海自・航自はボルトアクション小銃でよい
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・海、空自衛隊はまだ50年前の64式小銃を使っている。
・複雑であり整備に手間がかかり動作不良も多く発生している。
・安価なボルトアクション式小銃に更新すべきだ。
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海上・航空自衛隊にはボルトアクション式小銃が向くのではないか。海空自は基本的に64式小銃を使用している。1964年に採用された旧式小銃である。やはり50年以上前にNATOで規格化された7.62ミリ弾丸を発射する。
▲写真 64式7.6ミリ小銃 出典:photo by JGSDF
64式は不評だ。複雑で部品が多い。しかも整備性や人間工学への配慮がない。そのため扱いにくい。経年劣化のせいか撃ち針の力が弱く不発が出やすい。女性が持つには大きく重い。しかし、更新の目処は立たない。新型89式は登場30年に達するが陸自すら更新しきっていない。それでいて旧式化しつつある。新・新小銃への更新の話もでている。この状況で海空自衛隊に新しい小銃が廻る見込みはない。
この64式更新の問題はどう解決すべきか?海空なら簡易なボルトアクション式を導入することだ。旧日本軍隊が使っていた38式と同じタイプであり、銃身末端にあるボルトつまり尾栓を手動操作して射撃を継続する小銃だ。海空自衛隊が行う基地警備ならそれで足りる。
その利点は3つある。単純であり隊員業務に負荷を掛けないこと。単価が安いこと。既存弾薬を活用できることだ。
▲写真 ボルト ©文谷数重
■ 整備がいらない
第一の利点は整備不要だ。ボルトアクションはシンプルである。複雑巧緻でしかも火薬ガスで汚染・腐食しやすい連発機構がない。手入れは射撃実施後に洗い矢で銃身内部を拭うだけでよい。
更新すれば64式不評の相当部分が解決する。現場の海空自衛隊員にとっては整備の面倒が問題点のほぼ全てだからだ。64式は射撃前・射撃後の整備が面倒くさかった。
もともと不良動作が多いため手入れは完全分解となる。それも素手だけではできない。一部はドライバーや専門のポンチが必要となる。そして中には腕時計のバネ棒よりも小さいピンがある。外したあとに誰かが必ず「部品がなくなった」と騒ぐ。同様に組み立てると部品が余る隊員も出る。こちらは引き金廻りだ。海空隊員にとっては小銃は商売道具ではない。いつも久しぶりなのでそうなる。
そのため平常業務への負担は大きい。午前に武器手入れがあるとそれで潰れる。当番にあたった下士官・兵が朝礼後、9時前に出発すると戻ってくるのは11時前だ。直ぐに無料昼食である。営内者の給食は慣例で11時20分頃からだ。つまり午前は商売にならない。
ボルトアクションにはそれがない。ボルトを外す。マカロニと呼ばれる綿帽子をつけた洗い矢で銃身内部を拭えば手入れは終わる。もちろんボルトや引き金部も分解する気になれば分解できる。64式のように火薬ガスで汚れないため必要はない。
▲写真 洗い矢 ©文谷数重
これは海空自衛隊にとっては好適である。小銃整備やその準備教育に時間を取られないのだ。
■ 安価であること
次の有利は安価な点である。ボルトアクション式は極めて安価であり入手性が高い。
国産軍用小銃は高い。ほぼ自衛隊しか使わない。このため生産数が見込めない。しかも製造企業や生産ライン維持として30年に及ぶ少数生産を続けている。逆に効率化はしてはならない世界である。価格も逓減しない。
そのため、現用の89式は30万円を超えている。値段としては米国やロシアの小銃よりも一桁高い。新小銃はさらに高額となると噂されている。清谷信一氏の示唆によれば100万円を超える価格提示があったともいわれている。
▲写真 89式5.56mm小銃 出典:Crescent moon
そのような小銃を海空自は買いたがらない。そもそも使う道具でもない。実用も儀仗隊程度である。だからいまだに64式のままなのだ。
