2017総選挙ファクトチェックプロジェクト
国際  投稿日:2017/10/4

米で北朝鮮核武装容認論浮上

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古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

 【古森義久の内外透視】

 

【まとめ】

・トランプ米大統領と安倍首相、北朝鮮の核武装を激しく非難、圧力を強めている。

・しかし、アメリカ国内で北朝鮮の核兵器開発容認論がじわりと出始めた。

・日本へのアメリカの拡大核抑止が空洞化する危険性も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトで記事をお読みください。】

 

国連総会ではアメリカのトランプ大統領と日本の安倍晋三首相がともに北朝鮮の核武装を激しく非難した。両首脳ともその阻止のための強い対決姿勢を強調した。日本にはその阻止の物理的な力はないとはいえ、日米連帯の強固な構えには期待が大である。

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写真)国連総会で北朝鮮を非難するトランプ米大統領 2017年9月21日

出典)United Nations Photo

 

 ところがアメリカの一部ではいまになって、その日米連帯を根元から崩しかねない北朝鮮の核兵器開発容認論がじわりと出始めた。日本にとってもきわめて危険な黄信号である。

 

 とくにこの容認論は「北朝鮮との対話を」という主張と重なりあっている部分が大きい。「対話」案は一見、なお北朝鮮の核武装を阻む手段のようにして提示されるが、これまでの20数年間、その種の対話や交渉は単に北朝鮮に核武装の前進のための時間を与える結果に終わって「アメリカは北朝鮮に核放棄をさせるにはもう軍事手段しかないから実利的な戦略として北の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑えるべきだ軍事手段は絶対に使えないとしたうえでの容認論なのである。

 

オバマ政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も「北の核武装は受け入れたうえで、コントロールの方法を考えるべきだ」と述べた。クリントン政権で米朝核合意の交渉役だったロバート・ガルーチ氏も最近、「北の核兵器も抑止は可能だ」と語った。

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写真)ジェームズ・クラッパー氏

出典)Office of the Director of National Intelligence

 

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写真)ロバート・ガルーチ氏

出典)US-KOREA INSTITUTE AT JOHNS HOPKINS SAIS

 

いずれも民主党政権の高官だった人物たちの新たな容認論である。

 

 アメリカの歴代政権は1990年代から共和、民主の党派を問わず、一致して北朝鮮の核開発は絶対に容認できないという立場をとってきた。オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官スーザン・ライス氏含め、この3人ともみな政権内にあったときはその絶対阻止論を主張してきた。だからそうした民主党系の人物たちのここにきての共和党トランプ政権の政策への反対意見には政治党派性もにじむ。

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写真)スーザン・ライス氏

出典)U.S. State Dept.

 

トランプ政権は当然ながら、これらの容認論を断固、排した。

 

H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は「ライス氏の主張はまちがっている」と断じた。北朝鮮が一般の国家の理性や合理性に従わない「無法国家」だから東西冷戦時代に米ソ間で機能した「伝統的な抑止」は適用できないと反論した。

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写真)H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)

出典)U.S. Army Public Affairs

 

トランプ政権外でも北朝鮮の核武装阻止の思考がなお圧倒的多数であり、容認論の危険性を指摘する向きが多い。

 

その容認論の危険はまとめると以下のようになる。

 

 第一は核不拡散条約(NPT)態勢の崩壊の危険性である。

 アメリカも他の諸国も北朝鮮の核武装をNPTの枠組みと規範に基づき阻もうとしてきたが、その核武装容認はこの態勢自体を崩しかねない。北朝鮮が核兵器の技術や部品を他国に流す展望や「韓国や日本も核開発へ進む」という可能性もNPT態勢の破綻となる。

 

 第二は北朝鮮が核兵器の威力を自国の野望に悪用する危険性である。

北朝鮮は韓国を国家と認めず、朝鮮半島の武力統一をも誓い、米軍撤退を求める。無法国家として国際テロを働く。こうした北朝鮮の国家としての好戦的な基本姿勢が核武装によりさらに尖鋭かつ過激となり、いま以上の国際的脅威となる。日本も当然、その脅威を受ける。

 

   第三はアメリカの日本に対する「核の傘」がなくなる危険性である。

アメリカ歴代政権は「拡大核抑止」として日本への核の攻撃や威嚇に対しその敵への核での報復を誓約してきた。トランプ政権も同様である。だが北朝鮮がアメリカ本土への核攻撃もできるとなり、その北朝鮮の能力を容認するとなると、アメリカは自国の莫大な被害を覚悟してまでの日本のための核使用をためらうことも予測される。日本へのアメリカの拡大核抑止が空洞化する危険性である。

 

日本でも北朝鮮の核武装の容認論はさまざまな形で表明されている。そうした主張の日本自身にとっての危険は上述のとおりなのである。

 

トップ画像:

写真)北朝鮮の大陸間弾道ミサイル「火星14号」2017年7月14日

出典)CSIS Missile Defense Project

 

 

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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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