を求めた。

 

■中国に悪用される「どちらも悪い」

こうして手詰まり感が漂うなか、米『ロサンゼルス・タイムズ』紙は、「この緊急事態を受け、トランプ大統領が同盟国の韓国との自由貿易協定(FTA)を破棄しないよう求める声が高まっている」と伝えた。また、米政治評論サイト「ポリティコ(Politico)」は、「打つ手のないトランプ大統領が、中国や韓国に当たり散らしている」と評した。

さらに別の記事で『ロサンゼルス・タイムズ』紙は、「北朝鮮の核プログラムをやめさせるため、トランプ大統領は中国に頼ろうとしている」と報じた。

だが、頼みの中国の習近平国家主席(64)は、水爆実験を受けて「対話のみが『戦争の炎』を消せる」という、日本の憲法第9条も顔負けする平和的な世界観を披露し、米国に自制を求めた。ここ数か月、習主席は「米国も北朝鮮も自制せよ」という趣旨の発言を繰り返しており、両国を同列に「どちらも悪い」と示唆している。

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▲写真 習近平中国国家主席 出典:flickr photo by Global Panorama

これはトランプ大統領が8月に、米バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者とそれに抗議する人々が衝突した事件で、騒擾を起こした白人至上主義者を名指しで非難せず、「どちらも悪い」と発言した論理が、そのままトランプ大統領に返ってきているのである。自身の論理で、トランプ氏は縛られているのだ。

 

■求められるトランプ大統領の発言の一貫性

振り返れば、過去数か月間のトランプ大統領の北朝鮮に関する発言は整合性がなく、ブレまくっており、将来の発言が重みをもって北朝鮮や中国やロシアに受け止められるか疑問がある。

具体的にトランプ氏は、

「全ての選択肢がある」「対話が答えではない」「金正恩は賢明な判断をした」「北朝鮮は炎と激しい怒りに直面する」「北朝鮮は米国を尊重し始めている」「北朝鮮への忍耐が尽きた」「北朝鮮の様子を見てみよう」「軍事解決の準備完全」「適切な状況下であれば金正恩と会談する」「今にわかる」「臨戦態勢にある」「中国の助けなくても解決」「北朝鮮に何もしない中国にとても失望」

など、一貫性がなく矛盾した発言を繰り返している。

中国の諺にある、「綸言(りんげん)汗の如し(皇帝の詔は一度出ると、取り消したり改めたりできないという誡)」の真逆である。

トランプ大統領が指導する米国が、北朝鮮を含む世界で真剣に受け止められるには、ビジョンを定め、一貫性を保つ必要がある。そうしてはじめて、金正恩を真に怖れさせ、制御することができるのだ。

(この記事には複数の写真が載っています。サイトによっては全部の写真が見ることが出来ないことがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=35923にて記事をお読みください)

トップ画像:北朝鮮の中距離弾道ミサイル火星12号 2017年5月 出典/MDAA(Missile Defense Advocacy Alliance)

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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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