[イ・スミン]【韓国“マタハラ”の実態とは】~OECD出生率最下位の理由~
李受玟(イ・スミン)(韓国大手経済誌記者)
“妊娠しているからって部署の飲み会にこないのか?みんな妊娠していてもお酒飲んだりタバコ吸ったりするよ。”
今年会社人5年目で、妊娠5ヶ月のキム・ジュウンさん(偽名)は2週間ほど前、上司からこういわれた。医師は「生ビール1杯も相当危ない」と言っているが、彼女の上司はそれに気を使ってくれない。その上司は妊婦がアルコールを摂取したら奇形児を生んだり、流産したりする可能性が高くなることをよく知らなかったのかもしれないが、飲みたくないキムさんにお酒を押し付けることはそれ自体で明白な暴力行為だ。
だが、上司の無理な要求をきっぱりと撥ねつけるのも簡単ではない会社の雰囲気の中で、キムさんが正式に上司の言動を問題にすることは想像もつかないことであった。「妊娠したことで優遇してもらうつもりなら会社を辞めろ」という韓国社会の固定観念もキムさんのような被害者が相次いで発生する原因になっている。
働く女性が妊娠や出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせ、いじめを意味する「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」。韓国にはまだ「マタハラ」に当たる表現はないが、多数の女性たちが経験している。最近、最高裁判所の関連判決で、問題となった「マタハラ」は韓国でも議論になっている。その理由は「マタハラ」が少子化に直接につながっているからだ。
日本より高齢化社会に進入する速度が早い韓国は、世界のどの国より少子化問題に深く陥っている。昨年の韓国の合計出生率は1.19人、経済協力開発機構(OECD)の最低値だ。超低出産に近い数値である1.3人の下を12年連続で記録している。
韓国政府が手をこまねいているわけではない。先頃8年間(2006~13年)に53兆ウォン(およそ5兆5000億円:2014年11月7日レートによる)を投入し、ますます関連費用は増えてきている。それならなぜ韓国の20~30代は結婚と出産という“行列”に参加しないのか。とりあえず20代の経済活動の参加比率は10年前からずっと減少していることと、ソウルを含め主要都市の住居費が所得に比べて非常に高いということなどが構造的な原因に挙げられる。安定的に家庭を作るためにはお金も家もなければならないが、これを成就するのが難しすぎるという話だ。
しかし出産は単にお金と家のようなハードを備えたから解決できる問題ではない。社会の構成員たちの認識から出発する「マタハラ」ような、女性に対する差別がなくならなければ、今後も多くの女性は子供を生むのを渋るだろう。
そして妊娠と出産を排斥する企業の文化は共働きが一般化された韓国に出産率上昇という希望的な未来の代わりに、世代の終末をもたらす可能性が高い。政府が「夢の出産率2.0」を向けた様々な政策を出しても、社会がそれについていけないからだ。
1987年作られた韓国の出産・育児休職制度がいまだに完璧に定着していない理由もここにある。 現在、働く女性は出産休暇3ヵ月、育児休職1年、最大1年3ヵ月の出産や子育て条件の休暇を出すことができる。しかし法的に企業に強制した3ヵ月を除けば、残りは会社側と労組が団体協約で定めるようである。
その結果、銀行や一部の大手企業、公共機関の職員の以外の女性は、同僚や上司の顔色をうかがって、3~6ヵ月だけ休む人がほとんどである。男性の場合、「育児休職はイコール辞職」の話になることが多い。 政府が出した改善策は男性にとっても女性にとっても“高根の花”だ。
働く女性に対し実行したアンケートはこのような現実をそのまま見せてくれる。韓国放送公社(KBS)の放送文化研究所が、2012年いろんな企業で勤務している女性1,000人に尋ねた結果、約70%が妊娠による職場内のストレスを経験したと答えた。特に30%は昇進から外されたり、主要業務から除外されたり、辞職勧告されたりする、など会社から直接的な不利益を受けた経験があった。
先月発表された韓国保健医療労組(保健医療界従事者のうち、医者を除いた労働組合)のアンケートは、もっと妊婦に厳しい勤務条件を反映している。約二割の看護師はチーム内で妊娠する順番をお互いに決めて義務的にこれに従う、いわゆる「妊娠輪番制」を経験し、妊娠した看護士のうち、無理な残業や勤務時間のせいで流産を経験した割合も18.7%に達した。 輪番を守らない場合、退社や堕胎要求を受けた場合もあったという。
政策が目標としていたことを成し遂げるには社会の認識がその何より重要だ。英国のある研究所が発表した通り、韓国が2305年の地図から消えた最初の国にならないためには、妊娠した女性に対する社会の認識を変えなければならない。その上で「子供を生まないのは女性個人にも、家庭にも、企業や国家に共にマイナスだ」という考え方がしっかりと根付くことが必要だ。そうしてこそ、「マタハラ」が根絶されるのだ。
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