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.社会  投稿日:2018/5/22

興行エアレースの為に航空法曲げてよいのか?


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

レッドブル・エアレースを千葉で計画、危険と騒音が及ぶ可能性が。

・経済的利潤は大きいが地元に還元されない。

・興行に航空法特例の便宜を計るべきか。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40140でお読み下さい。】

千葉でレッドブル・エアレースが計画されている。プロペラ機を用い千葉市地先で曲芸飛行を行う興行だ。チケットは立見券で最低6000円/日からだ。椅子券は2日通し券で3万円からとなっている。

その開催のために国交省は特例許可を出すといわれている。

『千葉日報』2018年5月11日記事によれば、

以下引用

 

エアレース機は同市内[浦安市]の臨時滑走路を利用して離着陸する予定だが、同滑走路から約50メートルの距離に今月1日、高さ約70メートル、18階建ての東京ベイ東急ホテル(同市)が開業。同法[航空法]の制限を越える

[中略]

14日には同省[国交省]の秋本真利政務官が現地を視察して状況を確認する。安全対策が十分図れていると確認できれば、滑走路の関連工事終了後に国交相から特例的に滑走路使用許可が受けられる見込みという。

とのことだ。

■興行のために航空法を曲げてよいのだろうか?

だが、興行のための特例許可は妥当だろうか?

繰り返すがエアレースは興行である。私企業による見世物であり公共性は伴わない。

航空・宇宙技術への啓蒙」の主張は意味はない。レシプロ・エンジンを使ったプロペラ飛行機は実用技術上は行き止まりである。曲芸飛行にはさらに意味はない。巨大パイロンを左右にスラロームする必要は元々ない。

しかも周辺住民に危険と騒音を負担させる構造がある。

これは他の興行とは異なる。プロレスは危険は選手だけが負う。周辺住民どころか観客も危険を負担しない。カーレースは場所が仕切られている。だが騒音と危険もレース場内部に閉じ込められる。周辺住民はそれで危害を受けることはない。

しかし曲芸飛行は違う。危険と騒音は付近に及ぶ。レーンは海上に設定されるが海岸ギリギリである。しかも離着陸も曲芸も人口稠密地の地先だ。アメリカの砂漠のど真ん中ではない。

写真)砂漠地帯でのエアショー

写真)砂漠地帯でのエアショー/曲芸飛行は落ちてもよい荒野で行うものだ/出典)U.S. AIR FORCE

些細な話だが燃料も有鉛タイプが許されている。レッドブル・エアレースの日本語サイト内を限定検索しても「有鉛」「ガソリン」の字はない。つまり制約されていない。好評な企業イメージからすれば有鉛を使うべきではなくバイオ燃料等をレギュレーションにすべきだがその旨の記載もない。

確かに経済的利潤は大きい。チケットは毎回飛ぶように売れた。実施は晴天かつ屋根なしの条件ながら飲み物は600ccまでしか持ち込みできない。なかなかの価格に設定されたペットボトルはどんどん売れたという。興行主やパイロット連は相当に利益を得られる。

だが、それは地元に還元されない。消費は囲い込んだ会場に限定される。会場外はほぼ儲からない。なぜか千葉市は乗り気だが千葉市民の利益もない。

 

■本来なら高さ制限は7mまで

法令上でも異例づくしだ。

通例なら転移表面(航空法規定)に引っかかる例だ。滑走路北辺から50mの距離では高さ制限は7mとなる。それ以上の高さの建物・工作物は許されない。筆者は自衛隊飛行場の施設整備を担当していたが立木は切っていた。積雪時に除雪車脱輪防止のため、滑走路際に刺した竹竿も問題となった。当然ながら本来は飛行場施設として土地取得が前提となる部分である。

図)制限表面概略図

図)制限表面概略図 /出典)国土交通省 大阪航空局

 

今回はより穏当な水平表面(航空法規定)に当たる例としている。これは場外着陸場とし、おそらくは滑走路帯を海側に設定した結果だ。だから45mまで許される形となる。

ところが、それでもホテルの高さは引っかかる。高さ50mは水平表面の制限高さを超えている。しかも滑走路脇50mの至近距離にある。NOTAMといった通知で平然処置される1km2km離れた建設現場のクレーンとはわけが違う。

しかも都市部での場外離着陸場は一般的にヘリコプター向けだ。ヘリは都市部での離着陸も安全容易である。垂直離着陸が可能であり失速速度もない。だからさほど危険視されない。

対して今回は固定翼機である。失速速度は50kt、実離着陸速度は2割増し程度なので110km/hで離着陸する。しかも軽量なので横風に弱い。人口稠密地に設けた場外離着陸場には本来向かない

さらに目的も演出上の要求による。本来、千葉での曲芸飛行なら調布、桶川の民間飛行場の正規利用、あるいは木更津・下総等の自衛隊飛行場の有償利用で距離的には差し支えはない。だが「興行的にプログラムを円滑に進めたい」「観客の待ち時間なしで連続演技をした」「だから浦安市に飛行場を設定したい」だけの話である。

まずは異例に尽きている。そして、それが政務官視察を要する異例も引き起こしている。通例の事務手続きでは許可できない。だから政治判断で許可を出す。そういう構造となっている。

だが、曲芸飛行にそれまでの公共性はない。つまりは本来は航空法での特例許可にはそぐわない例なのだ。

果たして、興行に航空法特例の便宜を計るべきなのだろうか?

*トップ写真)レッドブル・エアレース/出典)photo by  kenhodge13


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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