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.国際  投稿日:2018/5/6

フォルケホイスコーレ留学はお得? デンマークの「人を幸せにする仕組み」5(下)


田中亜季北欧研究所

【まとめ】

・留学先としてフォルケホイスコーレが注目されている。

・「費用が安く」「自分を内省する機会が得られる」が、英語初心者には難しい。

・デンマーク人入学率が減少、フォルケホイスコーレは存続できるか?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39874で記事をお読みください。】             

 

日本の若者にとって英語スキルの重要性は年々増している。2020年大学入試改革では、英語科目が大きく変わる方針だ。民間の資格・検定試験を活用して4技能(読む・聞く・話す・書く)を評価する。各種の翻訳ツールも進歩してきているが、それに頼り切るにはまだ不安があるだろう。そして英語スキルの問題は学生に限らず、社会人になっても続く。

「留学をしたいがお金はない」そんな人が多い中(※1)、留学先の新たな選択肢の一つとしてデンマークの「フォルケホイスコーレが注目され始めている。前回の記事では、フォルケホイスコーレの概要や、アジア人からの人気について言及したが、本記事では、これからフォルケホイスコーレ留学を考える人に向けて、おすすめできる場合と、おすすめできない場合について情報を提供したい。

まずお勧めできる点は第一に、「語学留学としての費用が安い」こと。学費は無償で、生徒は宿泊代と食費のみを支払う(※2)。もちろん学校により費用は異なるが、食費と滞在費込みで、おおよそ1週間1000DKK~2500DKK程度(18,000~45,000円程度)。1週間限りの短期コースから、4,5か月間ほどの長期コースまで様々だ。なお、英語授業のある学校には長期コースが多い(学校によっては期間内に修学旅行がある場合すらある)。

お勧めできる理由は第二に、「自分を内省する機会を得る」というフォルケホイスコーレ独自の特徴にある。フォルケホイスコーレはそれぞれの学校が多彩な特徴を持っているため、こういう場所だ、とはっきりと言い切ることが難しい。しかし、共通するのは「評価を付けない」、「他者を尊重する」といった特徴である。

自分を見つめなおすための独特の空間を学生たちに提供するフォルケホイスコーレは、目まぐるしい競争社会のなかで育ってきた日本人が求めているものなのかもしれない。

また、デンマークには「ヒュッゲ(Hygge)」という言葉がある。「ヒュッゲ」とは、「誰かと一緒に過ごす、あたたかで居心地のよい空間や時間」を意味するデンマーク独自の言葉だ。(※3)デンマーク人は「ヒュッゲ」と共に生きているといっても過言ではない。日本の学生は卒業後すぐにギャップイヤー(※4)を設けることなく就職する。こうした社会システムを当然視する若者にとって、「ヒュッゲな」時間と共にフォルケホイスコーレで過ごす留学経験は、これまでと、そしてこれからの人生を、一歩立ち止まって見つめ直す貴重な機会となるだろう。

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▲写真 学校内に貼られている学生たちの“I AM FEMINIST”の主張 ©田中亜季

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▲写真 個性が光る生徒たちのルームプレート ©田中亜季

しかし、お勧めできない理由もある。まず、「まったくの英語初心者にはおすすめできない。」当たり前ながら、デンマークでの英語の授業は英語で行われるので、その内容がある程度理解できる能力のある人のほうが、より良い時間を過ごせるだろう。

他方で、本気で高い英語力の獲得を目指している人にも、フォルケホイスコーレはお勧めできない。デンマークの現地語はデンマーク語なので、デンマーク人の英語の発音や文章には、デンマーク語の癖がどうしても出てくる。デンマーク語でなく、英語の習得を第一目的としてフォルケホイスコーレへの入学を考えている場合には、母国語が英語の国を選択するほうがよいだろう。

加えて、学校選びも重要だ。昨今、アジア人の間でのフォルケホイスコーレの人気が高まってきており、希望する学校に行けないケースや、行って見たらアジア人ばかりだったなどのケースもよく見聞きする。多くのIPC(英語で授業を行う国際フォルケホイスコーレ)では、日本人留学生や韓国人留学生の人数調整を行っている。刺繍を学ぶスカルスフォルケホイスコーレでも同様に人数調整が行われている。

また、フォルケホイスコーレのほとんどは、高校卒業後のギャップイヤーを過ごす若者や、大学休学中の学生など、20代前半の若者を対象としている。同級生との年齢差を気にされる場合は、事前に学生の年齢層について学校に直接確認してみたほうが良い。

デンマークのユランドポステン(Jyllands-Postens紙(大手日刊紙)の記者によれば、今後フォルケホイスコーレの数は減少していくかもしれないそうだ。というのも、留学生からの人気とは裏腹に、現地のデンマーク人の入学率は減少しているのである。この記事を読んで、もしデンマークでのフォルケホイスコーレ留学に興味が持った方がいるなら、出願はできるだけ急いだほうがいい。

しかしながら、デンマーク人の間でフォルケホイスコーレの人気が低迷しているのはなぜだろうか。なぜフォルケホイスコーレの数は減少していくのだろうか。次回は、「最新のデンマーク教育事情」と併せて、こうした問題についてお伝えしていきたい。

 

※1:Benesseの調査にて、日本学生が海外留学をしない原因は学生の「内向き志向」ではなく、経済的理由であると指摘されている

http://benesse.jp/kyouiku/201304/20130410-2.html

※2:デンマークフォルケホイスコーレについての公式サイトから参照

http://www.danishfolkhighschools.com/prices-and-practical-information/prices/

※3:「ヒュッゲ(Hygge)」はデンマーク独自の言葉であるため、正式な訳はない。しかし近年ヒュッゲの関連本が多く出版されるなど、注目を浴びている。

https://toyokeizai.net/articles/-/152780

※4:ギャップイヤーとは、大学の入学前、在学中、卒業してから就職するまでの間などを利用して、インターンシップや社会活動体験などをするための猶予期間のこと。

トップ画像:フォルケホイスコーレに参加している人々 出典 デンマークフォルケホイスコーレについての公式サイト


この記事を書いた人
田中亜季北欧研究所

筑波大学社会・国際学群社会学類卒。日系企業、外資企業での勤務を経て、現在はコペンハーゲンで北欧研究所 Japanordic.comに所属。

田中亜季

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