[為末大]<完璧を求める違和感>出会った瞬間に全てが解決されるような仕事や恋愛はない
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
アメリカにいた時、よくプロポーズのシーンで「You are perfect」という表現が出てきた。アメリカ人の感覚では完璧はさほどの意味を含んでいないのかもしれないけれど、僕はいつもそれを見ていて小さな違和感を感じていた。
完璧であるという事は、何一つ欠けていないという事であり、完璧であり続けるという事は、何一つこれから欠けないという事でもあると思う。完璧に気が合うと思っている場合、ほんの少しでも違和感があればそれがとても大きなひずみに感じられる。
出会った瞬間に「この人だ!」とわかる運命の人や、これをやる為に生まれてきたというような天職にいつか出会えると思いすぎると、基本が現状のあら探しの視点になってしまう。少しずつ合わせていく発想ではなく、少しでも合わないならこれじゃなかったと思う発想。
僕は飽き症で、明日、自分が何を好きになっているか、何を嫌いになっているかわからない。こういう人間にとっては、今日の完璧は明日の不完全になる。自分が変化するなら、理想も変化して、そうすると完璧はその瞬間の幻想にしか感じられない。
昔、ハンマー投げの室伏広治さんと話をしている時に「理想の走りは追いかけても追いかけても届かないんですよ」と僕が言ったら、彼は「理想の投擲は掴める。ただ明日は違うものが理想になっているだけだ」と言った。なるほどそういう領域があるんだと感じた。
出会った瞬間に全てが解決されるような仕事も恋愛も僕は無いと思っていて、多少の向き不向きがあるぐらいかなと思う。価値観が固定されないと完璧も存在しない。ややこしいのは最初の価値観は他人や世間からの頂き物だという事。
【あわせて読みたい】
- “気づき”はどこからくるのか〜気づいた瞬間、私たちは「自分の知らない自分」に出会う(為末大・スポーツコメンテーター)
- 自分自身の「余白」の価値〜「不確定な要素=余白」が人を夢中にさせる。(為末大・スポーツコメンテーター)
- <小保方氏は「未熟」?>ユニットリーダーは「未熟」を言い訳にできるポジションではない?(藤本貴之・東洋大准教授)
- <集客10万人・経済効果80億円>巨大ダンスミュージック・フェス『ウルトラ』が日本初上陸(磯村かのん・ライター/通訳/起業家)
- <過信するくらいがちょうどいい>自分に自信を持てなければ、新しいものは生まれない(原田まりる・哲学ナビゲーター)