.国際  投稿日:2017/9/14

北朝鮮にエロとゲーム、浸透させよ

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文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・北朝鮮の行動を変化させるには圧力ではなく関与政策しかない。

・日米韓は経済交流復活により、政治・文化的影響を与えることが可能。特にエロやゲームなど資本主義の毒の注入が有効。

・最後のフロンティア北朝鮮市場を中露に奪われないためにも経済交流が必要。

 

日本では対北政策に関しては制裁強化がコンセンサスである。9月3日の核実験をうけた追加措置に関しても日本国内では賛同のほかは見られなかった。むしろ安保理決議においては「生ぬるい」ととられていた。決議案提出に際し、石油全面禁輸から輸入量上限設定に切り替えた時には「後退」と批判的に評されたほどだ。

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▲写真 北朝鮮の弾道ミサイル 2017年3月6日北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)付近から発射されたもの Photo by Mariusstad

これは関与政策が役立たないと考えられた結果だ。従来の対話路線は失敗とされた。そして北に対しては圧力だけが有効策とされている。核と弾道弾対策としては政治・経済的な制裁、あるいはそれ以上の措置、軍事力を用いた圧力やその行使だけが有効と考えられている。

しかし、関与政策は本当に効果がないのだろうか?

むしろ逆だ。北の行動を変化させるには圧力ではなく関与政策を選ぶしかない。

特に日米韓としては経済交流の復活を目指すべきである。

なぜなら日米韓の制裁は効かなくなっている。各国はカードを切り尽くしている。既に経済交流を失った以上、北は日米韓の制裁を進められても痛くも痒くもない。

対して経済交流の利益を与えれば北はそれを意識せざるを得なくなる。日米韓との意向を多少なりとも、少なくとも今以上には気にするようになるからだ。

 

■ 利益喪失による抑制

北朝鮮の行動は、経済交流により変化させられる。

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▲写真 ピョンヤン市内の地下鉄 2015年5月 Photo by 東京のエビフライ

その効果の第一は行動の抑制だ。貿易、投資、援助といった経済交流が復活すれば、ある程度は北も対日米韓への敵対行為を抑制するようになる。

なぜならば、北にとって敵対行為の敷居が高くなるからだ。もちろん、それで核や弾道弾を放棄することは、おそらくはない。だが、実験や試射には多少なりの影響を与えられる。実施により経済交流の利益が失われると考える。

特に、北の経済セクターの行動はそう変化する。不利益をできるだけ回避しようと考えるようになる。北の安全保障セクターが対外刺激を伴う行動を取ろうとした場合、経済セクターは力関係で負けるとしても、消極的なりとも抵抗するようになる。

場合によれば指導者レベルでの抑制的判断も得られる可能性がある。経済セクターが経済面での不利益の提示等により、そこまで持っていければ全くない話ではない。

金正恩は愚昧な三代目ではない。祖法を振り回すだけの人物ではなく、実利を見通す力量はある。偶像的な自己権威を守る必要はあるだろうが、その過程でも北の国益と調整できるだろう。

これは実績からも窺えることだ。金正恩は市場経済を進めることで経済成長を達成している。貧富の差の拡大といった課題はあるものの経済封鎖下でありながら各階層の生活水準を向上させた。対外政策でも米韓を手玉にとっている。

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▲写真 ピョンヤン市内

その点で現実的判断は期待できると見てよい。体制保証の観点から核と弾道弾は放棄できない。ただ、核実験の実施や弾道弾の試射に関しては外交・軍事的必要性と経済的利益と天秤にかけることはするだろう。

逆にいえば、経済交流が途絶した現況は全くその効果も期待できない。経済制裁により輸出入や投資はほぼ止まっている。結果、北は日米韓との対立において経済的不利益を意識しない状態である。経済面で北は核実験や弾道弾試射を躊躇う必要はないということだ。

 

■ 交渉・連絡チャンネルの強化

経済交流の効果を持つ。

その第二として挙げるのは交渉・連絡の強化である。経済交流を持つことにより日米韓は北朝鮮との交渉・連絡を強化できる。

それにより、ある程度の取引はできるようになる。もちろん体制保証のための核・弾道弾開発は止まらない。だが、核実験や弾道弾試射をするとしても実験場所や実施方法、発射方位や落下水面についてはある程度の調整が可能となる。

あるいは情報を得られるだけでもよい。調整できなくとも、実施日時や場所についての事前に通知、あるいは示唆が得られるだけでもメリットとなる。

それで偶発的事故は避けられるメリットがある。まずは海上なら民間機や漁船への命中といった事件である。あるいは、過度の危険度判定による日米韓国のミサイル迎撃実施や可能性としての電子攻撃、サイバー攻撃といった情報戦実施である。これらはエスカレーションの引き金となる要素だが、公式・非公式の通知あるいは示唆によりその事態を回避できる利益がうまれる。

