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.国際  投稿日:2016/3/18

サイクロンから1年、見えてきた課題


相川梨絵(フリーアナウンサー・バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

3月13日、巨大サイクロンPAMによってバヌアツ全土に非常事態宣言が出されるほど大きな被害を受けた日から一年が経ちました。

この日、各所でイベントが行われました。

メレビーチにあるレストランでは、「アニバーサリー1イヤー・オブ・パム」と題して、歌やサーカスなどのイベントが行われました。このイベントの広告には、「私たちはサイクロンから生き残った。それをお祝いしてパーティをしましょう!でもPAM、あなたは招待しないわよ!」とありました。災害があったその日は、追悼するのが当たり前の感覚だった私にとって、この発想は、新鮮でした。

東日本大震災、阪神大震災、原爆投下など日本はこれまでに、言葉にできないほどの苦しみを味わってきています。被害者の数、その後も続く苦しみなど、バヌアツのサイクロン被害とは、その大きさ、種類も違いますが、自分たちが今、元気に生きている喜びを素直に表してもいいのだなと教えられた気がしました。

また、サイクロンPAM関連のニュースで、残念な話題もお伝えしなければなりません。

この時、世界中から緊急支援として、資金や物資が届けられました。その中には、国民に届けられる前に、賞味期限が切れてしまったものも数多くありました。一年間は機動隊のキャンプに保管されていましたが、破棄する事が決定、先日、ゴミ捨て場に埋められてしまいました。

破棄された食料は、豆、トマト、魚などの缶詰、麺類、小麦粉、ジュースなどだそうです。これついて、バヌアツ自然災害対策本部のトップは、「これらの支援物資は、バヌアツに届けられたときには既に賞味期限が切れていました。バヌアツは島国。世界中の多くの支援者が、船で支援物資を送ってくれました。船での輸送は、時間がかかります。バヌアツまで到着する間に期限が切れてしまったのでしょう。」とコメントしました。

日本から船便で荷物を送ると2〜3ヶ月かかります。サイクロン後の混乱時は、もっと時間がかかったのだろうと推測します。

また、「今後、このような自然災害がおきたら、現金での支援が助かります。」とも語っています。

政府として、国民に賞味期限が切れた食料を提供できないのは、理解できます。しかし、捨てる意外に方法はなかったのでしょうか。

その気持ちはバヌアツ人も同じで、ペンテコスト島出身の議員は、「なぜ、災害時にあれだけ多くのボランティアが世界中から駆けつけてくれたのに、被害にあった村々に食料が届かなかったのか。今、現在、期限切れの食料を家畜のえさにする為に集めている人、支援された服を必要としている人、未だに倉庫に保管されている賞味期限が切れそうな食料を必要としている人がいる。」と訴えました。

被災当時、自然災害対策本部は、自分たちですべて仕切ろうとしたものの、被害の大きさ、支援の多さに対応しきれませんでした。世界中から迅速に多くの物資が届いているのにも関わらず、本部がすべての被害状況を把握できておらず指示が出せないので、各団体も足踏み状態でイライラしていました。一ヶ月経っても、二ヶ月経っても分配できず、結局、被害のあった村にとって、個人のボランティアの方達の直接支援が大きな助けとなりました。

食料支援においても、当初の予定では、畑が復活をし始める被害後3ヶ月で、被害のあったすべての村に2〜3回の支援物資を届ける予定でした。しかし、実際は、首都のあるエファテ島でも、一回しか届かない場所が多く、離島に至っては、政府からの支援物資が一度も届かない場所もありました。

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離島では、その不満に追い打ちをかけるような今回の一件で、さらに不満が高まったのでしょう。私も同感で、ちょっとくらい賞味期限が切れていたっていいじゃないか、それなら家畜のえさにしたらいいじゃないかと思います。捨てるくらいなら、欲しい人には無料で提供すればいいのです。それを、公に公開すれば、不公平さは出ません。非常時や緊急時にはもっとフレキシブルな対応をしても良いのではないのでしょうか。

しかし、これを、政府のお粗末で終わらせてはいけません。私はバヌアツにすんでいるので、今回の件を知りましたが、これは、もしかしたら氷山の一角。いろんな被災地で同じようなことが起こっているかもしれません。不要な支援物資、他の国ではどうしてきたのでしょうか?

ペンテコストの議員は、さらに、こんな事も述べています。

「オーストラリア、クイーンズランドにあるバヌアツコミュニティがサイクロン後に食料や服を詰めた11個のコンテナを送ってくれた。彼らは、未だにバヌアツ政府からありがとうと言われるのを待っている。」

災害時の支援は、人の温かさを実感する素敵な行為です。一方で、支援する側、支援してもらう側にもそれぞれ課題が見えました。

支援する側は、善意の押しつけ、自己満足になっていないか、相手の状況を考えた支援でなくてはならない。支援される側は、絶対的なリーダーシップが必要。現状をいち早く把握し、今、何がどれだけ不足しているか、不要なものは何かを明確に発信する。そして、支援を当たり前だと思わず、感謝する。サイクロンから1年。改めて支援のことを考える一日となりました。

※トップ画像:サイクロン・パム襲来1周年記念パーティー©相川梨絵

※文中画像:バヌアツ・デイリー・ポスト紙 「支援物資廃棄さるー賞味期限切れで。現金支援がベストー」©相川梨絵


この記事を書いた人
相川梨絵フリーアナウンサー・バヌアツ親善大使

1977年6月10日生まれ。茨城県出身。2000年、共同テレビに入社し、フジテレビアナウンス室へ出向。フジテレビアナウンサーとして、主に情報番組、バラエティ番組などで活躍。2006年、フリーに。2012年、結婚を機にバヌアツへ移住、バヌアツ親善大使に任命される。

相川梨絵

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