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.国際  投稿日:2016/2/25

ミサイル防衛は意味がない(上)


文谷数重(軍事専門誌ライター)

北朝鮮は年初に核実験を行い、その後にロケットを実射した。前者は水爆開発を宣言するものである。後者は人工衛星打ち上げが目的であるが、同時に米本土攻撃可能な弾道弾開発も目指したものだ。その技術進捗は堅実であり、いずれは米本土に核攻撃ができるようになるだろう。

この実験の結果、日本はミサイル防衛の体制強化に動こうとしている。北朝鮮の技術進歩に触発され日本側もミサイル防衛を強化しようとするものだ。具体的には現在のイージス艦からのSM-3ミサイル、パトリオットからのPAC-3ミサイルに加え、新しい弾道弾迎撃用ミサイルTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense:終末高高度防衛ミサイル)導入の雰囲気となっている。

だが、ミサイル防衛への追加投資は効果的だろうか?追加投資にはあまり意味はない。その理由は次のとおりである。

 

■ 北朝鮮はミサイルを発射しない

ミサイル防衛への追加投資は好ましいものではない。

なぜなら、実際に使う見込みのない装備であるためだ。北朝鮮にミサイルを使う気はない以上、それに対抗するミサイル防衛も実用の余地はない。ある意味で「とりあえず持っていれば安心できる」といったお守りに過ぎない。そこへの追加装備をしても意味はない。

北朝鮮にとって核とミサイルは体制維持のための道具である。それを持っている限り、米韓は北朝鮮の体制を倒すような行動、大規模空爆や地上戦ができない。「もし、そのような行動をとれば、北朝鮮は核攻撃を行うだろう」と考える。

つまり実用品ではない。その目的はあくまでも見せ金である。米韓に「北朝鮮はミサイルを発射するかもしれない」と考えさせ、北朝鮮への攻撃を防ぐことが目的である。

実際に発射すれば北朝鮮の体制は崩壊してしまう。「核ミサイルで反撃するから、北朝鮮は攻撃できない」といった抑止の裏には、「攻撃しないかぎり、北朝鮮は核ミサイルは使わない」といった一種の信頼がある。米韓が攻撃もしないのに北朝鮮がミサイルを使えば、この構造は崩れる。両国は遠慮なしに北朝鮮の体制崩壊を図る。これは、核とミサイルによる体制維持とは矛盾するものだ。

つまり、北朝鮮は核ミサイルを使えない。大量破壊兵器と目される生物・化学兵器や放射性廃棄物を詰めた弾頭(これらは恐怖を与えるものの、実効果は見込めない)も使わない。せめて使えるのは火薬を詰めた通常弾頭であるが、それも報復として大規模な空爆を招く。やはり発射は厳しい。

このため、日本のミサイル防衛に出番はない。相手がミサイルを使う見込みもないためだ。そのミサイル防衛に今以上の資金をつぎ込んでも無意味である。

 

■ 強化しても効果は見込めない

また、ミサイル防衛への追加投資は、さほどの効果も見込めない。ミサイル防衛を強化しても、ミサイル撃破数はそれほど増やせない上に、そもそも北朝鮮は日本に対して多数のミサイルを発射しないと思われるからだ。

もちろん、今のミサイル防衛は少数発射への対応に過ぎない。おそらく現段階では「北朝鮮が1~2発を発射した際、全部を撃ち落とせるだろう」といった程度だ。

この点では、現状は不十分であるように見える。

だが、仮に予算を増やしたところで、撃破数はさして増えない。仮に予算を倍加させても現状1~2発確実であったものについて、まずは3~4発確実になる程度のものだ。それを一気に上回る数を同時発射されればお手上げとなる。この点で追加投資はあまり意味はない。

また、「日本に向けて1~2発以上の多数発射があるか?」といった問題もある。北朝鮮が主敵とするのはあくまで米韓である。日本は従敵に過ぎない。本当に発射する事態となっても、それほどのミサイルを日本に向ける余裕はない。下手に対日発射すれば日本の軍事力を半島に引き寄せるだけの藪蛇に終わる。

ミサイル防衛は意味がない 下 に続く。全2回)


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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