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▲写真 開城(ケソン)工業団地 韓国と北朝鮮が共同経済開発として2004年に開業。2016年に閉鎖。 Photo by Mimura

また、日米韓にとって政治的衝撃を避けられるメリットもある。例えば、事前準備によりミサイル防衛が機能していると国民に安心を与えることもできる。今の日本のJアラートはまともに機能する段階にはない。ただし事前情報があれば円滑に動いている体を装うことができるからだ。

また、エスカレーションの発生進展も防止できる。実験が日米韓の意向を多少なりとも汲んだ形となれば軍事的報復はしないでも済む形で落着させられるかもしれない。仮に軍事的報復をするとしても、北に実験への報復範囲であると交渉や連絡で含ませられればエスカレーションは抑えられる。

限定的空爆と砲撃応報であればプロレスで済む。全面的陸上戦や中国軍の介入や北による核攻撃は防げる。戦争が朝鮮半島を超える最悪の事態、米中全面戦争、米中核戦争まで進展することはない。

 

■ 北朝鮮国内への影響力発揮

経済交流は効果を持つ。

その第三として挙げるのが北朝鮮国内への影響力発揮だ。経済交流が実現した場合、日米韓はその経路を通じて北朝鮮国内に政治・文化的影響力を与えることができる。

簡単に言えば、資本主義の毒を浸透させられるということだ。例えば、携帯電話網やスマホを普及させ、それらを通じたサービスを提供したとすればよい。その場合北の人民にニュース等を通じて自由や民権概念を普及させ、あるいはAV等のエロのコンテンツや課金ゲームで後者を与えられる。

特に娯楽の浸透力は大きい。後者のエロやゲームにあたるコンテンツだ。新中国でもAVは浸透した。課金ゲームは射幸心の刺激により賭博でもないのに日韓で破産者を生んでいる。それを北に提供し「3000NKウォン課金するだけで無料でクジを10回引ける」までハマらせれば、人民を刹那主義に突き落とすことができる。新興層の子弟に「働いたら負け」の価値観を与えられる。漢字文化圏での日本製AVとゲームはそれだけの退廃力を持つ。

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▲写真 スマホ向けゲームアプリPokémon GO

その点でいえば、従来の経済制裁は北体制内への影響力を損なうものだった。韓国資本のお菓子工場が操業した結果、チョコパイによる買収までもっていけていたからだ。それにもかかわらず日米韓は制裁でその影響力を自ら捨ててしまった。

また、北朝鮮を必要以上に中露に傾倒させてもいる。北朝鮮体制内での中露派を勢いづかせるものであり、同時に日米韓派の力を削ぐものでもあった。

なお、制裁による影響力低下は将来の市場争奪も怪しくする行為だ。

北は東アジア最後の経済的フロンティアである。豊富な地下資源や水力エネルギーに加え、内容はともかく、よく教育を受けた安価な労働力が揃っている。低開発であることもあいまって投資効果は大きい。

日米韓が制裁を続けた場合、北は中国とロシアの市場となってしまう。それを防ぐためにも経済交流は必要となる。

 

■ 制裁ではなく憂さ晴らし

以上が経済交流のメリットである。抑制をもたらし、交渉・連絡を確実とし、北朝鮮国内に影響力を与えることができる。それにより核や弾道弾といった北朝鮮の振舞いに多少なりとも変化させられるだろう。

反対にいえば、制裁にはこれらの効果を期待できない。これまでの制裁により北との経済的交流を途絶している。その上に制裁をしたところで、北朝鮮に今以上の不利益をあたえられなくなっている。

特に日米韓による制裁実施は「うさ晴らし」でしかない。それにより北の行動変化を期待できるわけではないからだ。北の嫌がらせに対し、日米韓も嫌がらせで仕返ししているだけの話である。

もっとも、現状では圧力をかける必要はある。核実験実施に対して「それを認めない」と何らかのアクションを取る必要もあるためだ。また、それぞれの国民世論を宥める必要がある。その点からすれば実効性を伴わない行動であってもやらないわけにもいかない。

ただし、いずれにせよ「うさ晴らし」にとどまる。それで北の行動を抑制する効果は持たない。北を今よりも柔和とし、核や弾道弾について実効的な妥協を引き出す効果は見込めない。

本当に北朝鮮の行動を変えるには関与政策しかない。そのためには経済交流を復活させなければならない。

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トップ画像:中国で絶大な人気を誇る蒼井そらさん 第28回 東京国際映画祭 オープニングセレモニー(レイジー・ヘイジー・クレイジー)2015年10月21日 Photo by Dick Thomas Johnson

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

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