大企業優遇、極まれり 消費税という迷宮 その3
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
外国で買い物をした経験のある方は、免税についてご存じであろう。
大きく分けて2種類あるわけで、ひとつは空港などの免税店が典型だが、あらかじめ商品に税金が課されておらず、言い換えれば買い物をした時点で恩恵に浴せるケース。
いまひとつは、商店からはひとまず税込みの値段で買い、領収書と必要書類を提出して、後日還付を受けるケースである。これは、外国の消費者からは間接税を取る意味がない、という考え方に基づいている。したがって、外国内で消費し終えてしまった商品、具体的には飲食した物だが、これについては普通、税金の還付は受けられない。
これはこれで当然のことと思われるが、わが国の消費税にあっては、
「払ってもいない税金が還ってくる」
という、摩訶不思議なシステムが組み込まれていることをご存じだろうか。
輸出戻し税というのがそれで、前述のように外国の消費者からは消費税が取れないので、その分、仕入先や下請けに払った消費税については還付金の制度がある。ごく簡単に言えば、輸出奨励策の一種だ。
問題は、その算出方法で、わが国の消費税は目下のところ税率8%だが、まずは売上高に1.08を乗じ、そこから仕入額に1.08を乗じた金額を差し引いて利益額とする「仕入控除方式」を採用している。
誰が最初にこれに気づいたのか、輸出企業は、外国の消費者からは消費税を取れない、という論理で、輸出売上高にゼロを乗じてしまう。0をかければ、たとえ1兆円の売上高があろうとも金額はゼロとなる。そんなバカな、と思われるかも知れないが、数式(と言うより小学校で習う算数のレベルだ)にはちゃんと合っている。
しかも、現実に消費税を負担しているのは仕入先や下請けの業者で、多くは力関係によって、消費税分を上乗せした請求書など書けない(第1回参照)。大企業=輸出企業が、払ってもいない税金の還付を受けていると述べたのは、そうした意味だ。
消費税率5%の当時、この戻し税によって毎年3兆円近く、消費税全体の2割強が大企業の手に渡っていた。税率8%になった現在、単純計算でおよそ5兆円、10%になれば6兆円に達するだろう。
これは逆に考えれば、輸出戻し税のシステムを見直すだけで、消費税率を2%引き上げたのと同様の税収が得られることを意味する。8%から10%に引き上げずに済むのだ。
そもそも大企業は、法人税においても優遇処置を受けている。
2014年度の実績だが、安倍政権の減税策により、企業減税の総額は1兆2000億円を超えたことが分かった。民主党政権だった2012年当時に比べ、倍以上である。
しかもその6割が、日本の全企業の中では0.1%を占めるに過ぎない、資本金100億円以上の大企業に流れているという(朝日新聞デジタルなどによる)。
米国の格差社会を象徴する言葉として、
「1%の富裕層が国富の大半を独占している」
というのが有名だが、それどころではない話だということになる。
一方、税金を課されない「非課税措置」についても見てみよう。これは免税や還付金の制度とは違い、公共性の高いサービスにあらかじめ税金を課さないというもので、医療費が典型である。しかしそれなら、病院が仕入れる薬品や医療器具なども非課税にするのが筋だろう。
ところが政府は、それをしない。この結果、病院は消費税込みで薬品や医療器具を仕入れているのに、消費者=患者からは消費税を取れない、ということになり、多くの病院が経営を圧迫されている。
こんなおかしなシステムがまかり通っていると言うのに、消費税が存在し、我々が消費生活を続ける限り、今日も明日も払い続けなければならないのだ。
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。