[神津多可思]<日銀の見通しとマーケットの見立ての違い>インフレ率2%は本当に実現するのか、しないのか?

神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)
消費税増税の4月はどうやら平穏に過ぎたようだ。発表されたインフレ率もほぼマーケットの予想通りの数字であり、これまでのところ取り立てて材料視されていない。長期金利も+0.6%台というきわめて低い水準となっている。
新年度に入ってから発表されたマーケット・エコノミストの予想をみても、インフレ率については大きく動いていない。1年後に消費税増税の影響が消えた段階では再び+1%程度に戻るというのが平均的な姿のようだ。低位安定の長期金利も、そうした見通しを踏まえてのものだろう。
これに対し日銀は、少なくとも来年には、消費税の影響を除いてほぼ+2%程度のインフレ率になるという見通しを堅持している。つまり今年度後半からインフレ率が徐々に上昇していくと見込んでいる。この日銀見通しとマーケットの見立ての違いはどこから来ているのだろうか。
日銀は期待に働き掛けることを強調し、まさに異次元の量的・質的緩和を行っている。期待の側面を強調していることもあってか、日銀の金融調節が、どういう経路を通じ、どういうステップを踏んで2%インフレになるのかについては、必ずしも分かりやすい説明がなされてはいないように感じられる。
ひょっとすると、プロの市場運用者は顧客に対し、「日銀の働き掛けで自分の期待が変わってしまったので、今後は2%インフレを前提にポートフォリオを組みます」とも言えず、引き続き1%インフレの前提から脱却できずにいるのかもしれない。
これまでの日銀の説明を材料に、低インフレ予想派の説得を試みようとする場合、まず重要なのは、日本経済の需給ギャップがすでにかなり引き締まっている可能性がある点だろう。政府の推計をみると、まだ供給力が余っているようにみえるが、しかし労働市場は、失業率でみても、有効求人倍率でみても、かなりタイトになった。
さらに資本設備についても、今の国内の資本設備がすべてフル稼働するということは、昨今の内外の比較優位構造の急速な変化を踏まえればまず考えられない。実際、経産省が発表している生産能力指数はこの2年低下を続けており、陳腐化した既存設備の削減が進んでいることを示唆している。
こうした状況下で、消費税増税前の駆け込みとその反動の影響がなくなる今年度後半以降、実効的な需給ギャップがさらに引き締まり、その下で異次元緩和が継続されて、極めて潤沢なベースマネーが供給され、インフレ率は上昇していく。こういう合理的予想は成立し得るはずだ。その予想に乗るかどうかは、まずは実効的な需給ギャップの評価に依存する。
どちらの見方が正しいかは別にして、もし2%インフレが実現した場合、それと現在の0.6%台の低位長期金利がバランスするかどうかかなり不確実だ。
先ごろ公表された日銀の金融システムレポートの試算では、昨年末の金融機関のポートフォリオを前提にすると、短期金利は上昇せず、長期金利だけが1%上昇した場合でも、銀行・信用金庫合わせて保有債券の時価損失額は4.7兆円にも達する。そのような大きなショックが想定される以上、低インフレ予想派であっても、昨今の物価動向も踏まえ、今年度後半以降にインフレ圧力がどうなっていくのか継続的にウォッチしなければなるまい。
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