[芳賀由明]【カジノ法案三度目の流産?】~沖縄知事選の結果受け、 北海道が急浮上~
芳賀由明(産経新聞社経済本部 編集委員)
安倍政権で成長戦略の目玉の1つに挙げられているカジノ解禁は、先の臨時国会で「統合型リゾート施設(IR)整備推進基本法案」が審議に至らず、1月に招集される通常国会に持ち越された。2度目の流産だ。
与党の公明党が慎重な姿勢を崩さず、党議長でカジノ担当大臣でもある大田昭宏国交相すら「議論が尽くされてない」と時期尚早論を展開。超党派の国際観光産業振興議員連盟(IR議連)でも自民、維新の党以外は党内調整がままならず、市民団体などの反対意見の声も高まってきた。このままでは、次期国会でも厳しい情勢に変わりはなさそうだ。
とはいえ、カジノを含むIR誘致で地域経済活性化をもくろむ自治体の熱は冷めやらず、北海道、東京、横浜、大阪、長崎、沖縄など各地の熱心な誘致派は通常国会での成立に期待を寄せている。しかし、米軍普天間飛行場の県内移設の是非が党争点となった沖縄知事選で、県内移設反対派の翁長雄志氏が当選したことで、当確とみられていた沖縄のIR誘致が揺らぎ始めた。
代わって、急浮上したのが2番手グループにいた北海道だという。IRの最有力候補地はこれまで、沖縄、大阪、横浜の3カ所だった。なかでも沖縄は、普天間飛行場の辺野古移設を容認した仲井真弘多前知事と安倍首相との間の〝密約〟で、「沖縄へのIR誘致は既定路線」(自民党関係者)といわれていた。首相周辺の情報によると、辺野古移設の引き替えに、安倍首相は仲井真知事(当時)に「できるものならどんな要求でも飲む」と言い切った。そのとき沖縄へのIR誘致は事実上決まったといわれている。
ところが、辺野古移設に反対を唱えて当選した翁長知事は12月16日の県議会で「ギャンブル依存や地域環境への影響が懸念される。IRの県内への導入は考えていない」と言い放った。翁長発言によって「沖縄は候補から落選したも同然」(カジノ問題の専門家)と見る向きが多い。
一方、北海道は小樽、苫小牧、釧路の3市がIR誘致に名乗りを挙げていて、経済低迷に打つ手なしの道もIR誘致に積極的な活動を展開してきた。道は「市民に理解してもらうことが第1」(経済部)と考え、各地で説明会を数多く開いている。特筆すべきは、反対派にも声をかけて、反対意見にも耳を傾けつつ、住民を交え客観的な議論を繰り返していることだ。1年の3分の1が雪で閉ざされる北海道にとって、大規模なIRは年間を通じて内外から大量の観光客を呼び込める有力な経済活性化対策になる。
IR議連をはじめIR推進派は、ギャンブル依存症の増加や治安悪化などの懸念には「基本法案が通ってから具体策を検討していけばいい」と安直に考えているが、反対派市民活動の盛り上がりは国会議員も票への影響を考えると無視できない。北海道が取り組む地道な住民向け説明会や、依存症対策の前倒しの提示など、政府も反対派対策に本腰で取り組まないと、IR法案は三度目の流産となりかねない。
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