陸自装備の兵器調達センスは80年遅れ その2
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
陸自の「機関拳銃」の問題はそれだけではない。設計上致命的な問題がある。銃床がないことだ。銃床があれば射手は反動をかなり吸収できるが、銃床が無いために命中精度が悪い。
恐らく有効射程距離は20メートル以下だろう。「機関拳銃」の想定ユーザーである指揮官や対戦車火器要員の主たる「商売」は短機関銃を撃つことではない。部隊の指揮であり、対戦車火器の操作・運用だ。「機関拳銃」の射撃練習に避ける時間は少ない。そうであれば尚更命中は期待できない。
銃床がない短機関銃も存在するが、それは室内戦などの近接戦闘に特化したものであり、野戦用ではない。恐らくは陸自は空挺部隊用にミニマイズしたためだと言いはるだろうが、他国が戦後開発した短機関銃で、空挺部隊などでも使用されているもの、例えばイスラエルのUZIなど多くの短機関銃は折りたたみ式銃床を採用している。
この種の銃床のない小型のサブマシンガンは、軍隊では特殊部隊以外は使用しない。最大のユーザーはギャングやヤクザ、テロリストなどだろう。それ以外では、ハリウッド映画の中で見るくらいだろう。この手のサブマシンガンを撃ちまくって100メートル先の敵をバタバタ倒せるのは、アクション俳優のチャック・ノリスやシュワルツネッガーぐらいだ。
90年台において短機関銃、しかも銃床がないものを空挺部隊というエリート部隊に導入するというのは相当センスがずれている。火器に関して全くの素人、ハリウッドのアクション映画の見過ぎと言われてもしょうがない。どうしても短機関銃が良かったというのであれば、MP-5あたりを輸入すればよかっただけの話だ。
しかも「機関拳銃」の調達単価は約44万円と高価である。M-16の約8倍と高価である89式小銃でも30万円程度だ。それよりも高い。この手の他国のオープンボルト方式の短機関銃の10~15倍ほどの値段だ。随分と陸自は景気がいいものだ。コストの原因の一つは製造方法にある。通常オープンボルトの短機関銃は量産効果を上げるためにプレス加工が多用されるが、「機関拳銃」は調達数が少なく、量産ができないためにコストの掛かる削り出し方式を採用している。工業製品とはいえない工芸品レベルの調達数と、この削り出し方式によってコストが跳ね上がっている。
陸自が調達した「機関拳銃」は僅か300丁にも満たない。「機関拳銃」は本来機甲の戦車クルーなどが使用してきた米軍のお古のM3グリーズガンの後継にも使用されるはずだったが流石に陸幕にも良心のかけらが残っていたせいか、これは取りやめとなって、代わりに空挺用の折りたたみ銃床の89式小銃が使用されている。
その他愚かにも海空自も「機関拳銃」を基地警備用など調達している。弾がどこに飛んでいくかわからない「機関拳銃」を、一機100億円の戦闘機や500億円以上するAWACS(空中早期警戒管制機)の近くで撃てるのだろうか?わざわざ高価で低性能な火器を調達しようとして努力したとしか思えない。
ベルギーのFN社のP90やドイツのH&K社のMP-7など、小銃より一回り小さいが貫通力が高く、ヘルメットや防弾チョッキを打ち抜けるパーソナル・ディフェンス・ウェポンと称される小火器を使用するケースも増えている。これは専用の弾丸が必要だが、威力高く、命中精度も高い。このような火器を候補にいれても良かっただろう。
トップ画像:陸自空挺隊員がもつ89式小銃
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。
2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェン
東洋経済オンライン
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