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.国際  投稿日:2018/2/26

米司法省「ロシア疑惑」を否定


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】 

・モラー特別検察官、2月16日に13人のロシア人を起訴。

・米司法省「トランプ陣営とロシアとの共謀はなかった」と強調。

・トランプ大統領は今後、ロシアの対米政治工作を糾弾すべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapanIn-depthのサイト http://japan-indepth.jp/?p=38630でお読み下さい。】

 

 

アメリカのトランプ政権にからむ「ロシア疑惑」でモラー特別検察官が2月16日、13人のロシア人を起訴したことが発表された。アメリカの大統領選に不当に干渉したことによるアメリカの刑法違反という罪状だった。

文中1

写真)モラー特別検察官

出典)photo by Federal Bureau of Investigation

 

さてこの起訴をどう読むべきか。

トランプ陣営が大統領選でロシア政府と共謀して、アメリカ人有権者の票を不正に動かし、対抗馬の民主党ヒラリー・クリントン候補を不当に敗北させたのではないかという「ロシア疑惑」を追及する捜査はどうなるのか。

 

朝日新聞2月21日朝刊の記事は、「埋まる外堀」などという表現で、この起訴がいよいよトランプ大統領自身の罪状をあばく前段になるかのような基調だった。だが今回の起訴では「トランプ陣営とロシアとの共謀はなかった」、そして「ロシアの介入はアメリカ大統領選挙の結果を変えなかった」という二つの大きなポイントが事実として起訴の当事者であるアメリカ司法省代表から強調された。朝日新聞の同記事にはその大きな事実は出てこない。

 

もっともアメリカでも反トランプの政治スタンスを一貫して鮮明にしているニューヨーク・タイムズワシントン・ポストも「共謀はなかった」、「選挙結果は変わらなかった」という事実は軽視している。トランプ大統領糾弾の上では「不都合な真実」なのかもしれない。

 

ところがこうした起訴の展開はトランプ支持層からみると、まるで意味が異なるのである。「ロシア疑惑」の捜査の行方やトランプ大統領の命運を考えるうえでは、トランプ陣営の解釈を知ることも欠かせない。

 

その一例として共和党支持の活動家でアメリカのメディアでも活発な言論を展開するジョン・ボルトン氏の最近の論文の一部を紹介しよう。ボルトン氏は第43代大統領のジョージ・W・ブッシュ氏の政権で国連大使や国務次官を務めた。

文中2

写真)ジョン・ボルトン氏

出典)photo by Gage Skidmore

 

ボルトン氏は2月19日にワシントンを拠点とするネット政治新聞「ザ・ヒル」にロシア人13人の起訴の意味を解説する論文を掲載した。「アメリカの思考へのロシアの攻撃はトランプ大統領に強硬な措置を取る機会を与える」と題された論文だった。

 

以下はその主要部分である。

 

 ・今回の起訴の内容はアメリカの国内政治的にみてもトランプ大統領にとってプラスとなる。なぜならば1年以上もの間の民主党やメディアなどの「トランプ陣営とロシアの共謀」という主張に対して、この起訴では罪状にも、ローゼンスタイン司法次官の発表でも、トランプ陣営がロシア側と共謀したという事実はないとされたからだ。結果としてロシアの工作に協力したアメリカ人がいたとしても、だまされてであり、相手がロシア側とは知らなかった、というのだ。

 

 ・起訴状はさらにロシアの対米介入工作は2016年の大統領選での候補者が民主党でも共和党でもまったく未定の段階だった2014年に始まり、選挙結果に影響を及ぼすことはなかった、としている。ロシアが使ったソーシャルメディアの経費は合計10万ドルほど、この金額は実際の大統領選でトランプ、クリントン両陣営がソーシャルメディアに使った経費の合計8千100万ドルのわずか0.005%にすぎないというのだ。またロシアのソーシャルメディア使用はその半分以上は大統領選挙の後だともいう。

 

 ・起訴状からはロシア側はアメリカの大統領選で特定の候補者を支えたり、傷つけたりすることよりも、アメリカ国民の間に混乱と不信を増して民主主義政治への疑問を広げることを意図したことがうかがわれる。この展開でではこれまで反トランプに徹したメディアや民主党側が「トランプ陣営とロシアが共謀」という話しを根拠もないまま広めてきたことが立証された。トランプ大統領ももうこれで「共謀説」は否定されたとみて、自分自身の弁護よりもロシアの対米政治工作の非道を糾弾すべきとなった。

 

 以上が共和党側のボルトン氏の解釈なのである。朝日新聞やニューヨーク・タイムズの解釈とはいかに異なることか。銘記しておくべきだろう。

 

 

TOP画像)露プーチン大統領と会談するトランプ米大統領 2017 G-20 Hamburg Summit

出典)露大統領府

 

 

 

 

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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