北朝鮮、次は9月9日建国記念日
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2017#35(2017年8月28-9月3日)
【まとめ】
・相次ぐミサイル発射は金正恩政権のジレンマか、米国への譲歩なのか、国威発揚なのか、分析が難しい。
・北朝鮮、去年も9月9日建国記念日に核実験を実施した。今年も強硬する可能性あり。
・トランプ政権、北朝鮮との不適切な関係を理由に対エジプト援助の減額等決定で波紋。
〇 東アジア・大洋州
28日、韓国の国家情報院は、北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の坑道で「核実験の準備が完了した」と国会に報告したという。(写真1)
▲写真1 韓国文在寅大統領と中国習近平国家主席 2017年8月24日
出典)Korea.net
北朝鮮は昨年も建国記念日の9月9日に5回目の核実験を実施。韓国当局は、今年も強行するのではと警戒しているそうだ。毎度のことながら、誠にご苦労様である。
それにしても、短距離ミサイル発射は金正恩政権のジレンマの表れか、米国への過度の刺激を回避したのか、それとも「先軍節」に合わせた国威発揚なのか。
米国を必要以上に刺激することは避けたいとの思いと、「先軍節」で何もしない訳にはいかないという国内事情があるのか、などと毎回毎回一喜一憂するのは如何なものか。北朝鮮ウォッチャーとは本当に大変なお仕事だと思う。
〇 中東・アフリカ
9月1日にイスラム教の「犠牲祭(Eidul-Adha)」が始まる。イブラヒーム(アブラハム)が息子イスマイール(イシュマエル)を神への犠牲として捧げたことを記念する祝日だ。ヒジュラ暦12月10日から4日間続くが、同日はメッカ巡礼の最終日に当たる。多くのイスラム教徒は動物を生贄として捧げるという。
直前の8月27日、イラク軍は北西部タルアファルを「イスラム国」(IS)から奪還したと発表した。モスルを解放したのは7月だから、約一カ月でモスルからシリア国境へ抜ける中継地タルアファルまで来たことになる。米軍の支援を受けているとはいえ、イラク軍も漸く「軍隊らしく」なってきたということか。
外電によれば、掃討作戦開始時にタルアファル市街地にはIS戦闘員が最大2千人いたそうだが、彼らは疲弊していたようで、強い抵抗はなかったという。しかし、これでISが壊滅するとは到底思えない。残党はシリアに流れISの本体に合流するだろうから、シリアではまだ当分戦闘が続くだろう。
ISも重要だが、先週筆者が最も興味を持ったニュースは、8月22日、トランプ政権が人権侵害や北朝鮮との不適切な関係を理由に対エジプト援助の減額と一部延期を決定したのに対し、エジプト外務省がこれに強く反発したという記事だった。トランプ外交のお粗末さは別に今始まったことではないのだが・・・。(写真2)
▲写真2 エジプトのシシ大統領と会うトランプ米大統領 2017年5月21日 サウジアラビア・リヤド 出典)ホワイトハウスHP
今回米国が供与中止・留保を決めた対エジプト援助の総額は約3億ドル。対外軍事融資は本年度分のうち6.6千万ドルを中止、昨年度分約2億ドルを留保。経済援助では昨年度分のうち3千万ドルを中止した。しかも、大統領の娘婿クシュナー顧問率いる米代表団のエジプト訪問直前に情報がリークされたのだから最悪のタイミングだ。
これに対し、エジプト政府は「長年の戦略的関係を正しく理解していないことを示す決定だ」と懸念を表明した。当然だろう。普通なら、米政府は国務省、国防省等あらゆるチャンネルを通じエジプト側に事前通報している筈だが、勿論トランプ政権にそんな芸当はできない。これではエジプトの面子丸潰れだ。
〇 欧州・ロシア
欧州の長い夏休暇が終わり、今週からヨーロッパ人は仕事に復帰するようだ。28日には英国のEU離脱交渉が再開され、ロシア大統領がハンガリーを訪問、29日にはフィンランド大統領が訪米し、31日にはマクロン仏大統領がオランダ首相と会談する。
一方、27日の世論調査によると、マクロン大統領の仕事ぶりに不満を持つ有権者は7月の43%から57%に上昇、肯定的な評価も14%ポイント下がって40%となり、同大統領への支持が急速に下がっている。大統領は労働市場改革で議会と、予算削減では軍幹部とそれぞれ対立が深まっており、逆風が吹いたようだ。
〇 南北アメリカ
米南部テキサス州を襲った巨大ハリケーン「ハービー」は27日、熱帯低気圧となっていたが、テキサス州を中心に大洪水が発生し、米国第4の都市ヒューストン周辺で被害が拡大しているそうだ。(写真3)この話を聞いて、12年前にニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」を思い出した。
▲写真3 ハリケーン・ハービーの直撃で大洪水となったヒューストン(テキサス州) 住民を救出する州兵 2017年8月27日 出典)U.S. Department of Defense HP
当時は危機管理の失敗が政治問題化し、結局FEMA(連邦危機管理庁)の長官が更迭されたが、今回はどうか。トランプ政権の混乱ぶりが余りに酷いので、このくらいでは政治問題化しないということか。それとも、トランプ政権は意外に危機管理が上手なのか。筆者には良く分からない。
〇 インド亜大陸
9月3日にスリランカが三週間にわたり軍事演習を実施する。興味深いことに、インドと中国がオブザーバーを派遣するのだそうだ。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(本記事には複数の写真が含まれています。サイトによってはすべて表示されないことがあります。その場合は、http://japan-indepth.jp/?p=35828の記事をお読みください)
トップ画像:東京・市ヶ谷防衛省 PAC-3 出典)防衛省HP
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。