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スポーツ  投稿日:2014/6/6

<労働市場が未知の状況に入りつつある日本>労働市場における需要と供給のミスマッチが拡大


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

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日本の労働人口が減少を始めたのは1990年代の後半からだ。以来、労働の供給は傾向的に細ってきた。他方、労働に対する需要にも大きな変化が起こった。とくに終身雇用、常用雇用に対する需要は減り続けた。これら需給両面の動きが交錯したが、結局、需要減の影響が大きかったため、バブルの崩壊後、労働市場全体としては基本的に需給が緩んだ状況が続いた。

しかし、ここへ来ていよいよ、約20年間続き、これからも止まることのない労働人口減少の影響が表面化しつつあるようだ。それも、経済はかなり緩やかにしか成長していないというのに。

消費税増税に伴う駆け込みと反動があったため、計算上、2013年度の経済成長率は高くなり、逆に2014年度の成長率は低くなる。ところが、その影響がある程度相殺される暦年でみると、2013暦年が速報ベースで実質+1.6%の成長であったのに続き、2014暦年もほぼ同程度というのが現在の大方の予想だ。そうなると、2012年以来、3年続けて1%台半ばの成長が続くことになる。

そうした緩やかな経済成長の下でも、5月末に発表された完全失業率、有効求人倍率は、ともにリーマン・ショック前のレベルをすでに回復した。これからの日本経済を考える際に実質で2%成長を想定する場合が多いが、それより一段低い成長でも労働需給はここまでタイト化してしまうのである。

他方、グローバル化が急速に進展する中にあっては、産業構造も大きく変わらざるを得ない。国内に残すことができる仕事の内容は、過去とは相当違うものとなっている。また、人口の高齢化・減少が進む中で、国内市場も急速に変化しており、それに合わせたビジネスのシフトも必要だ。

そのため、どうしてもフレキシブルな労働力への需要が高まり、またグローバルにみるとすでに高水準となっている日本の平均的賃金に見合った労働生産性が求められる。

一方で、働く側にしてみれば、年齢を重ねるほどに新しい仕事への対応能力は低下する。国内に残る仕事は変わるが、労働者全員がそれに対応できるわけではない。そのため、労働市場における需要と供給のミスマッチも拡大している。

一部は斑模様とも言えるが、しかし全体としての需給が引き締まっているため、賃金にはより上昇圧力が加わっていくはずだ。賃金上昇は、とくに非製造業の分野ではサービスの価格上昇にもつながりがちだ。そうなると、長く続いたマイルドなデフレの下で失われてしまった、賃金と物価の正のフィードバックが復活する可能性も視野に入ってくる。

なかなか安定した仕事をみつけることができない人が残る一方で、失業率はかなりの低水準となる。成長率が低くても、意外に物価に上昇圧力が加わる。労働供給減少の下では、そうしたことも起き得る。その時、マクロ経済の安定をどう定義し、いかにそれを実現していくか。日本経済は、これまでも未踏の領域を歩んできたが、このように労働市場についても未知の状況に入ろうとしている。

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