<マスコミが誘導する恣意的な世論調査>原発の賛否、実際は「即廃止でない」が74%で最大
石川和男(NPO法人社会保障経済研究所理事長)
5月28日付け時事通信ネット記事(脱原発志向、84%=「重要な電源」1割-時事世論調査)では、同社が5月に行った原発に関する世論調査の結果を報じている。
かなり恣意的な記事内容・見出しになっているので、ここで若干の解説をしておきたい。
<記事抜粋>
- 「徐々に減らし、将来的にはなくすべきだ」が49.3%。「なるべく早くなくすべきだ」(24.7%)、「直ちになくすべきだ」(10.3%)と合わせると84.3%。
- 国民の多くが「脱原発」を志向していることが浮き彫り。
- 「重要な電源として活用を続けるべきだ」との回答は12.7%。
- 規制委の安全審査に合格した原発を再稼働させる政府方針については、反対48.7%、賛成41.3%。
- 反対理由(複数回答)は、「事故が起きれば深刻な被害が出る」(80.7%)、「放射性廃棄物処分のめどが立たない」(62.1%)。
この記事の内容は概ね理解できるが、記事の書き方や見出しは非常に恣意的なものだ。「徐々に減らし、将来的にはなくすべきだ」(49.3%)と「なるべく早くなくすべきだ」(24.7%)と「直ちになくすべきだ」(10.3%)を合わせると84.3%だが、これを“脱原発指向”としているのは問題ない。
しかし、「直ちになくすべきだ」という“即廃止”を除けば、『即廃止でない』は74.0%となる。これが最も現実的な考え方であろうから、こうした現実路線にいる人が最多であることをきちんと書くべきだ。政府の原発再稼働方針を巡っては、賛否が拮抗しているとの結果だ。
もっとも、「重要な電源として活用を続けるべきだ」が12.7%と、“即廃止”よりはやや多いものの、全体からすると僅少ではある。もちろん、これも理解できる。
反対理由(複数回答)について、「事故が起きれば深刻な被害が出る」(80.7%)には事故確率論を基にした説明を、「放射性廃棄物処分のめどが立たない」(62.1%)には『処分場は即必要ではないこと』の説明を、それぞれ十分に尽くしていく必要があるだろう。
こうした“世論調査”は、質問内容や集計後の報道姿勢で、いかようにも印象が変わってしまう。原発に関する“世論調査”は今後も続けられるだろうが、報道側が自分に好都合な読者誘導をするのは善くない。こんなふうに、すぐにネットで評論されるだけだ。
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