[安岡美佳]<女性的でいたい女性たちのジレンマ>働く事が前提で社会が成立している北欧にある「見えづらい問題」
安岡美香(コペンハーゲンIT大学 研究員)|執筆記事
北欧と聞いてイメージする事はなんだろうか。近年は、北欧デザインや幸福度第一位、世界一位に何度も輝くレストラン・ノマに代表されるニュー・ノルディック・フードなどが注目されてきているようだが、それ以前から、高負担・高福祉社会、女性の社会進出の状況などに世界から関心が向けられてきた。
基本的に、北欧をデンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・アイスランドの5か国として扱いたいと思うが、もっと広義の意味合いでは、グリーンランドだとかフェロー諸島だとかも含むこともある。
そのうちの一つ、デンマークを見てみると、人口530万人、国土は九州程の大きさである。所得税は最高約59%と高額であるとはいえ、週の労働時間は、週37時間(1日7.5時間労働で、週5日)が通常で、年間6週間の休暇を取り、教育・医療が無料である。
万が一失業した場合も失業手当が2年間支給される。夕食は家族揃って取り、日照時間の長い夏場などは家族や友人とスポーツをしたり、のんびり過ごす。多くの人が年間6週間ほど(夏3週間、クリスマスに2週間、イースターに1週間など)の休暇を取る。
WHO世界保健統計によると、4か国とも特殊合計出産率は、約1.9(2013年)で、先進国中で常に上位である。出産・育児休暇も充実し、デンマークでは10ヶ月、スウェーデンは男女合わせて1.5年程で、育児休暇中は、多くの場合給与の8割ほどが支払われる。
近年のテレビ番組や各種北欧デザイン雑誌が紹介するような「幸せ」で「ワーク・ライフ・バランス」の整った国、 女性も働けば、男性も家事や育児をする、そんな男女平等の国「北欧」は確かに存在する。
同時に、北欧ならではの「強い女性」でいなくてはならないけれども、女性的でいたい女性たちのジレンマもある。なにしろ、働く事が前提で社会が成立している今の北欧には「主婦(主夫)」という選択肢はほぼないからだ。また、強くなり過ぎた女性優位の社会風潮に、男性から「逆差別」の声もあがるようになってきている。
税金が高くても、教育、医療が無料で、失業手当もあるから問題ないという人もいれば、社会保障の質の低下に議論が投げかけられることもある。
働くことが出来る人は働き、弱者をサポートするという相互扶助の行き届いた北欧が作り上げてきた福祉社会は、同様のイデオロギーを共有しない移民が増加することで、緊張が生まれ、維持が困難になっていると言われる。
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【執筆者紹介】
コペンハーゲンIT大学 インタラクションデザイン(IxD)研究グループ研究員、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員、JETROコンサルタント。参加型デザインで日本に貢献することを念頭に,デザイン手法のワークショップや,デザイン関連のコンサルティング,北欧(デンマーク,ノルウェー,フィンランド,アイスランド,グリーンランド)に関する調査・コンサルティング業務に従事している。