本心は安価な米国・ロシア製小銃が欲しい。だが、防衛省には防衛産業への気兼ねがある。だから全体装備としては買わせてくれない。研究用・特殊部隊用として少数購入しているだけだ。
ボルトアクション小銃はこの問題も解決する。民生用ライフルとしては標準的であり単価が安い。そして国産可能だ。世界有数の製造企業が日本にもある。だから短期に納入可能である。
単価は10万円を下回る。お手頃価格の普及品で知られるレミントンM700は最低グレードで市価5万円程度だ。それに剣座と呼ばれる銃剣取り付けパーツを追加すれば軍用小銃となる。日本製造で知られるブローニングにしても一般品は10万円はしない。
▲写真 レミントンM700 出典:photo by M855GT
つまりは海空自衛隊でも一挙更新が可能となる。海空は初級幹部から拳銃身分である。隊員のうち小銃身分となる下士官以下はそれぞれ3万人程度だ。
仮に全員分に一丁づつ与えても30億もかからない。小銃は1人に1丁与える装備ではないが、そうするのも無理な値段ではない。3万丁を10年更新するなら年3億円でしかない。
■ 既存弾薬が活用できること
3つ目は既存弾薬が活用できる利点だ。ボルトアクション小銃では在庫弾薬がそのまま使える。まず、64式用の弾丸ストックが使える。民間向けボルトアクションの主流は308WINと呼ばれる規格だ。これは64式が準拠するNATO弾と同寸法だ。つまり64式向けの在庫がそのまま使える。
▲写真 308WIN 出典:photo by JHobbs
また海自の30-06規格にも対応できる。一世代古い米国弾薬でありM1919A4機関銃で利用する7.62ミリ別寸法弾丸だ。海は陸戦用の高信頼性機関銃として評価重宝しており理由をつけて国産機関銃をなるべく買わないようにしていた。ボルトアクションではその弾薬にも容易に対応する。
つまり、新小銃採用で新弾薬を購入する必要はない。山のように保管されている在庫弾薬がそのまま使えるのである。
さらにいえば民間用や低品質弾薬にも対応する。ボルトアクションは単純頑丈のためNATO規格を超える火薬量や異形弾頭も許容する。戦時に弾薬が不足しても国内外で民間市場から購入した308WINや30-06が使える。
これは海外派遣での後方警備にも向く。現地購入の聞いたことのないメーカー製実包や家内制手工業品の不詳実包にも対応する。極端な話、撃ち殻再利用やハンドメイドの鉛鋳造弾頭(交戦には使えない)もできる。それでも確実に動作するのだ。
■ 火力は不足しない
以上がボルトアクション小銃の利点である。付け加えれば火力不足は問題とならない。実戦になっても海空基地警備ではバカスカは撃たない。まず実際にバカスカ撃つほどの数の弾丸は警備や自衛用に与えない。具体的な数はいわないが、初めて知れば「この程度」と驚く数だ。
ちなみに陸自も小銃は自衛用セクターにはやはり「それだけ」の数しか渡されない。通信職域や施設のうちの建設部門は「この程度」よりは多いが、「それだけ」の数だ。
また連発できる自動小銃も普通は連発しない。自動小銃は連発可能である。だが連発して当たるようにつくられてはいない。結局は1発1発と単発で撃つ。
このためボルトアクションにしても火力は低下しない。あるいは、1発1発を大事にキチンと狙う分ボルトアクションのほうが総合威力は上がる。もともと命中精度はボルトアクションの方が高い。護衛艦の漂流者救助で「フカ警戒用」つまりサメ退治用でもボルトアクションのほうが確実である。
どうしても連発発射したいならサブマシンガンを併用すればよい。それは今でもやっている。現用のトミーガンが古いなら同じような兵隊向けの単純サブマシンガンに改めればよい。
トップ画像/64式7.62mm小銃を抱える自衛官候補生(2013年撮影)出典:photo by Rikujojieitai Boueisho
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。